仲直り
ユズルの言い分だと、
チャンスがあるかもしれないし、
ないかもしれないしだったな。
期待と不安を胸に、
僕はナツミさんが来るのを待つ。
いつものように早目にナツミさんは部屋に入ってきた。
今日も、見事なまでの豚顔でブスなナツミさんだ。
こんな人に惚れるなんて、僕も相当キテるなー。
ナツミさんの方を見ながらニコニコしていた。
「ナツミさん、先週のことは」
と言いかけたところで、
「それじゃあ、数学から始めるわ。」
雑談する暇もなく、勉強モードに。
「まだ時間始まってないよ、ナツミさん。」
「先週、全然できなかったでしょ。
だから、もうやるのよ!」
ナツミさんは怒った表情で、
更に可愛げのないブスとなった。
でも、そんなブスの顔も今の僕にとっては、可愛い。
冷たい態度を取られているのは分かったけど、
それでも僕はムラムラを禁じ得ないでいた。
勉強している間も、
ナツミさんのことをチラチラ見てしまう。
「何、さっきからジロジロ見てんのよ、キモチワルイ!!」
豚みたいな顔したブスなのに、ツンツンしてるとか、
ナツミさん、たまらんっすわ!!
って前向きに考えていたけど、
さすがに、そんな状態が1時間以上続くと、まいってきた。
「こないだのことなんですけど」
「何かあった?」
「こないだの最後のことです。」
「だから、何かあったっけ!?」
「覚えてないんですか?」
「君がふざけてて、全然勉強できなかったってのは覚えてるわ。」
あくまでシラを切る気だ。
先週までとはナツミさんの言動および雰囲気が異なりすぎており、
明らかに、あの事を意識しているとは思った。
その後も、時間は過ぎ、
荷物をまとめるナツミさん。
まさか、このまま何事もなかったかのように、やり過ごすつもりか。
「また来週よろしくお願いします。」
と、他人行儀に話し、
帰ろうと、後ろ姿を見せたナツミさんに、
思いっきり抱き付き、押し倒す。
「ちょっと、やめなよ。」
僕はナツミさんの上に覆いかぶさる。
ナツミさんの顔と僕の顔は、5cmも離れてない。
至近距離で見てみて改めて思う。
ホント、ブスやな、ナツミさん。
でも、こんなブスなナツミさんが愛おしくてしょうがないんだよねー。
僕はナツミさんのせいで、真性のブス専になってしまったのかもしれない。
そうこう考えてるうちに、
ナツミさんが離れる。
「もう、びっくりするじゃない。
じゃあ帰るわよ。」
またまた何事もなかったようにされそうなので、
ドアに先回りして通せんぼする。
「な、何よ、レイトくん?」
「この間は、ごめんなさい。
すっかり僕自身、焦って舞い上がっちゃってて。」
「いや、別にいいのよ。」
「デートもしてないのに突然告白して振られるのは仕方ないと思います。
だから、
今度デートして下さい。それで付き合ってもいいか、決めて下さい。」
「え?」
「お願いします。デートして下さい。」
そして、その場で土下座する僕。
「ちょ、ちょっと、困るよう。顔上げて、レイトくん。」
「返事をもらえるまでは、上げません。」
何分ぐらい、そのままだったろうか、
長い沈黙を破り、
ナツミさんが、
「何かレイトくん、錯覚とか勘違いしてない?
顔を上げて、私の顔をよく見て!
1000人に1人ぐらいのレベルのブスよ。
目は細いし、鼻は上向いてるし、
養豚場の豚とも遜色ないような豚面だし。
私みたいなブスとデートしても、いいことないと思うよ。
いろんな人から後ろ指さされるかもしれないんだよ。」
とは言われたが、
今の僕にとってはナツミさんのブスっぷりが可愛いんだよね。
「僕の気持ちは変わらないっす。
デートして下さい!」
僕の熱意に押されたのか、
ナツミさんは日程も決めて、
デートしてくれることとなった。