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#7 平均台の上で、天井のトラバーチンを眺めている。
(2026/2/5)
「ロー」の足音が聞こえる。
そいつはいつも、私が無敵のスター状態で走り抜けている時に、不意に肩を叩いて入り込んでくる。
今は、私の背後二、三歩のところを、ピッタリと、静かに着いてきている。
まだ、私は元気だ。少なくとも、立っているつもりではいる。
けれどふと足元を見ると、昨日まで何人も並んで歩けるほど広かった道幅は、いつの間にか平均台のように細くなっていた。
渡りきってもいいし、落ちてもいい。
これは競技ではないし、ここで人生が終わるわけでもない。そんなことは、頭では分かっている。
けれど、昨日まで私の帆を膨らませていた「やる気」という風が、見る間に萎んでいく。
……あぁ、またこれなのか。
抗う術はない。
気がつけば私は、昨日と同じ寝巻きのまま、シングルベッドの上に横たわっていた。
視界にあるのは、ただ、天井。
どこまでも不規則に続く、トラバーチンの虫食い模様。
それを、ただ、眺めている。
熱狂は去り、四辻に捨てた厄は、いつの間にか私の枕元に戻ってきたのかもしれない。
今はただ、この細い平均台の上で、再び道が広がる時を待つしかないのだ。




