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一発ネタ

守銭奴は婚約破棄も金にする

作者: 涙目
掲載日:2026/09/12

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

「リリアーヌ。僕は君との婚約を破棄する!」


王立学園の大広間。


大勢の生徒が見守る中、私の婚約者である第一王子殿下は、堂々とそう宣言なさいました。


隣には、涙を浮かべた令嬢。


なるほど。


噂の『心優しいエミリー嬢』ですわね。


「君のように金にしか興味のない、心ない女性ではなく、僕はエミリーを選ぶ!」


「そうですか」


私は静かに頷いた。


「では、慰謝料を請求いたしますね」


「……は?」


殿下が間の抜けた声を上げた。


「ですから、慰謝料です」


「な、なぜ君に慰謝料を払う必要がある!?」


「当たり前でしょう?」


私は扇子を閉じた。


「私と殿下の婚約は、私たち二人だけの恋愛関係ではありません」


「……」


「両家の合意によって結ばれた契約です」


私は淡々と続ける。


「それを殿下が、婚約者である私の目の前で破棄すると宣言なさった」


「それは――」


「しかも」


私はエミリー嬢を見る。


「こちらの女性と恋仲になったことを理由に」


「…………」


「婚約者がいる身で堂々と浮気を宣言したうえ、その責任まで私に押しつけるおつもりですか?」


「違う!」


「何が違うのでしょう?」


「僕は真実の愛を選んだだけだ!」


「それならなおさら結構です」


私は微笑んだ。


「真実の愛を選ぶ自由くらい、私にも認めていただきたいものですわ」


「……何?」


「私はお金を選びます」


「き、君は……!」


殿下が顔を赤くする。


「やはり君は金のことしか――」


「ええ」


即答した。


「何か問題でも?」


大広間が静まり返る。


「愛は人の心を満たします」


私は指を一本立てた。


「ですが、お金は人の生活を満たします」


二本目。


「そして契約を破れば、お金が動きます」


三本目。


「非常に分かりやすいですわ」


「…………」


殿下が言葉を失った。


私は鞄から書類を取り出す。


「こちらが慰謝料の請求書です」


「もう用意していたのか!?」


「殿下が婚約破棄を宣言なさる可能性は、以前から検討しておりましたので」


「僕を信用していなかったのか!?」


「ええ」


「即答するな!」


まあ、当然ですわ。


殿下は以前からエミリー嬢と親しくしていましたもの。


私は証拠も保管してあります。


「こちらは婚約破棄によって発生する違約金」


一枚。


「こちらは私の名誉を毀損したことへの慰謝料」


二枚。


「こちらは婚約者のいる身でエミリー嬢と交際していたことによる損害」


三枚。


「そしてこちらは――」


「まだあるのか!?」


「もちろんです」


私は微笑んだ。


「学園の大広間で私を『金にしか興味のない女』と公言なさいましたでしょう?」


「そ、それがどうした!」


「営業妨害ですわ」


「営業!?」


「私、将来は商売をする予定ですので」


「そんな理由で!?」


「そんな理由だからこそですわ」


私は請求書を差し出した。


「お支払いくださいませ」


「…………」


殿下は震える手で書類を受け取った。


「こ、こんな大金……」


「あら」


私は首を傾げる。


「真実の愛というものは、お金では買えないのでしょう?」


「…………」


「でしたら、こちらのお嬢様に愛していただけばよろしいではありませんか」


エミリー嬢の顔が引きつった。


「え……?」


「殿下には、愛する方がいらっしゃる」


私は立ち上がる。


「私は、お金をいただく」


「…………」


「何も問題はありませんわね」



---


婚約破棄は、無事に成立した。


慰謝料も、無事に支払われた。


そして私はというと――。


「お待たせいたしました」


「ありがとう」


街の劇場。


私は支配人から帳簿を受け取った。


「今月も満員御礼です」


「そう」


「連日、大盛況でございます」


「結構なことですわ」


私は客席を見下ろした。


満員。


老若男女を問わず、大勢の観客が舞台を見つめている。


舞台上では、一人の愚かな王子が、婚約者を捨てて別の令嬢を選ぼうとしていた。


『僕は真実の愛を選ぶ!』


観客から笑い声が起こる。


『では、慰謝料を請求いたしますね』


さらに大きな笑い。


「……ふふ」


私は口元を隠した。


この劇。


実は私が原作を書いた。


もちろん、実話を多少脚色している。


多少――だ。


「いやぁ、しかし大した人気ですな」


支配人が嬉しそうに言う。


「原作者としても鼻が高いでしょう」


「そうですわね」


私は満員の客席を眺めた。


観客が笑う。


拍手が起こる。


そして、そのたびに劇場の収益が増えていく。


私は満足げに微笑んだ。


「金のネタになるお話を提供してくださり、ありがとうございます、殿下」


こうして私は、婚約破棄によって――


慰謝料と劇場の収益、その両方を手に入れた。


愛を選んだ元婚約者が、その後どうなったか?


そんなことは知らない。


ただ一つだけ。


次回作の題材には、困らなさそうですわね。

お読み頂き、ありがとうございます。

皆様も婚約破棄されて高額請求を受けないようにお気を付けくださいませ。

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