甘美な夢に潜む影
二話目も見ていただきありがとうございます。更新いたしました。(5月19日)
「あー!! しあわせ!!」
夢月の周りには、まるでおとぎ話のように色とりどりのスイーツが広がっていた。ケーキにクッキー、マカロンにチョコレート――甘美な香りが漂い、どれも手を伸ばせば届く位置にある。
「こんなにたくさん、一度に食べられないよー!!」
嬉しそうに声をあげながら、夢月は次々とスイーツを口に運んでいた。しかし、そんな彼女を遠くから見つめる大きな影があった。
それがゆっくりと夢月に近づくにつれ、まるで魔法が解けるように、スイーツが1つずつ腐り始め、甘い香りは消え、代わりに不快な腐臭が漂い始めた。
「ぺっ!な、なに!?腐ってる?」
ついに夢月の手に取るスイーツまでもが腐っていってしまった。突如として腐り、消えていったスイーツに困惑し、周囲を見回す夢月の視界に、大きな異形の生きものが映り込んだ。その存在に気づいた瞬間、彼女の思考は凍りついた。
(あ、死ぬんだ。)
その確信だけが彼女の頭を支配した。巨大な化け物がゆっくりと近づいてくる様子はまるでスローモーションのようで、自分が今どこにいるのか、何をしていたのか、すべてがぼんやりとして曖昧になっていく。ただ、このままでは命を落とすという事実だけが鮮明だった。
(死ぬ瞬間って、こんなにも時間がゆっくり流れるんだなぁ。)
そんなことをぼんやりと思いながら、夢月は抵抗する気力を失いかけていた。
だが、そのとき――化け物が目前に迫った瞬間、突然、その巨体が遠くへ吹き飛ばされた。信じられない光景に呆然と立ち尽くす夢月の背後に、人の気配があった。
「あ、夢月の夢だったんだ。」
声に導かれるように振り向くと、そこには夢乃朝陽が立っていた。彼の姿はどこか現実離れしていて、幻想的に揺らいでいた。
「……あ、朝陽?……朝陽なの?」
「あぁ、そうだけど。俺のことがわかるんだ。」
「朝陽? 何が起きたの? あの巨大な化け物、朝陽が吹き飛ばしたの? ここは一体どこなの?」
「まぁ、落ち着けよ。夢が覚えてたら、そのときに教えてやるよ。学校でね。もっとも、覚えてるとは思えないけどね。」
そう言って、朝陽はくるりと背を向け、歩き出した。夢は思わず呼び止めようとしたが、その瞬間、視界がぼやけ、声を出す前に意識が遠のき、彼女は静かに夢の世界を手放した。
読んでいただきありがとうございます。次の話も読んでいただけると幸いです。