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自由に婚約破棄していいの? 聞いてないよ!

作者: 満原こもじ

 ヨスト子爵家の長女であるわたしエメリーンは、一応婚約しています。

 お相手はノースウッド伯爵家の嫡男アラン様。

 楽しくお話しできる素敵な令息なのですのよ。

 しかしわたし達の婚約には付帯条項があるのです。


『一八歳になるまでは補償が発生することなく、双方が婚約を任意で解消することができる。これは双方の同意が必要でなく、一方からの要求で可能である』


 というもの。


『お互い一八歳になるまで相手がいなかったら結婚しようね』


 という意訳が可能です。

 どうしてこんな婚約がなされたか?

 もちろん理由がありまして。


 うちヨスト子爵家は領地の特産品と交易で富裕なのです。

 嫁に出るわたしは、財産目当てで狙われる立場なのですね。

 格上の断れない家からムリヤリな縁談がくると困る、という考えがあったのです。


 また先方のノースウッド伯爵家は過去に王妃や宰相を輩出した、隠れなき名家でありまして。

 うちと理由は違っても、やはり嫡男アラン様の婚約者を巡って外野がうるさくなりそうという事情がありました。

 そこで仮の婚約をしておけばいいということになったのです。

 ノースウッド伯爵家でしたら以前より親しい間柄ですので。


 アラン様とわたしの婚約は幼い頃に交わされました。

 そしてこれまでは特に問題ありませんでした。

 しかしアラン様もわたしも一六歳ですからね。

 不都合な点も出てくるのです。


          ◇


 ――――――――――アラン・ノースウッド伯爵令息視点。


 エメリーン・ヨスト子爵令嬢は僕の婚約者だ。

 婚約した時のことはあまり覚えていない。

 ただ幼馴染だったから、昔から仲が良かったことは覚えている。

 将来結婚するんだなあと、ぼんやり思っていた。


 ところがエメリーンはとんでもない美少女に成長した。

 子爵夫妻のいいとこ取りした感じ。

 たまたま王立学院の学園祭でエメリーンが学院に来た時、第二王子殿下が目に留めて、あれは誰だって聞いてたくらい。

 僕の婚約者ですって紹介したら、周りからすごい嫉妬の視線を浴びた。


 あんな得意な気持ちになったのは初めてだな。

 同時にエメリーンが淑女学校生でよかったとも思った。

 学院生だったらメチャクチャモテたと思う。

 エメリーンを守り大事にしなければと、気合を入れ直した。


 エメリーンの特筆すべきところは美しさばかりじゃないんだ。

 性格だってすごくいいの。

 いつも柔らかい微笑みを浮かべていて人を嫌な気分にさせることがないから、エメリーンといると楽しい。


 時々お茶会したり、ピクニックや観劇を楽しんだり、うまくやってきていると思っていたのだ。

 父上からこんな話を聞かされるまでは。


『子爵とエメリーン嬢から面会したいとの連絡があってな。アランも同席しなさい』

『面会ですか。何の用ですかね?』

『婚約についてではないかな。アランの同席が指定であるから』

『はい?』


 婚約が何だって?

 ちょっと意味がわからない。

 エメリーンとは普通に仲良くしているけどな?


『アランとエメリーン嬢の婚約には付帯条項があったろう?』

『付帯条項? いえ、知りません』

『ああ、そうだったか。こういうものだ』


 何々?

 僕達が一八歳になるまで、自由に婚約を解消できる?

 しかも一方的に?

 そんなの聞いてない!


『大方エメリーン嬢によさげな縁談でもありそうな気配なのではないかな? エメリーン嬢は可愛らしいし、いい子だものな』


 父上は何を他人事みたいに言ってるのだ!

 エメリーンが僕の婚約者でなくなるなんて、想像したこともなかった。

 あの美人で優しいエメリーンがいなくなる?

 絶望だ!

 絶望でしかない。


『まあアランにも縁談がないわけではないんだ』

『えっ?』

『詳しい話はまだ避けるが、年上のとある伯爵令嬢がアランをいいと言っているらしいぞ』


 いくつ年上なんだよ!

 売れ残りの地雷の可能性大。

 いいって要するに将来の伯爵夫人の座に魅力があるってことでしょ?

 父上はヨスト子爵家より格上の家と縁を結べることはいいと考えているかもしれない。

 でも僕にとってエメリーンの代わりにはならないんだよ!


 ああ、もうすぐ子爵とエメリーンがやって来る。

 何としても婚約解消を阻止したい。

 でも解消の意思だけで婚約はなくなってしまう取り決めなのか。

 僕はどうしたら……。


          ◇


 ――――――――――ノースウッド伯爵家邸にて。エメリーン視点。


「婚約解消なんてやめてください! 僕はエメリーンを愛しているんです!」


 伯爵家邸を訪問し、今日の目的であるアラン様とわたしの婚約についてお父様が口にしたのです。

 そうしたらアラン様が這いつくばってわたしとの婚約継続を訴えかけてきました。

 どういうことでしょう?

 お父様と顔を見合わせて困惑です。


「あの、アラン君?」

「はい! エメリーンが婚約者でいてくれるなら、僕は何でもします!」

「いや、ヨスト子爵家としては、婚約解消をしたいという意思は持っていないんだ」

「えっ?」

「そうですよ、アラン様」


 大体ノースウッド伯爵家の方が格上なのですよ?

 どうしてうちから婚約解消を申し出るなんてことがありましょうか。

 アラン様はとても気さくで善良な方ですし、わたしとしては何の不満もないのです。

 が……。


「付帯条項があるだろう?」


 まさにその付帯条項が問題なのです。


『一八歳になるまでは補償が発生することなく、双方が婚約を任意で解消することができる。これは双方の同意が必要でなく、一方からの要求で可能である』


 特にこの一八歳という年齢が。

 貴族の娘が一八歳にもなって婚約者を探すなんて、完全に訳ありです。

 いいお話が来るなんて、ちょっと考えられません。

 殿方は結婚の遅い方もいらっしゃいますから、よろしいのでしょうけれど。


 わたしももう一六歳。

 一八歳ギリギリになってから、アラン様にいいお話があって婚約が解消となるとします。

 かなり困りますよね?

 本日はノースウッド伯爵家とアラン様の状況を伺って、まずいことがなければ付帯条項を外してもらおうと。

 さもなくば今の時点で婚約を解消してもらおうと思ったのです。


 いきなりアラン様に婚約継続を懇願されるとは、意外もいいところ。

 でも嬉しいですね。

 アラン様にそこまで思っていただけているなんて。

 そう説明したところ……。


「父上、すぐさま付帯条項を外してください!」

「お? おう。子爵、よろしいかな?」

「ヨスト子爵家としては何の異存もありませんよ」

「よかった! エメリーンありがとう!」


 わたしは何もしていないような?

 でも野暮な言い草ですね。


「僕はついこの前まで付帯条項のことを知らなくて」

「そうだったのですか?」

「今日は婚約解消の話かもしれないなんて、父上が脅すから」


 あっ、伯爵様が悪い笑顔ですね?

 うちからの話の内容をアラン様に伝えていなかったようです。


「エメリーン嬢は美しいし、大した淑女だろう? であるのに、アランの感謝が足りない気がしてね。ちょっとショックを与えてみたんだ」

「まあ」

「エメリーンがいないなんて耐えられないよ。僕は必ず君を幸せにする!」

「ありがとうございます。とても嬉しいです」


 これはどうやら、お父様と伯爵様の策謀のようですね。

 幼い頃に婚約者となり、疑問も抱かず過ごしてまいりました。

 今ここで改めてお互いを意識しろということなのではないでしょうか?


 アラン様は涙で顔をぐしょぐしょにしながら、わたしに愛を告げてくださいました。

 わたしはとても満ち足りています。

 ではわたしはアラン様に何を返せばいいのでしょう?

 どうするのが正解?

 

 ぺろっ。

 アラン様に顔を近付け、涙を舐めました。


「え、エメリーン?」

「アラン様はわたしに愛をくださいました。わたしもアラン様を愛しております」

「ああ、エメリーン!」


 アラン様に抱きしめられました。

 お父様達が見ていますよ。

 ああ、でも構わないですね。

 わたし達は真の意味での婚約者になったのですから。


「一八歳になってお互い卒業したら結婚しようね」

「はい」


 付帯条項の意味するところとしては、互いに一八歳になるまで相手がいなかったら結婚ということだったと思います。

 でも今は違います。

 将来を誓った相手がいるから結婚しようということなのです。

 何と心が温かく、安心できることでしょう。


 伯爵様とお父様と。

 伯爵家の執事と侍女が拍手してくれます。

 ありがとうございます。

 わたし達はきっと幸せになります。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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 よろしくお願いいたします。

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アラン君の内心知ってると今の段階では大きなお世話だったけど、あと2年のうちに血迷わないって保証はなかったからねえw まあ、雨降って地固まったようで良かった良かった
父ズ「調子乗ってお互いを蔑ろにすんなよ!(ドヤァ)」 という戒めの為の、父親達のドヤ顔が見える気がしました。 号泣しちゃうヒーロー可愛いねえ。 末永くお幸せに爆発してください!(^ω^) オールハ…
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