光のドーム
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「じいちゃん!そっちはどう?」
制服姿の青年が、やや焦り気味に問いかける。隣には着物姿の壮年の男性が立っており、手には古風な杖を持っている。
「なんも収穫はないのぉ。」
孝晴と呼ばれるその男性は、若干肩を落としながら答えるが、どこか落ち着き払っている。
「まぁ、もう少し見てみるかのぉ。ところで朝陽や、お前はいつまで制服姿なんじゃ?高校卒業したんじゃろ?」
「そーだなぁ。パーカーとかにしようかなって思ってるけど、いざ選ぶとなると難しいよなぁ。逆にじいちゃんは見た目変えないの?」
会話は軽妙だが、二人の間にはどこか緊張感が漂う。孝晴は笑いながらも答えた。
「わしはこの姿で長年やってきておるからのぉ。今更変えるのも気が引けるわい。」
二人は、夢の中を歩きながら、周囲の様子を見て回る。透明なドームの中には、人影が浮かび、ぼんやりとした声が漏れ聞こえるが、その内容までは分からない。
「ふむ、そろそろ夢月ちゃんも寝たかのぉ。」
孝晴が呟いた瞬間、人一人が入れるほどの淡い光を放つドームが現れた。
「夢月も寝たし、僕たちもそろそろ終わります?」
朝陽がそう言いかけた次の瞬間――――
「グルゥォォォォ!」
突如として耳をつんざく咆哮が響いた。
「馬鹿者!あの子が狙われている可能性があるんじゃから、こうなるに決まっとろう!」
咆哮の主は獏だった。だがその姿は、通常の獏とは程遠い。毛は逆立ち、目は血走り、身体中から黒い瘴気が立ち昇っている。
「じいちゃん!どうするんですか!」
「一度捕獲するしかないのぉ。」
孝晴はそう言うと、手を振るだけで空間から縄が現れた。
「朝陽や、動きを止めに行け!わしが捕まえちゃる!」
「了解!」
朝陽は無言で獏に向かって駆け出すと、手のひらをかざした。瞬時に光の壁が現れ、獏の突進を受け止める。
「じいちゃん!今だ!」
「分かっとるわい。」
孝晴は素早く縄を操り、獏の身体を縛り上げた。動きを封じられた獏は、次第におとなしくなっていった。
「ふぅ……ここまで成長した獏は久しぶりじゃのぉ。」
孝晴は額の汗を拭いながら、獏を見つめる。
「でも、どうして夢月をあそこまで狙うんですか?」
朝陽が疑問を口にすると、孝晴は腕を組んで少し考え込む。
「仮説じゃが、夢月ちゃんの力がとてつもないのかもしれぬ。この獏はその力にのみ引き寄せられ、他の餌では満たされず、飢餓状態になって暴れておる。つまり、夢月ちゃんほどの力を持つ者が珍しいのじゃろう。」
その説明が終わるか終わらないかのうちに――
「じいちゃん!獏が消えた!」
朝陽が驚いて声を上げる。
「ほう……やはり、何者かが手を引いとるな。」
孝晴は目を細め、険しい表情を浮かべた。
「まぁ今日のところはこれくらいにしておこう。わしらも少し休まねばの。」
「分かりました。またあちらで。」
二人は互いに短く頷き合うと、その場からふっと消え去った。
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