#2 焼き芋と卵子、あるいはCloud化したご先祖様について
(2026/2/3)
カタルシスについて、こねくり回して三時間。脳が知恵熱を出し始めた頃、実家から荷物が届いた。
私の実家(正確には母の実家)は青果店を営んでいる。月イチで届く野菜や果物の直送便。それを受け取る時、私はいつも心の中でバンギャのごとき激しいヘドバン――もとい、腰を要とした深々たる扇状の会釈を繰り出す。ありがたや、ありがたや。
今回の仕送りには、一際厳重に包まれた「異質なもの」が紛れ込んでいた。
焼き芋だ。
小ぶりなそれが五つ。私は焼き芋が大好きだが、それ以上に七十六歳になる祖母が、腹を壊すまで食べてしまうほどの焼き芋狂いなのだ。その祖母が、予約一週間待ちという地元の名店から、執念の「引き」で勝ち取った逸品である。
蜜が溢れすぎず、けれど砂糖と見紛うほどの甘さ。上質なスイートポテトを彷彿とさせる火加減。それを噛み締めながら、私は遺伝の恐ろしさを思う。祖母の飽くなき食への探究心は、確実に私の血を流れている。
そこへ、五十五歳になる母からLINEが届いた。
「二月の連休、妹も帰ってこれるって!」
文末の弾けるような笑顔の絵文字に、母の歓喜が滲む。レアキャラである妹がノータイムで返信をよこしたことが、よほど嬉しかったのだろう。
母はスピリチュアルなことが好きだ。今回の帰省でも、二つの計画を立てているらしい。
一つは、お墓参り。
大阪に住む私は、普段なかなか墓前に立てない。だから節目節目には、ご先祖様がCloudにアップロードされた姿を勝手にイメージし、空に向かってWi-Fiを飛ばすような「遠隔お墓参り」で済ませていた。雲の上のサーバーに鎮座するお墓。少々の罰当たりを感じていた身としては、この帰省で直接アクセス権を得られるのはありがたい。
そして二つ目が、妙に興味深い。
「女の子の卵子は、母方の祖母が生まれた時に、既にその形の一部ができているらしい」
だから、祖母が生まれた場所の神社にお参りすると、女性特有の悩みなんかに「なんかいい」らしいのだ。
鍵を失くして二階の窓から実家に侵入したり、飲みすぎてトイレの横にもんじゃ焼きを生成したりするような、相変わらずな母である。けれど、その信心深さのかさを借りて、神仏に参るのも悪くない。
私の卵子も、妹の卵子も、数十年前にあの地で密かに産声を上げていたのかもしれないのだから。
「育んでくれて、ありがとね」
Cloud化されていない、確かなルーツへのお礼参り。
そんなことを考えながら、既に二つ目の焼き芋を平らげてしまった。
祖母から母、そして私へ。
受け継いだのは健やかな卵子か、それともこの「底なしの食欲」か。
どちらにせよ。
焼き芋、最高に「まいうー」でした。




