期待
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「うわぁ!」
夢月は夢の世界へと降り立った瞬間、目の前に広がる光景に思わず声を上げた。普段よりもはるかに多くの人が集まっており、そのざわめきと熱気に圧倒される。空は深い藍色に染まり、宙に浮かぶ光の粒が静かに揺れている。独特の幻想的な風景が、夢の世界の特異性を際立たせていた。
「ん、孝晴さんが言ってたのは君かな?」
十数人の中から、一番普通そうな男が歩み寄ってきた。鋭い目つきをしているが、どこか柔らかい雰囲気を漂わせている。身につけている装備は実用的だが、細かい部分に個性が出ていて、長年の経験を感じさせた。
「は、はい。あなた方が調査隊ですか?」
恐る恐る問いかけると、男は夢月の不安を察したのか、にこりと優しく微笑んだ。
「そうだよ!俺たちが調査隊!俺のことは山田って呼んでくれ。」
はっきりとした口調で答える。
「あ、私は夢月って言います。その、お邪魔させていただきます。」
たどたどしく挨拶をすると、その横にふわりと朝陽が降り立った。知った顔を見て、夢月は思わず安堵の息を漏らす。
「お!朝陽くんじゃないか!君も一緒に来るんだね?せっかくだし、今日は奥まで案内してあげるよ!」
山田は朗らかな笑顔を向けた……が、夢月はその笑顔にどこか黒い影を感じ取った。朝陽も同じ印象を抱いたらしく、顔を引きつらせる。
「い、いえ、今回は夢月のサポートなので!一緒にいてあげないといけないんですよ!」
「いやいや!夢月さんは他のメンバーがちゃんと守るから安心してよ!君なら僕のチームでもうまくやっていけるはずだよ!」
言い争いのようになり始める二人。
夢月はそれを横目で見ながら、静かにやり過ごそうとした。すると、不意に肩を叩かれる。
「やぁ!今回一緒にセーフゾーンにいるまどかです!円って書いてまどか!よろしくね!」
元気よく自己紹介しながら、空中に「円」という文字を指で描く。彼女は長身の女性で、その堂々とした立ち姿には風格すら感じられる。
「よ、よろしくお願いします。」
身長は180cmほどだろうか。夢月は見上げるようにして挨拶を返した。
「まさか、朝陽くんも来るとはねぇ。」
「知り合いなんですか?」
円の言葉に疑問を抱いた夢月は、素直に尋ねた。
「うん、前に別の場所で調査をしてたときに孝晴さんが連れてきたんだよ。初めての実践なのに大活躍してさ。山田もすっかり気に入っちゃってねぇ。」
夢月は思わず朝陽の方を見た。最近の彼の発言からは想像できないが、どうやら過去にはかなりの働きを見せていたらしい。
「それで、あんなにも熱烈な勧誘を受けてるんですね。」
いつの間にか言い争いは追いかけっこに変わっていた。夢月はその様子を見ながら苦笑を浮かべる。山田は執拗に朝陽の腕を掴もうとし、朝陽は必死にかわしていた。その姿は、まるで獲物を狙う猛禽類と逃げ惑う小動物のようだ。
「そういうこと。本人は絶対に言わないだろうけど、夢月ちゃんにもみんな期待してるはずだよ。だって、孝晴さんの推薦だからね。同じ推薦の朝陽くんがあれだけ活躍しちゃったから、期待しない方が無理ってもんさ。」
夢月はふっと息を吐き、山田と同じ圧を感じながらも、孝晴の名を背負ってここに来たことを改めて自覚し、静かに気を引き締める。手のひらをぎゅっと握りしめ、心の中で決意を固めた。
「任せてください。」
自信を込めた笑顔を見せると、円は満足そうに微笑んだ。「いいね、その意気だよ。」
その言葉に励まされるように、夢月は改めて周囲を見渡した。遠くには調査隊のメンバーがそれぞれの準備を整えているのが見える。これから本格的な探索が始まるのだ。
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