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東方回忌閑話  作者: 彩丸
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嫌われ者の日々

時には躾も大切です。家族ですもの

「ようこそ、地霊殿へ! 『この館の主に挨拶に来た』んですか……。私が代理なんだけどな。え? お姉ちゃんですか? どこに居るかサッパリなの」

 いくら久しぶりとはいえ、何があったっていうの? 自由奔放な筈の妹が第三の眼を開いて、ちゃんと応対している? 古明地さとりの居場所が分からない? ……早苗の事といいこの姉妹の事といい、何かがおかしくなり始めているっていうの?

「悟りが目を閉じる事の方がよっぽど可笑しな事なんですよ? それと、こいし」

 いつからそこに居た!? そして二人向き合うなりだんまりなのに、妹の表情がころころ変わってる……。

「すみません。お互いの心が読める様になってからというもの、口を利かなくてもよくなったもので。それにしても『気持ち悪い』はないでしょう? 言語を操る生き物は、特に番であればこの様なコミュニケーションを当たり前としたがるのですから。……『世間話をしに来た』ですか。客室まで案内しますね」

「ああ、手土産にスイカを持って来たんだ。よかったら、皆で食べてくれ」

「ありがとうございます。では、こちらへ」

 ふう……。それにしてもこの屋敷、以前よりも大分ペットが増えたかな?

「そうですね。何せこいしも目を開いたものですから、外からよく連れ帰って来ちゃうんですよ。……まあ、嫌いじゃないから良いんですけどね」

 背中にも目が付いている、ってのはこういう事を言うんだろうね。第三の眼を背後に向けてまで来客の心を見ようって気構えは、流石というべきかなぁ。それも、姉妹揃ってってのは中々に奇妙な光景だわ。

「それで今日は、どういった用件で来たのかしら? まさか、本当に世間話をしに来ただけ、なんて事は無いですよね?」

「えっ!? 違うの?」

「……こいし。もう少し、疑う事を覚えなさい? いずれ酷い目に遭う事になるわよ」

「はーい!」

 お互いの心が見え透いても、相変わらず仲の良い姉妹だなぁ。ってか、なるほど! 第三の眼で見ていなければ、普通の会話になるのか。

「そうですね。では、客室に着いたら視線を外しましょうか? 目を瞑って吊り橋を渡るのは案外怖いものですからね。『今すぐ』って訳にはいかないですよ」

「吊り橋なんてないよ、お姉ちゃん?」

「……そうね。少し疲れているみたい」

 溜息とこれ見よがしな嘘で事を鎮める辺り、やっぱり昔とはどこか違う。少なくとも、私の知ってる古明地さとりじゃあない。

「ええ、まぁ、何処かから生まれ何処かへ還るまでは変わり続けるものですよ。形あるものというのは」

「それにしたって変わり過ぎじゃないかい?さっき、古明地こいしの横に現れた時、その目を閉じたまま来たんだろ?」

 あぁ、成る程ね。そうすれば確かに、私や神奈子でも気付かないわけだ。

「別に悪意があってやったわけではないんですよ? そう、少し疲れていただけ、です」

 見事に論点が逸れたなぁ。厄介者三人を相手にしてるってのに、よくやるよ。

「さあ、中へどうぞ。お飲物は………………、はい、用意してくるので、妹の相手をお願いしますね」

 そういえばこの屋敷、使用人すら居なかったっけか。そこらをいる犬が妖怪変化すれば、少しは役に立つんじゃないかな?

「神奈子、なに頼んだ?」

「お冷」

「私もだ」

「私は玉露!」

 凄い子だな。霧雨魔理沙並に図々しい。心が読める事と汲み取れる事って別物なのね。分かっちゃいたけどさ。

「なぁ、古明地こいしよ。何でお前はその目を開いているんだ?」

 それそれ。姉妹揃って何があったのか。それが聞けるまで、今更帰る気はないよ?

「うーんとね、少し前にお姉ちゃんとケンカしたんだけどね、その時にヒドイの、お姉ちゃんったら。お姉ちゃんが見てきたトラウマぜーーんぶ、私の中に流し込んできたんだから! その時に、全部終わった後で気が付いたら開いてたの。ほんっっっっとーーにヒドイでしょ?」

 あの古明地さとりが? 一体どんな諍いがあって? いやそれもだけど、この無意識の妹に目を開かせる程のトラウマをどうやって? 下手したら自分の心が壊れるかもしれないのに? やっぱり――。

「その割にはお姉ちゃんの事が好きそうじゃないか?」

「そうよ? だって私のお姉ちゃんだもの! どんなにケンカしたって、すぐに仲直りしちゃうもの」

「なんで喧嘩なんかしたの? 思い当たる節とかは?」

 聞いてから少し後悔した。何かを思い出したのか、一瞬顔を青くして、その後すぐに第三の眼を閉じてしまった。もしかして、姉の方が第三の眼を閉じるようになったのも何か関係があるのか?

「あっ! でもね、最近のお姉ちゃんは前より元気そう! 何か良い事があったのかも!」

 嗚呼、分かった。良い事なんかなに一つ無かったんだ。実際にはその真逆。何か目を逸らしたくなる程の何かがあって、どうしようもなくなった結果、第三の眼を閉じたんだ。それによって心にかかっていた負荷が一気になくなって元気になった。おおかたこんなところなんじゃないかな?

「遠からず、ですね。――こいし?」

 姉を見るなり第三の眼開くなんて、シスコンにも程があるでしょ。心なしか目も輝いてるし……。これも一つの愛ってやつなのかねえ。

「立ち話もなんですから、お好きな場所に腰を掛けて頂いて構いませんよ」

「嗚呼、そうさせて貰うよ」

 これ以上、この話は止しておこうかな。きっと、デリケートな部分に触れちゃうんだろうな。

「そうなんですよ。無意識で行動する様になってからというもの、気付いたら人里の本を大量に購入するようになってしまいまして」

 えっ? 嗚呼、神奈子の方か。言われて見れば確かに、前来た時よりも本が増えてるなぁ。

「こんなに本を買っていたら、お金も馬鹿にはならないんじゃないか?」

「ええ。なので普段は、極力古本屋に行くようにしているんですよ」

「もぅお姉ちゃんったらね、色んなお店を歩き回ってるみたいで、一日中帰って来ないの!」

 一日中、か……。この屋敷、いつか廃墟になるんじゃない?

 そういえば今まで気付かなかったけど、二人とも第三の眼を誰も居ない方の壁に向けてたのね。いつからかは知らないけど、通りで会話が少し弾んでる訳だ。

「古本屋と言えば最近、熱心な半妖の子をよく見ますね」

 あの子だ。確かにお金がそんなに有るようには見えなかったけど、盗みを働いてない様で良かった。とはいえ、意外なところで接点が出来たもんだなぁ。

「霧雨さんの所で修行していると言っていましたね。何事においても他の人間に比べて引けを取らない様に見えただけに、素直に感心しましたね」

「確かにあれは、人ならざる、って言葉がピタリと合う子だったね」

「私もその子知ってる! ○○くん! お散歩してたらぶつかっちゃったの! 今考えると、ラブコメみたいだね」

「その話、聞いた事あるねえ。夕飯の買い出しに行っていた時に、何かにぶつかったって。特に心当たりも無かったらしいが、合点が行ったよ」

 何だかんだ評価高いもんだなぁ……。霊夢も結構買ってたし、何より魔理沙が弟子にするくらいだからなぁ……。

「そうだ。それで本題なんだけどさ、あの八咫烏の調子はどうだい?」

 忘れる前に切り出せて良かった。意識無意識を操るってのは、話術の事なんじゃないかと勘繰りたくなるねぇ。

「晩夏に入ってようやく落ち着いて来ましたね。夏は地上で寝ても地底で寝ても変わらないとお空が言っていましたが――」

「地上の方が涼しいよ! ジメジメしないし風が吹くから、とっても涼しい!」

 打ち合わせでもしてるんじゃないかってくらい、話が横道に逸れていくなぁ。会話が成立しても厄介な事には変わりないかも……。

「息災で何より。もう少しお喋りしたら、様子でも見に行こうかねえ」

「ええ、ぜひ」

 何やら含みの有る会話だなぁ。水飲んだら直ぐにでもお邪魔したいよ……。

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