影と光
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朝陽の家は、夢月の家からさほど遠くはないものの、その広さが近所で有名だった。和風の屋敷で、夢乃家の敷地は山ひとつ分。どこか神秘的で立派な佇まいだが、その山には奇妙な噂が絶えない。しかし、噂はあくまで噂。夢月は気に留めることなく、坂道を駆け上がった。
ようやく門の前にたどり着くと、そこには朝陽が立っていた。
「早かったな。いろいろ聞きたいことがあるだろうけど、ちょっと待ってくれ。じいちゃんが夢月に会いたいって言ってる。」
「分かったよ。私も少し落ち着きたかったし、ちょうどよかったかも。」
夢月が息を整えながら答えると、玄関から一人の老人がゆっくりと歩み寄ってきた。
「久しぶりだな、夢月ちゃんや。」
朝陽の祖父、夢乃孝晴だった。どこか威厳を感じさせる雰囲気の中に、優しさも漂わせている。
「お久しぶりです。今回のことで、何か分かることがあるんですか?」
「ふむ、分かるとも。わしは夢を生業にしておる身じゃからな。ただ、今日はもう遅いでの。簡単に説明するとしようか。」
夢月は、孝晴に今回起きたことを詳しく話し、化け物についても説明した。
「なるほどのぉ。夢月ちゃんを襲ったのは『獏』という者じゃな。普通は狂暴ではないんじゃが、稀に暴れることがある。ただ、二度も同じ日に襲われたというのは妙じゃ。ちょっと調べてみる必要がありそうじゃな。」
孝晴はそう言うと、懐から質素な布巾着を取り出した。
「これはお守りじゃ。今日のところはこれくらいしかできなくてすまないが、これさえ持って眠れば大丈夫じゃ。」
「ありがとうございます。」
夢月はお守りを受け取りながら、その小さな布巾着が本当にあの化け物から自分を守れるのか、不安を感じていた。
孝晴はそんな夢月の心中を察したかのように続けた。
「ただな、このお守りで守れるのはせいぜい一日か二日じゃ。それに、今後も獏が襲ってこないとは限らん。朝陽が助けたようじゃが、それも毎回できるとは限らん。もし自分を守る力が欲しいならば、また来なさい。」
そう言いながら、孝晴は夢月の手をしっかりと握った。その手の温もりと確かな力に、夢月は不思議な安心感を覚えた。
「ありがとうございます……」
心の中の不安がすっと消えていき、涙があふれそうになったが、必死でこらえた。
「じゃあな、また明日学校で。」
朝陽の声に、夢月は笑顔で応えた。
「うん!また明日!」
夢月は、朝陽に会いに来たときとはまるで違う穏やかな気持ちで家へと帰った。胸の中に広がる温かさを感じながら、夜の静寂の中でそっと涙をぬぐい、軽快な足取りで家に帰っていった。
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