第3話 虚弱美少女流詰め込み学習
「……ふぅ、……ごちそうさまでした」
俺は余りに甘い、甘さを超えた甘さのパンケーキを何とか胃袋に収めきり、手を合わせた。
目下最大の敵はその超濃密シロップによる胸焼けである。
子供の頃にデカい筒に入ったアポロやらマーブルチョコやらを一気食いした時ですらこれほどまでにはならなかった。
これは流石に虚弱美少女ということを差し引いてもなおあのエッグいパンケーキが悪いだろう。
取り敢えずクレームがてら食器を下げに行こうと思ったが、俺はここでまた大きな障壁が立ち塞がっていることに気がついた。
そう、生憎にも今の俺はキッチンの場所どころかこの建物の大きさすら把握していないお子様なのだ。
恐らく探索には大層望ましくない時間を要することだろう。
多分log2x+1が最大探索回数になるくらい大変望ましくない探索になる気がする。
「でもやっぱり総当りしか……」
食器をお供に大冒険を覚悟した時、ピコンなんて音を立てて、視界のど真ん中に何かディスプレイのようなものが出現した。
それは実態というよりもホログラムのようで、案の定、手を伸ばして視界の中で重なっても触れている感覚はない。
しかし、妙に馴染むそれに俺はハッと気がついた。
「えっと、戦闘系じゃなくて……技能じゃなくて……あ、ありました」
食器を割らない程度の丁寧さでほっぽりだし、俺は机の上に積んだ幾つかの紙袋を調べ、その内の1つに当たりをつけた。
手に取った紙袋に貼られた付箋は「便利系」。
手前から五十音順に並べられた説明書をバーっと流しながら捲り、「ち」のところ……じゃないってことは……。
「……!これだ!」
「ま」のところに入っていたそれを取り出し、俺は現状と照らし合わせ始める。
そのスキル名は「マッピング」。
説明書によると、周囲の地形とか持ってっても法律とか倫理的に問題ないアイテムとか勝手に入って良い、俺が自由に出入りする権利を持っている施設とか建物の見取り図なんかを纏めて表示してくれるスキルらしい。
その見た目は殆どゲームで見るようなアレであり、ビーコンみたいなピコンピコンという音を立てて俺の現在地を示すアイコンが部屋の中央に鎮座している。
説明書曰く閉じるときは「閉じろ!」と念じれば良いとのことだが……
「あ、ほんとに閉じました」
で、もう一度開く時は……。
「えっと……「左手の中指と薬指でピース」……?」
えっと、えっと……いや意外とムズいな……?
何とか小指が上がらないように右手で押さえながら指を作ると、またピコンという音を立ててマップが開く。
閉じろと思えばまた閉じるし、ピースすればまた開く。
なるほど、ちょっと面白い。
「でも、なんでこんな変なピースなんですかね……」
そう思って説明書にもう一回目を通すと、一番最初のタイトルが「No.0192 マッピング」。
あ、2進数。
そんなことはさておき、なんとこのマッピング、場所を指定すればナビまでしてくれる高性能。
俺はキッチンを指定し、気を取り直して食器を下げに行った。
◇◇◇
「ごちそうさまでした、ノア」
「あ、ちゃんと食べ切ったんですね。一乙パンケーキ」
キッチンで洗い物をしていたノアにパンケーキの乗っていたお皿とお盆を手渡すと、彼女は天然か、或いはわざとか、少し驚いたように目を見開いてみせた。
仮にも主人にこれとはこの人だいぶアレというか……残念な美人というか……。
「いや、それにしても名前酷すぎませんか?」
「文句言うなら次はシロップ倍増ですよ」
「止めて下さい、ほんとに私も乙っちゃいますから」
「じゃあ遺産は私のものですね。ありがたく使わせていただきますので」
割と表情の変化に乏しい故に、彼女の言葉が冗談かどうか分かりにくい。
いや、冗談だとは思うんだが……というか冗談であってくれ……。
そう俺が心の片隅で願っていると、遺産の使い道を考えている彼女の隣にポンと「0」という数字が小さく浮かんだ。
「……?どうかしましたか?」
「あ、いえ……」
「100」に変わった数字とともに彼女は首を傾げる。
どうやら薄い本よろしく、
そしてその後の適当な会話によって何となく法則性も見えてきた。
恐らく出てくる数字は0〜100の範囲。
ブラックジョークを吐いている時は0とか底に近く、普通に俺に話しかける時は100とか天辺に近い。
一体何なのかはあまり分からなかったが、取り敢えず新しいスキルっぽいことは間違いなかった。
「そうだ、あと二時間くらいしたら出かけますから、それまでに準備しておいて下さいね」
「良いですけど……ちなみに何処行くんですか?」
「あんなに楽しみにしていたのに忘れちゃったんですか?魔法学校の入学面接ですよ。保護者役は私が務めますから」
魔法学校……魔法学校……!
なるほど、ここに来て随分と心躍る単語が出てきた。
俺は胸を高鳴らせ「分かりました」と首を縦に振る。
「ではよろしくお願いしますね」と彼女はまたカチャカチャと音を立てながら食器を洗い始めた。
俺は少し軽やかな足取りで部屋に戻った。
◇◇◇
部屋に戻るなり、俺はさっきのスキルについて調べ始めた。
さっきは気が付かなかったが、紙袋の中にはスキル名とその説明書の場所を一覧できるプリントが混ざっており、俺はその中でさっきのスキルっぽいものを探していく。
「えーっと、えーっと……あ、これですかね?」
そして見つけたのは「No.0627 嘘発見器」というスキル。
人の発言について、その信用度、要はどれくらい本当のことを言っているかというのを0〜100の101段階で表してくれるというものだった。
オンオフは左手の親指、薬指、小指、右手の小指、人差し指、親指を同時に上げるというもので中々に面倒くさい。
しかし流石に普段から発動しておくとやかましいことこの上なくなってしまうのは目に見えていたので流石に切っておこう。
使うとしてもババ抜きの時くらいかな。
「ってことは……ノア、やっぱり良い人なんですかね?ブラックジョークの信用度0ですし」
ついでに面接の前に何か良さげなのを手札に入れておこうと、続けて俺は他にも目ぼしいスキルを探し始めたが、その途中であることに気がついた。
プリントの量といい、スキルのNo.といい、多分だがスキル1000種類くらいある。
ポケモンと同じくらいある。
そして、俺はその全てのオンオフとか暗記出来る自信がない。
なんなら指をちゃんとやれる自信もない。
とはいえ説明書を持ち歩くのは現在12歳の虚弱美少女である俺には文字通りに荷が重い。
「うーん……どうしましょうか……」
そんな中で、便利系とかその他辺りであんまり世界観には合わないけど妙に見慣れた文字が目に留まった。
「いや、その概念あるんですか……?」
思わずつぶやきながら、俺は1枚のプリントを手繰り寄せる。
「No.0466 データベース」。
効果は一度触った文書とかを保存して何時でも読めるようにし、その上内容の検索まで出来るというもの。
もし現代で使えていれば一人海賊版サイトといった感じで無法出来そうなスキルだが、幸か不幸かここは異世界。
違法ダウンロードされて商業的に困るような漫画雑誌は販売されていない。ちなみに左手の人差し指、中指、小指、右手の小指、人差し指、親指を上げるとオンオフ出来るとのこと。これまただるい感じの指の形である。
にしても「スキャン」とか「図書館」とかもっとそれっぽいのにしておけばいいのに……。
「いや、でもこれがあれば……!」
俺は紙袋に並んだ説明書の背を片っ端から撫でた。
視界の端には下向きの矢印みたいなものが出てきて点滅を繰り返している。
そして点滅が終わった瞬間、画面全体を大量の通知が埋め尽くした。
『「No.0001 全武器適正S」をダウンロードしました』
『「No.0002 全属性魔法適正S」をダウンロードしました』
『「No.0003 魔獣使役適正S」を……』
『「No.0004……」』
『「No.0005……」』
どこかのアフィカスにでも使われたのかと思うくらいの、とてつもない量の通知。
物理的に視界を埋め尽くしてくる分、そのやかましさも尋常ではない。
視界の端に「通知OFF」という表記があるのを見つけたその瞬間、俺はその指示通りに両手を交互にグーパーした。
「……あ、やあっと収まりました……!!」
ダウンロードの負荷もあり、俺は思いっ切り床にぶっ倒れる。
ペットボトルのジュースを飲みすぎた時みたいな、あのだるさと頭痛が合わさったような感覚が頭を襲った。
まだ2時間あると言っていたし、少しくらい寝てもバチは当たらないだろう。
「……てか、神も指で2進数やるんですね……」
そしてちょっとした親近感を覚えながらも、俺の意識はミドルペースで遠のいていく。
12歳の虚弱美少女の身体は、案の定疲れるのだ。
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