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東方回忌閑話  作者: 彩丸
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今まで縁側に居たもので

無関心というよりは、気にも留めず傍観していただけ

 早苗が世界から消えた。何のことはない、熱病の末に息を引き取っただけのことだ。死ぬ間際、あの子は切なそうな表情で笑っていた。「お二人とも、喧嘩しちゃダメですよ?」とか「もし居場所がなくなったら、霊夢さんの処に行けばいいのです」とか、……。口にするのは自分がいなくなった後の幻想郷の事ばかり。神奈子が手を握って必死に声を掛けていたのを今でも鮮明に憶えている。私も人のことを言えた義理じゃないけれど。結局早苗は、自分のことを何も心配しないまま逝ってしまった。今にしてみれば、私たちが早苗の事ばかりを口にしていたから、それだけであの子の心は安らいでいたのかもしれない。……。神奈子は「早苗も現人神とはいえ、元は人の子だ」と言い聞かせるように言っていた。けれど、そうじゃない。そこじゃないことに神奈子も気付いていたはずだ。早苗がたったあれだけのことで自分の命を諦める様な子じゃないってことに。じゃあ一体、何が早苗にそうさせたのか……。その答えが欲しくて私は、そして多分神奈子も博麗の巫女の社に身を落ち着けることにした。


「れいむ~、スイカ食べようよ、スイカ~」

「ご利益のない神様に捧げる御供え物なんて無いわよ。ほら、悔しかったら神奈子を少しは見習ったら?」

 霊夢が指差した先で神奈子が若い青年と談話していた。かつての軍神は今や、賭場や口喧嘩にまで口を挟む、世話焼きな万事屋と成り果てていた。別にそれは悪いことじゃないし、強かで結構。ただ、祟り神の私にどう成り下がれというのだろう。厄神はどうやら事足りているようだし、それ以上もそれ以下もあったもんじゃない。いっそ、神奈子の真逆の事をやれば信仰も少しは集まるだろうか。……、まるで私が負けを認めたみたいで嫌だなー。

 それにしてもあっついな~。妖怪の山だったら川も近くて良かったのになぁ……。そういえば、最近地底の妖怪たちはどうしてるかなぁ。早苗が居なくなってから色々ゴタゴタしてて、見に行ってなかったなぁ。

 はぁ……。

「ねぇ、神奈子。さっきの子は何の祈願に来てたの?」

「恋愛成就みたいなもんだったよ。全く……。神頼みしてる暇が有るあら、その時間を使って男を磨くよう言ってやったさ」

「ふ~ん」

 相変わらず、ちゃんと神様してるなー、神奈子は。下らない相談話に三十分も付き合って、挙句、遠目にだけど、あの子が納得して帰っていく様なアドバイスまでしてあげて。終いには絵馬描かせてお賽銭までさせたんだから、立派なもんだね。そりゃ、私にスイカも分けてくれるわけだ。

「偉くなったもんだね、神奈子も」

「はぁ?」

「いやいや、嫌味とかじゃなくってさ。誰の支えも無しに信仰を集められるようになったなあって。……そういうこと。オーケーイ?」

 そんな呆れた様な顔しなくたっていいじゃない。折角褒めてあげたのに。そして、さり気に隣に座ろうとすんな。

「そう言えばさっきの子さ」

「さっきの子、人間じゃないわね。でも、人里に早苗みたいな人間っていたかしら?」

 言葉を被せないでよ。わりとマジで。

――って、スイカじゃん! 三切れあるって事は、私も食べていいって事? これも偏に神奈子様のお蔭だわ~。

「はい。喉も乾いただろうし、差し入れよ」

「似た様なもんだけど、少し違うみたいだね。半人半妖、かな? 魔法の勉強しつつ、家業を手伝いつつで中々捗らないって言ってたねえ」

 それで色恋に感けてたら、余計時間無いだろうねえ。ただでさえ、人の子は時間に追われる身だってのにね……。

 それにしてもこのスイカ、どっからくすねて来たんだろう? とてもじゃないけど、この神社にそんな余裕が有るとは思えないしねえ。まぁ、いっか。きっと、どっかの神様が捨ててってくれたんだ。拾わなきゃ神様の名が廃るもんね。

「遠慮や躊躇いってものが無いのね、アンタ」

「腐らせるのも勿体無いでしょ?」

 二人して呆れた様な顔をするな! まったく……。失礼しちゃうわ。そういえば……。

「そういえばあの子、大分前からウチらの所にもお参りに来てた子だよね?」

「そうだよ。丁度二年位前から来てたんだけど、聞けばあの子、その頃から勉強を始めたんだってさ」

 二年前、ねぇ……。今頃早苗はどこにいるのやら……。

…………。

「もしかしてあの子、早苗が居なくなった事と関係してる?」

「何を、藪から棒に」

「だってあの子、毎日早苗の看病に来てたじゃん。葬儀では涙一つ見せなかったけど、能々考えればそれって、魔法を勉強してた事と関係してんじゃないの?」

 溜息を吐かないでよ。そんな遠い目をしないでよ。長話は嫌なんだって。

「遠からず近からずってところかな。初めは早苗を喜ばせたくて始めたらしいんだ。ただ、そうしていく内に不老不死や時間操作なんて外道を考えるようになったらしくてさ。そんな矢先の事だったらしいよ。早苗が死んだのが。それ以降、一層魔法に傾倒するようになったらしいんだ」

「……確かに関係あるって言えばあるけど、やっぱりあの子でもないのか……」

「それが、そうでもないみたいなんだよね」

「へぇ~。あの早苗が、あんな子を好きになったって言うの?」

 私より先にそれを言わないでよ、霊夢。薄々知ってはいたけどさ。それにしても、それとこれとの関係は無いんじゃないの?

「そんなところだろうね。――早苗も結局は人の子だったんだ。誰かを好きになって、その人の為に生きてみたくもなるんだろうね。全く、私には度し難い代物だよ」

「同感ね」

 それをアンタが言っちゃダメでしょ、霊夢。曲がりなりにも人間のアンタが。

「早苗は多くの人からの信仰よりもあの子からの愛情を欲する様になった。結果、神に成る道が無くなり、ただの人間になってしまった。……だから、あんな程度の疫病でも命を落とす事になった。大方、そんなところだよ」

 嗚呼。だからあの時、神奈子はあんな事を言ったのか。……人の子、か……。これじゃあ、誰も恨むに恨めないじゃない。

「想い人に想われながら死ねたんだったら、早苗もきっと幸せだったんじゃないの?」

「だろうね。私や諏訪子からの信仰すら受け取らない程だったんだ。今頃きっと、三途の河原で死神と戯れてるんじゃないかな。あの子が迎えに来るのをさ」

 …………。今度……、お墓に詣りに行こう。神奈子と、あの子を連れて。それできっと、このモヤモヤした気持ちも晴れる気がする。

「ふ~ん……。難しすぎて、私には分かんないや」

「……ははっ。珍しく、同意見だよ」

 ……。とりあえず、スイカをもう一欠けだけ貰おうかな。

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