夢に向かう
今回は少し短いですが楽しんでいただけると幸いです。
「帰ったのぉ。」
孝晴がふっとため息混じりに呟くと、朝陽は少し考え込んだ表情で言葉を返した。
「そうですね。じいちゃん、この件、どう思います?」
夢月に起こったことは、確かに普通ではない。普段はおとなしく夢を食べているだけの獏が、同じ人物を一日に二度も襲うなんてことがあり得るのか。
「そうじゃのぉ……夢月ちゃんに起こっておることは、確かに妙じゃ。誰かが裏で糸を引いておる可能性も考えねばならん。ただ、獏を操ることなど、本来できるとは思えんのじゃがのう。もし本当にそんなことが可能な者がおるのならば、急いで対処せねばならん。」
「なら、今日から犯人捜しってところですかね。」
朝陽の言葉に、孝晴は首をゆっくり横に振った。
「いや、犯人がおるとも限らん。まずは『あっち』で状況を調べるところからじゃ。」
孝晴の声には慎重さと決意が込められていた。朝陽もそれを理解したのか、軽く肩をすくめて答える。
「分かりましたよ。じゃあ、状況調査とやらに付き合いますか。」
「そうじゃ、今日は一緒に行くとするかのう。まぁ、わしのペースに合わせてもらうぞ。」
「分かってますって。お手柔らかにお願いしますよ。」
軽い調子で言いながらも、朝陽の目はどこか引き締まっていた。二人は次の行動に向けて玄関へと歩き出した。孝晴の背中には長年の経験からくる頼もしさが、朝陽の顔には何かを解決しようという静かな決意が浮かんでいた。
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「ただいま!」
夢月は元気よく家の中に声を響かせた。しかし、返事はない。すでに母は眠っているのだろう。時計を見ると、針はすでに23時を指していた。
「夜ご飯、ちゃっちゃと食べて、お風呂入って、さっさと寝よう!」
そう自分に言い聞かせながら、夢月は手早く準備を済ませた。
少し時間が経ち、夢月はベッドに腰を下ろした。ポケットに手を入れ、お守りを取り出す。その質素な布巾着をじっと見つめながら、静かに言葉を漏らす。
「これが、あいつから守ってくれる……。」
握りしめた手に自然と力が込められる。その小さなお守りに、命を預けるような思いが湧き上がる。
しばらくそうしていた後、夢月はお守りを胸に抱きながら横になった。そして静かに目を閉じる。
その瞬間、不思議な淡い光が夢月を包み込んだ。その光は暖かく、優しく、まるで眠りを見守る存在のようだった。普段ならば目を覚ますほどの明るさであるにもかかわらず、夢月はその中で穏やかに眠りに落ちていった。
化け物の影も、不安のかけらも、そこには1つもなかった。柔らかな光に守られながら、夢月は久しぶりに心から安心できる夜を過ごしていた。
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