有栖、懐中時計を持ったウサギに頼み込む
家に着いて荷物を置くとすぐ、有栖は再び外に出る。そして曲がり角をいくつか曲がった先にある、煙突が特徴的な白い家のドアを叩いた。
「もし、ウサギさんいるかしら。私よ、有栖よ。」
どんどんと叩き続けていると、室内がにわかに騒がしくなる。有栖は叩くのをやめ、スカートの裾を直してじっと待つ。数秒もすれば、「はーい」という声と共に扉が内側から開けられた。
「有栖、どうしたんだい。こんな時間に。」
「ごめんなさい。けど、どうしてもお話したいことがあったの。」
少し眼鏡がずれ、シャツの襟が曲がった状態で、家主のウサギは姿を現した。困惑した表情を浮かべながらも、有栖を家の中へと招いてくれる。有栖はお礼を言いながら、靴を脱いでウサギと共にリビングへと向かった。
「それで、話って何だい?」
アンティーク調のおしゃれでふかふかのソファに身を沈めた状態で、ウサギが声をかけてくる。有栖はソファの誘惑にあらがうように、背筋をピンとしていた。
「あの、女王のパーティーについて聞きたいの。」
「女王のパーティー?」
「ええ、大学の人から話を聞いて気になって。ウサギさんは、女王陛下の下で働いているでしょう?だから何か知っていると思ったのよ。」
「ああ、もちろん知っているとも。なんたってパーティーを取り仕切るのは僕の役目だからね。具体的には何が聞きたいんだい。」
「えっと、どうやったら私でも参加できるのかしら?」
「参加?有栖が?」
「ええ、やっぱり難しいかしら。」
「うーん、そうだなぁ。パーティーには一般の人でも参加できる枠が少しだけあるんだ。だからそこの枠には入れれば、有栖でも参加できるよ。」
「本当⁉けど、その枠ってどうやって決まるのかしら?抽選、それとも先着順?」
「ああ、本当さ。その枠は毎回、応募者の中から抽選で選ばれる。だけど、倍率がすごく高いんだよ。数千とか数万の中から数人だからね。」
「そうなのね…。なら応募しても一生当たらないかもしれないわ。」
有栖が落ちこんで俯いていると、ウサギが少し緊張した面持ちで話し始めた。両手の指先を遊ばせながら、耳としっぽがせわしなく動いている。
「あー、えっと、その、有栖。もし本当に参加したいなら、参加してみる?」
「え、参加できるの?」
「さっき言っただろう。僕がパーティーのすべてを取り仕切ってるって。くじを引くのも僕だから、有栖を引いたことにすればいい。誰も気づかないよ。」
「本当に?ありがとう、ウサギさん。今度お礼のキャロットケーキを持ってくるわ。約束よ。」
ぴょんぴょんと飛び跳ねそうなほど喜ぶ有栖の様子を見て、ウサギも笑顔を浮かべる。その後は、ウサギが作ったクッキーを二人で食べながら、お互いの学校や仕事について話す。やがて窓の外から見える空が完全に日が完全に沈んだため、小さなお茶会は解散となった。




