とある侯爵令嬢のお一人様の代償~こんな事ならちゃんと婚約者と貴族らしい婚約生活しておけばよかった~
私の名はエレナ、エレナ・ワースティン。
とある侯爵令嬢で、とある侯爵の婚約者である。
私には愛しい婚約者がいた。
黒髪が美しく勤勉で仕事熱心な真面目な方。
一方私は長い茶髪の自由奔放な快活な明るい性格。
最初は水と油の様なこの二人が上手くいく訳ないと言われていたけど、婚約が決まってから今日で3ヶ月、それなりに私達は上手くやっていた。
しかし最近は別に仲が悪いとかではないが、少し疎遠気味であった。
今日だって……
「あの、よかったら今日城下町にお買い物に付き合って……」
「すまない、今日は公務で忙しいんだ」
「そうですか……」
いつもこんな感じである。
何度も何度もしつこくお誘いしたが駄目だった。
しかしある時違う反応が返って来た。
「城下町か……そんなに出かけたいのなら一人でいけばいい。私は構わないよ」
「え!?いいんですか!?」
私は婚約者の提案に快諾した。
この提案が罠とも知らずに。
「ああ、城下町のパン屋さんにお花屋さん!こんなに素晴らしいお店があるなんて素晴らしい発見だわ!」
親友のカサンドラから舞踏会やお茶会のお誘いもあったけど貴族同士で集まって何か気取った事をするよりも、一人で城下町でお買い物したり散策する方が何倍も楽しかった。
気取った可愛げのない貴族の子供より地元の子供達と遊ぶ方が楽しかったしね。
忙しい夫には申し訳ないけど、一人で自由にしていいって言われたんだもの、自由にさせて貰うわ。
本当は彼も誘って一緒にお出掛けしたかったな。
その時の為に素敵なお店を沢山見つけておこう。
―それから数日後
夫の毛嫌いする庶民の城下町を堪能した私はパンや果物、お花等様々なお土産を持っていそいそと屋敷に戻った。
その時に見てはいけない物を見てしまった。
そう、夫の浮気現場である。
しかも親友だと思ってたカサンドラとのキスシーン!
私は居ても立っても居られなく大声を発した。
「なにやってるの!」
「え、エレナ!?」
驚くカサンドラ、しかし夫の婚約者は微動だにしない。
「こうなったら婚約破……」
「それはこっちの台詞だ」
「え?」
「君が私の妻である自覚も無く家を度々あけ、加えて庶民に媚びて笑顔をふりまく始末、私はもう耐えかねたのだよ」
「で、でも、それはあなたが付きあってくれないから……」
「君は侯爵の家に嫁いだのだよ?上流階級の付きあいを無視し続けた結果だよ」
「そ、そんな……」
「君から言われるまでも無い、私から婚約破棄させて貰う。そして私はカサンドラと再婚約する」
「えーーーーーーーーーーーーーー!?」
この後バツイチという汚点を残した私に更なる上流貴族に見初められて婚約する等と言うシンデレラストーリーは無い。
平凡な下級の貴族と愛の無い婚約をして一生を過ごした。
私がお一人様を満喫さえしなければ親友との浮気に気付けたかもしれない。
そもそも私が我侭言わないで侯爵夫人らしい振る舞いを、舞踏会やお茶会等に参加していたら彼も愛想を尽かさず浮気しなかっただろう。
これはお一人様を満喫して自由気ままに自分勝手に過ごしてきた代償。
妻は夫と過ごし人生を共有する物だと忘れていた、特に貴族の妻は。
何もかもが遅すぎた。