第五章:戦火の影(序盤)
第五章:戦火の影(序盤)
――王都へ――
「召喚状……ってことは、“俺”が監視対象ってことだな」
俺は書簡を読みながら、小さくつぶやいた。
王国貴族たちがこの領地に目を向ける理由は明白だ。
・急激な人口増加
・経済の復興と交易開始
・治安の安定と軍組織の創設
“成功してる領地”が出てくると、困る連中がいる。それが、この国の上層部だ。
出発の朝。
《黎明の騎士団》の若者たちが門前に並んでいた。
小林は荷車を引きながら、いつもの調子で笑ってた。
「王都に行ったら、ちゃんとカッコつけろよ。お前、会議だとつい熱くなるから」
「そっちこそ、村を燃やすなよ」
アリサは、少し距離を取って立っていた。
俺はその空気に気づいて、そっと声をかけた。
「……なんか、言いたいことありそうだな?」
「ううん。……ただ、置いていかれるのが、ちょっとだけ寂しいだけ」
「戻ったら、ちゃんと話したい。約束する」
彼女はほんの少しだけ笑って、「信じてます」と言って見送った。
――王都・ナリヴァン――
貴族院。
大理石の床、金細工の柱、虚飾の塊のような空間に、俺は正直吐き気がした。
「デイオン領主、殿下のご指名により、経済発展状況の報告を求む」
形式ばった言葉の奥にあるのは、“どうやって潰そうか”という探りだ。
俺は一歩前に出て、堂々と話した。
「私は、領民が生き延びるためにやってきただけだ。それが結果として経済や治安に繋がった。それだけです」
「……ふん、地方領主が“結果”などと」
「結果を出せない者に“立場”だけがある方が、危険でしょう?」
一瞬、空気が止まった。
けれど、俺はもう下を向かない。ここに来た意味がある。
会議後、控室で一人の貴族が声をかけてきた。
「面白い噂を聞いたぞ、デイオン殿。お前の領地には、“他国の魔導士”が入り込んでいるそうじゃないか?」
加納爺のことだ。誰かが探ってきている。
「それが事実ならば、“外患誘致”で処罰もあり得る」
「噂の出どころをお教えしましょうか?」
声の主は、端正な顔立ちの若い女性貴族だった。
「アルメリア・ヴェスタ。王国の内政局に属しております。味方になるか、敵になるか、あなた次第ですわ」
ここで、俺は確信した。
――もう、“経営だけじゃ守れない”。
領地を守るには、政治と情報にも足を踏み込まなきゃならない。