ブス専の自覚
ナツミさんと付き合いだしてから、
というよりも気になってから、
僕の美的感覚は、おかしくなっていった。
テレビでアイドルや女優を見ても、何も思わなくなったし。
クラスの可愛い子を見ても、何も思わなくなった。
そういう子達を見て、
あくまで頭の中では、
可愛いなー、美しいなーってのは分かるんだよ。
そしてナツミさんが、凄いブスだってことも。
それでも以前思っていたように、
こんな可愛い子と付き合えたらなーと思わなくなっていた。
ブスであれば、ブスなほど愛おしい感覚に陥り、
なおかつナツミさんが醜い豚顔なため、
可愛い子を見ても、
この子の目を細くして、鼻も上向かせたらいいのになーぐらいにしか
思わなくなっていた。
妄想とかしながら我にかえる度、
僕は、オカシイんだろーなとは思うけど、
もう引き返せなかった。
「そいえば、例の彼女はできたの?」
ユズルが僕に聞いてきた。
「できたよ。」
「まじかよ。それじゃあ、写メ見せて!」
ここで、そう、やすやすとは見せられない。
僕にとっては凄く愛おしくて可愛いが、
一般的には凄くブスであることが分かってるからね。
それこそ、ユズルに見せたら、何を言われるか分からない。
そんな風に、出し惜しみしていると、
「なんだよ。
せっかく相談に乗ってやったのに、見せないのかよ!」
「いや、見せるけどさ、
その、僕の彼女、僕は凄く好きだけど、
一般的には、たぶんブスなんだよ。」
「な~んだ、そんなことか。
大丈夫だよ、見せてみな。
中学生だったら他人の彼女の容姿についてあーだこーだ言うかもしれないけど、
高校生にもなって、そんなこと言わねーからよ。」
と言われたので、
それでも恐る恐るだが、
自撮り棒を使って、公園をバックにして2人で撮った画像を見せた。
そうすると、ユズルは、
「え、これホント? お前の彼女?」
「そうだよ。」
「まじかよ。ブスすぎてワロタ。
よく、こんなんと付き合えるな。」
ユズルは当初の予想通りの反応をしてきた。
「さっきは何も言わないって言ったのに、ひでーな。」
「いや、せいぜい、ちょいブスかな?って思ってたからよ。
それが、ここまでブスだと、やべー、笑えてくる。」
彼女のことをここまで言われて、普通ならキレそうなところだが、
僕も、ナツミさんが凄いブスだってことは分かってたから、
キレはしなかった。
それに、ユズルがここまで笑うなんて、初めて見て、
それはそれで清々しかったし。
「何、付き合ってるってことはキスまでしたの?」
「したよ。」
「ヤベー、こんなブスってゆーか豚と、よくキスできるなぁ。
こんな鼻の穴が丸見えの子とキスしたら、
キスの最中にハナクソとか飛んでくんじゃねーの。
ははははは。」
ひとしきり笑い終わった後で、
「で、お前はこの子のどこに惚れたの? 性格がいいとか?」
「性格はいいとは思うけど、それよりも話してて楽しいところかな。
後は、年上の落ち着いた雰囲気かな。」
「それだけの理由で、こんな顔の子に惚れるもんなんかな?
でも、話してて楽しいってのは、確かに重要か。」
「今日は面白いもん見せてもらって、ありがとな。」
「面白いもんって、人の彼女のことを何だと思ってるんだ。」
「わりー、わりー、とにかく幸せになれよ。」
と言って、ユズルは帰っていった。
帰り際、ユズルが再び笑っているのが見えた。
これだけ笑われたわけだが、
ユズルという友達に、
今まで隠し続けていた自分の彼女を紹介できたので、
何となく気分が楽にはなった。