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21/26

#20 父が帰ってくる日、私は消火栓を握っている

(2026/2/11)


今日は、父からの告発のようなLINEで目覚めた朝――いや、昼だった。


昨晩、新作小説『名前のない感情の解剖学』を書き上げた。

寝る間も惜しんで没頭し、完成の余韻に浸りながらうとうとしていたところに、通知音が鳴った。


経験上、父からの連絡はあまり良い知らせではない。


地元・愛媛での定職を辞め、突飛とも言える県外就職をしてみたり(職種は同じだが)、かと思えばそれも辞めたいと言い出したり。

自由、と言えば聞こえはいい。母と妹は呆れ、嫌悪も抱いているようだが、私はどうしても嫌いになれない。


いちばん人間らしい人だと思っているから。


母と離婚して、もうすぐ一年。

どんな内容だろうと恐る恐る画面を開くと――


今の仕事を辞めて、また愛媛に帰る決断をしたらしい。

しかも今回は冗談ではなさそうだ。


父の人生だ。好きにすればいい。

ただ、ひとつだけ引っかかる。


母には伝えたのか。


離婚後も、何食わぬ顔で母の生活圏に現れかねない父だ。

プライバシーという概念がすり抜けていくタイプでもある。


返答は、まだしていない、だった。


絶句する母の姿が目に浮かぶ。

文字通り、思考停止するだろう。


母は強い人だ。

けれどその強さは、「自分は大丈夫」と言い聞かせることで成り立っている、ひび割れた盾のようなものだ。

今回の件は、その盾を貫通する気がしてならない。


同居すると決まったわけではない。

しかし、しないとも言っていない。


娘の私に父の真意は分からない。

火の粉は熱い。できれば被りたくない。

でも、火花を間近で見てみたい自分もいる。


帰ってくるな、と強く願う母。

自分の意思を尊重したい父。

その板挟みになるのは御免だ。本当に。


それでも、どう展開するのかは気になってしまう。

古来、火事は見に行くものじゃないか。


我ながら嫌な性格だ。

醜くて、そして少し愛おしい。


今度の帰省は波乱含みになりそうだ。

不謹慎にも、少しだけ胸が高鳴る。


オラ、ワクワクすっぞ。


消火栓のホースを握って、

対岸で待っている。


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