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#5 スター獲得の弊害、あるいは「アキラ100%」になれない私の生活

(2026/2/4)


久しぶりに、重力に従って深く眠れた。


 起きたら昼だったけれど、今の私には「今日をクリアした」という確かな達成感がある。自分に甘々、イージーゲーム。そう思わなければやっていられない。


 私の心身には、極端な二種類のステータス画面しかない。


 一つは「ハイゾーン」。文字通り、スターを獲得したマリオのように、寝食を忘れて仕事や創作にフル回転する無敵モード。


 もう一つは「ロー」。トイレに行くのすら億劫になる、強制的な省エネモード。


 その中間にあるはずの「ニュートラル」な状態は、私の人生にはほとんど存在しない。



 今は明らかに「ハイ」の期間だ。頭の中ではスター獲得時のBGMが鳴り響き、一週間で六作もの小説を書き上げさせた。けれど、この無敵状態には深刻な弊害がある。


「生活」が、疎かになるのだ。


 私は元々、生活を愛していた。掃除も料理も、日常のすべての動作が好きだった――そう、過去形なのだ。


 いつからか、食事も洗濯も、私にとっての「生活」ではなくなってしまった。一人暮らしのシンクには数週間前の醤油が乾き、黒い結晶となって積み重なっている。かつては朝からトンカツを揚げるほど料理を楽しんでいたのに、今の私にとって台所に立つことは、ただの「作業」に成り下がった。


 罪悪感はある。けれど、「やりたいこと」の波がすべてを押し流すハイゾーン期には手が回らず、優先度が生活に戻った頃には、身体が動かないロー期がやってくる。

 


 スターの音楽が止まった瞬間に、マリオはただのクリボーにだってやられてしまう。


 私に必要なのは、戦闘BGMでも追悼BGMでもない。ただの、何の変哲もない「街中のBGM」なのだ。


 六、七割の力で満足に暮らせる調整力。ぼんやりした時間に優劣をつけない、平熱の余白。

 

 アキラ100%が60%になったら芸として成立しないだろうけれど、私は芸人ではない。アキラじゃないのだ。一〇〇か〇かでしか生きられないのは、あまりにも疲れる。


「上がり下がりが楽しいのは、シーソーだけだよ」


 創作の熱に浮かされ、過呼吸になり、四辻に厄を捨てながら、私は私の乱高下する生活を眺めている。


 いつか、このシンクの結晶を洗い流して、平熱のスープを作れる日が来るのだろうか。

 スターの輝きが消えた後の、静かな街のBGMを聴きながら。

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