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 伯父さんは若いころ職を転々としつつ、結婚もしないまま趣味のギターに没頭していた。音楽が仕事になる事もあれば、プラスチック工場で品質管理をやったり、ビルでメンテナンスしたりと、ギターとは全く関係のない仕事に就くこともあった。副業の方が稼ぎがいい事もあれば、本業につきっきりにならなくてはいけない時期もあった。そうした遍歴を経て、伯父さんの父(僕の祖父にあたるが、僕は幼いころに会っただけで顔を覚えていない)が亡くなったとき、財産分与で古い2階建てのアパートを譲り受けた。伯父さんは今まで蓄えてきた財産のほとんどをはたき、地下に二つの音楽スタジオを作り、アパートのリフォームはそこそこにスタジオ付きのアパートとして貸し出しをした。貸し出してすぐに、近くに3つほどある大学の軽音学生がこぞって移り住み、狙いは大成功だった。しかし、問題は入居者の質にあった。大学に入って勉強もせずに音楽に没頭するような輩が、入居ルールを正しく守ることはなかった。あるものは家賃を3か月滞納し、夜逃げした。あるものは部屋でも大音響でアンプを鳴らし、周辺住民から警察を呼ばれた。引っ越しのトラックがやたらと大きいなと思ったら、ドラムセットを部屋に持ち込もうとした女もいて、入居前に敷金礼金を返して追い払った。そのどれもが、伯父さんと一悶着して、謝りもせず去って行った。伯父さんもたいがいルーズだし、ミュージシャンがいかにひねくれた人種なのかは分かっていたが、ことに学生になると想定を超えてひどかったようだ。アパートのスタジオは片方に鍵がかけられ、もう片方は伯父さん専用になった。アパートの売り文句からスタジオ付の文面は消え、冴えない二階建てのアパートと成り下がった。立地が悪い割には入居率は悪くないが、それは伯父さんがアパートで財産を蓄えることを諦めてバーゲンプライスで貸し出しているからに他ならない。

 僕が伯父さんに一週間スタジオにこもってギターの練習がしたい、と申し出ると、嬉しそうに快諾してくれた。掃除と換気をきちっとやる約束で、中での飲食も許してもらえた。僕はキャリーケースとギターを抱えてスタジオにやってきて、伯父さんのエフェクターコレクションを片っ端から弾いていった。音の組み合わせは無限にあり、昨日良かったものが今日には魅力が薄くなったり、まるで思いつかなかった組み合わせが急に舞い降りたりした。ギターの練習なんてまるでしなかった。僕が熱中していたのはギターや機材そのものであり、ギターのテクニック向上や演奏の披露にはほとんど興味がなかったのだ。

 様子を見に来た伯父さんに、正直にそのことを離すと、伯父さんはしょうがないな、といいながらも、そういうのが楽しいんだよな、と顔に書いてあった。


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