#14 「誰かと話したい」のに、三秒で電話を切りたくなる理由
(2026/2/8)
ふとした空虚感に耐えかねて、誰かの声が聴きたくなる。
そうだ、母に連絡してみよう。そう思い立ち、LINE電話のボタンを押した。
数コールの後、聞き慣れた母の声が耳に届く。けれど、会話が始まった瞬間に、私の耳は「地獄」へと変貌した。
母の背後で鳴り響く、テレビの微かな雑音。
それと重なり合うように、スマートフォンのYouTubeから漏れ聞こえる、選挙速報の急き立てるような声。
そして、その中心で朗らかに響く母の肉声。
これら三つの音が混ざり合い、凶悪な不協和音となって私の鼓膜を叩く。
正常な時なら「賑やかだな」と笑い飛ばせるはずのものが、今は鋭利なノイズとなって私の思考を侵食してくるのだ。聞き続けていたらパニックを起こしてしまいそうな、得体の知れない恐怖。
結局、二分も経たずに通話を打ち切った。
自分からかけておきながら、一方的に逃げ出す不義理。母に余計な心配をかけてしまったという後悔だけが、静かになった部屋に澱のように溜まっていく。
私は、聴覚過敏というわけではないのだろう。
普段ならこれくらいの騒音は何とも思わない。ただ、「ロー」な時期の自分にとっては、情報の奔流を受け止めるフィルターが、砂上の楼閣のように脆くなっているだけなのだ。
何より辛いのは、自分の不快感を理由にして、他人の行動を制限したり、不本意な断絶を生んだりしてしまうことだ。
これまでも体調を理由に周囲を振り回してきたという自覚があるからこそ、これ以上、誰かを自分の不調に巻き込みたくない。そう願っているのに、防衛本能は無慈悲に「拒絶」を命じてくる。
望んでいるのは「交流」なのに、選ばざるを得ないのは「隔離」。
「いやぁねぇ……」と独りごちながら、私はこの矛盾と和解できる日を、静寂の中で待っている。




