第五章:戦火の影(中盤〜後半)
第五章:戦火の影(中盤〜後半)
――選ばされる時――
王都滞在五日目。
俺はアルメリア・ヴェスタの私邸で、地図と資料に囲まれていた。
「ルグラン領が動きます。隣接するデイオン領が成長しているのが気に入らないのでしょう。
背後には中央貴族・ハルト公の影も見えます」
アルメリアの言葉は明確だった。
王国は、もう見逃さない。俺たちが“無視できない存在”になったということだ。
「選択肢は三つです」
① 服従し、経済権と軍の一部を差し出す
② 王都に取り入り、政略で守る
③ 戦って独自の“力”を証明する
俺はすぐには答えなかった。
その夜、領地からの急報が届くまでは。
手紙は血に濡れていた。
《黎明の騎士団》副団長ルークからの報せだった。
「ルグランの傭兵が国境を越え、村の西端に侵入。民家を焼き、アリサを攫っていった」
「……っ!」
全身の血が沸騰するのを感じた。
「すぐ戻る。王都の連中の顔色なんかどうでもいい。俺は、俺の人間を救いに行く」
アルメリアは立ち上がり、短剣を差し出した。
「どうか、ご武運を。
そして、“戻ってきたら交渉の続きをしましょう”――それが私の条件です」
「……了解した。必ず、生きて帰る」
――帰還と出撃――
領地に戻った俺は、すぐさま《黎明の騎士団》全隊に招集をかけた。
「俺たちの仲間が攫われた。民が殺された。これは戦争だ」
「俺たちはまだ小さな軍勢だ。けど――心は一つだ。絶対に取り戻す。命に代えても」
全員が立ち上がった。
小林が静かに言った。
「やることは決まってる。動こうぜ、隊長」
夜明け前、作戦は開始された。
ルグラン傭兵団の野営地を奇襲。
加納爺の幻影魔法と、小林の改良型投射器で混乱を起こし、カリム自ら突撃した。
火の粉が舞い、剣戟が飛び交う中、俺は――彼女を見つけた。
アリサは鎖に繋がれ、炎の近くで気を失っていた。
「おい、アリサ……来たぞ。約束、守りに来た」
敵兵が切りかかってくる。
だが俺は、盾で受け止め、斬り伏せた。恐怖はもうなかった。
「立てるか? 一緒に帰るぞ」
彼女は微かに目を開けて、涙を流した。
「来てくれるって……信じてた……」
作戦は成功。
ルグラン軍は壊滅。アリサは救出された。
だがこの勝利は、次の火種でもあった。
――戦争が、本格的に始まる。