パーティーから追放された俺に待ち受けていたのは勧誘の嵐だった ~戻ってこいといわれてもギルドの規定で無理だ、あきらめろ~
なぜこうなったんだろうなぁ・・・
目の前では俺をパーティーに加入させようと多くの冒険者パーティーのリーダーが話しかけてきた。
「レイル君、俺たち『金獅子の瞳』に入れ! 好待遇を約束するぞ!」
「何言ってるのよ! レイルさん、私たち『銀狼の尻尾』に入って! お願い!」
「ええぃ、お前たち退け! レイル殿! 我々『白熊の肉球』に入ってくれ! 頼む!」
困惑していると、そこについ先ほど俺を追放したSランク冒険者パーティー『黒の蛇』のリーダーであるロカが大声を上げる。
「レイル! 俺が悪かった! 追放したのは謝るから戻ってこい!」
「そういわれてもなぁ・・・」
俺は追放される前のことを思い出す。
俺が所属していた冒険者パーティー『黒の蛇』は地元の村で三男三女以下に生まれた者たちが10歳になったときに結成したパーティーである。
メンバーは『戦士』ロカ、『武闘家』ゴマン、『魔術師』サイナ、『回復術師』マレン、そして、『盗賊』である俺ことレイルだ。
『俺たちでこの世界の冒険者のトップになろうぜ!』
かつてリーダーであるロカの言葉だ。
あれから7年、苦労して念願のSランク冒険者まで上り詰めることに成功した。
だが、ランクが上がり富や名声を得るにつれてロカたちの態度が徐々に変わっていく。
最初こそ謙虚であったが、今では横暴な態度へと変貌し、気に食わなければその力で捩じ伏せている。
俺はロカたちが起こしたトラブルの火消しに動き回り迷惑をかけた人たちに謝罪していた。
その都度ロカたちにそれとなく注意するが皆聞く耳を持たないどころか『レイル! お前何様のつもりだ!!』と反感ばかりを買うだけだ。
それでもいつか上位の冒険者としての自覚を持ってくれると信じて俺は待ち続けた。
そして、俺はロカたちから裏切られることになる。
ある日、討伐依頼を完了して冒険者ギルドに戻り、受付に討伐完了報告する前にロカが話を切り出した。
「おい! レイル! お前は今をもって『黒の蛇』を追放する!!」
「・・・は?」
突然のことに俺は驚き、ギルド内にいる冒険者たちがざわつき始めた。
「おいおい聞こえなかったのか? お前をパーティーから追放するっていったんだよ!」
「な、なんで急に・・・」
ロカだけでなくゴマン、サイナ、マレンも俺に対して不満を漏らす。
「お前がもっと敵を倒せていれば楽できるのによ」
(ゴマン、俺よりも敵を率先して倒せよ)
俺が敵のヘイトを稼いでいるのにいつも面倒臭そうに敵を倒すゴマン。
「うろちょろして私の邪魔ばかりするんだから迷惑でしかないわ」
(サイナ、いつも俺を巻き込んで攻撃魔法をぶっ放すくせに被害ぶるな)
俺の周りに敵がいるのをこれ幸いに平気で攻撃範囲の広い魔法をぶっ放すサイナ。
「あなたが傷ばかり負うから私が癒しの力を使わざるを得ない状態に陥るのよ」
(マレン、そもそもけが人を癒すのがお前の仕事だろ)
自分がかすり傷をすればすぐに【治癒魔法】で治すくせに俺がけがすると罵詈雑言を浴びせながら渋々治すマレン。
「そんなに俺のことが嫌ならダンジョンの奥深くに放置したり町の外で殺せばいいだろ?」
「それができるならとっくにそうしているぜ」
ロカたちがなぜダンジョンの奥深くで追放したり町の外で殺したりしなかったのか?
それは冒険者ギルドが定めた法律が関連しているからだ。
基本冒険者は何かあっても自己責任だ。
しかし、大昔にはそれを逆手に取った悪質な犯罪が多発した。
パーティーに新規加入した者をダンジョンで殺し、冒険者ギルドには虚偽の報告をする。
ついでに殺した冒険者の家族に『お前の身内のせいで俺たちが死にかけた』と文句をいって金を騙し取っていた。
ある時、身分を隠して冒険者をしていた国王の息子がこの手に引っ掛かり、ダンジョンの奥深くで殺されてしまった。
それを知った国王が激怒し、息子を殺したパーティーを捕らえると冒険者たちの前で見せしめとして公開処刑されたのだ。
それもただ殺すのではなくありとあらゆる拷問を与えてから斬首刑にした。
それから国王は配下の者にある魔道具を作らせる。
できあがった物を国中の冒険者ギルドに持っていき説明した。
『このプレートは記録の魔道具だ。 冒険者は常に目立つところにこれを身に着けること。 パーティー内で何か問題を起こった場合、真っ先にプレート内に保存されている情報を調べるからな』
プレート型魔道具を冒険者たち全員に配り身に着けさせた。
また、冒険者ギルドはこの件を重く受け止めてパーティー内での揉め事に厳しい罰則を設ける。
例えば、故意に行方不明者や死人を出した場合、そのパーティー全員にとんでもない金額を請求するよう法を作った。
プレートの着用義務を怠った時も同様だ。
依頼完了時にプレートを提出しなかった場合も処罰の対象となる。
これにより冒険者たちは故意に行方不明者や死人を出すようなことが激減したという。
「あーあ、こいつさえなければなぁ・・・」
ロカは自分が身に着けいているプレートを弄る。
ゴマンたちも同じようにプレートに触れた。
何かすれば身に着けているプレートの記録情報を調べればすぐにわかってしまう。
疑わしきはすぐにでも罰せられるのが今の冒険者ギルドだ。
「そんなことよりレイル、お前をパーティーから追放するのは決定事項だ。 これは俺やゴマンたちの総意だ」
「俺の意思は?」
「お前を追放するのになんで意見を聞かないといけないんだ?」
「・・・お前ら・・・」
俺はやるせない思いになりこれ以上は何をいっても無駄と判断した。
「はぁ・・・わかった。 今日をもって俺は『黒の蛇』を抜けるよ」
「ふん! ようやく理解したか。 お前から言質もとれたしこれで心置きなく手続きできるぜ」
俺の言葉に周りの冒険者たちがさらにざわついた。
ロカたちは上機嫌で受付に向かうと受付嬢に話しかける。
「カイちゃん、先にレイルの『黒の蛇』脱退手続きして、それから今回依頼を受けた赤龍の討伐完了と報酬を頼むわ」
「・・・承知しました」
カイと呼ばれた受付嬢は無表情で応じる。
(やはりな・・・どうせ赤龍の討伐で出される報酬が目当てだと思っていたぜ)
ただでさえ討伐困難な赤龍だけでなく、その道中で倒した魔物の素材も売れば一生暮らしていける額になる。
ただし、それは報酬を4等分すればの話だ。
俺がいれば5等分にせざるを得ない。
それを嫌ったロカたちが俺をパーティーから追い出すことを思いついて実行したのだろう。
(この際だからロカたちとはきっぱり縁を切ってしまおう)
そんなことを考えているとカイが俺に話しかけてきた。
「レイルさん、この書類に目を通していただき問題なければサインしてください」
カイから書類を受け取ると内容を確認する。
特に不備がなかったのでそのままサインしてカイに返した。
「ありがとうございます。 それでは冒険者カードとプレートを提示してください。 更新しますので」
俺は冒険者カードとプレートをカイに渡す。
しばらくして確認が済むと返却された。
「ありがとうございます。 これでレイルさんは『黒の蛇』を脱退してソロの冒険者になりました」
カイがギルド全体に聞こえるような大きな声で伝えた。
その瞬間、ギルド内が歓声に包まれる。
(なんだよ・・・みんな俺がパーティーから追放されてそんなに喜ぶことなのかよ・・・)
落ち込んでいると突然俺の周りに多くの人が集まって声をかけられた。
「レイル君、俺は『金獅子の瞳』のリーダーでセンという。 よければ俺のパーティーに入らないか?」
「レイルさん、私は『銀狼の尻尾』のリーダーでイコよ。 君をスカウトするわ!」
「レイル殿、我は『白熊の肉球』のリーダーでワフだ。 貴殿と一緒に冒険者活動をしたい!」
「・・・え?」
違う。
逆だ。
俺が追放されたから喜んでいるんじゃない。
フリーになった俺をパーティーに引き入れるチャンスが巡ってきて思わず喜んでしまったのだろう。
(ロカたちは俺のことを見下していたのに、ほかの冒険者たちはこんなにも高く評価してくれていたんだな・・・)
そう考えていると俺は心に熱いものを感じた。
俺の周りに人が集まり次々とパーティーへのお誘いを受ける。
あまりの勧誘の多さに困惑していると突然野太い声がギルド内に響く。
「おい! お前ら! 受付の目の前で勧誘なんてするな! やるならそっちの空いているスペースに移動してからやれ!!」
声がしたほうを見るとそこにはギルドマスターであるマッツがこちらを睨んで仁王立ちしていた。
俺を見るとなぜか口角を上げて笑顔になる。
「ギ、ギルマス・・・」
「すんません・・・」
「わかったらさっさとそっちに移動しろ」
手で追い払う動作をしているが、その仕草は厄介払いというよりもむしろ遠ざけたいといった感じだ。
それから俺と多くの冒険者たちが空きスペースに移動すると勧誘が再開された。
「は? どうなってるの?」
「なんであいつが人気なわけ?」
「あんな奴のどこがいいの?」
ゴマン、サイナ、マレンは意味が分からないと首を傾げる。
「放っておけ。 俺達には関係ないことだ」
ロカたちはレイルを無視してカイに話しかけた。
「カイちゃん、改めて赤龍の討伐完了と報酬を頼むわ」
カイに討伐した証として赤龍の角を提出する。
「・・・承知しました」
カイは赤龍の角を受け取ってから近くにある紙を取り出すと何やら書き始める。
しばらくして書き終えるとロカに紙を渡した。
ロカは査定が済んだのだろうとその紙を見る。
『
戒告書
冒険者パーティー『黒の蛇』
ロカ殿
貴殿は、〈龍の年 牛の月 29日〉に〈冒険者ギルド第一条・第三項 特定のパーティーメンバーに対して圧力をかけてはならない〉及び〈冒険者ギルド第二条・第一項 冒険者は冒険者ギルドの信用を失墜する行為をしてはならない〉に抵触しました。
つきましては以下の処罰を命じます。
・冒険者ランクを〈Sランク〉から〈Bランク〉へと降格とする
・冒険者ギルドに違約金〈金貨 500枚〉の支払いを命じる
・件の人物との接触を禁じる
以上
冒険者ギルド モートブルグ支部
ギルドマスター マッツ
』
「なんだこれはあああああぁーーーーーっ!!」
ロカは紙に書かれている内容を読んで驚愕する。
「見ての通り戒告書です」
カイはさらりと答える。
ゴマン、サイナ、マレンもロカの横から見て驚いた。
「なんで俺たちが罰せられないといけないんだよっ!!」
「おかしいでしょっ!!」
「私たちは何もやましいことはしてないわっ!!」
それを聞いてカイは溜息を吐く。
「みなさん本当にそう思ってますか?」
「当たり前だっ!!」
ロカが代表して正当性を主張する。
「そういう態度ですよ」
「はぁ?」
「だからそういう態度ですと申し上げたのです。 いいですか? あなたたちは仮にもSランク冒険者なんですよ? それ相応の地位にいながらそれらしい立ち振る舞いをしていたのはレイルさんだけです。 あなたたちはそんなことしましたか?」
「ちゃんとSランク冒険者らしく振舞っているだろうがぁっ!!」
ロカは受付嬢がいる机を叩き反論するもカイは首を横に振った。
「とてもではないですがそうは見えません。 ギルドにはロカさんたちの苦情が絶えず届いていたのですよ。 それはどう説明するのですか?」
「それは周りが俺たち『黒の蛇』を失墜させようと虚偽報告をしたのだろ?」
「なら、ほかの冒険者のプレートに記録されているロカさんたちの情報も嘘だというのですね?」
「そ、それは・・・」
プレートに記録されている情報を持ち出されロカは狼狽える。
過去にプレート内に保存されているのは虚偽情報だと声を出した者が国王の怒りに触れ、公開処刑されたことがあったのだ。
以降、プレートの性能について触れることは禁忌とされてきた。
「お前たちがSランク冒険者として活動できていたのは全部レイルのおかげなんだよ」
そこにマッツが会話に割って入ってきた。
「あいつはお前たちが迷惑かけた貴族や冒険者たちに深く謝罪して、迷惑料を支払っていたんだよ。 いうなればお前たちの尻拭いをさせられていたがそれも今日までだ。 その戒告書にも書いてあるが今後はレイルとの接触を禁止する。 Bランクから地道にやり直すんだな」
「そ、そんなぁ・・・」
ロカは膝を突いて項垂れた。
「どうすれば・・・」
「ん?」
「どうすれば俺たちがSランクに返り咲けるんだっ! 教えろっ!!」
ロカは立ち上がるとマッツの服の襟を掴んで詰問する。
マッツはその手を掴むとそっと下に降ろす。
「〈冒険者ギルド第一条・第七項 追放した元パーティーメンバーへの再勧誘はしてはならない〉。 ロカ、お前からレイルを再勧誘することはできない。 だが、お前たちが今を捨ててやり直したいといえば話は別だがな」
「なんだ、そんな簡単なことか。 レイルのことだ、俺が謝ればすぐに戻ってくるさ」
ロカの発言にマッツが不敵に笑う。
「果たしてそう上手くいくかな?」
「ふんっ! そこで見てろよっ!!」
ロカはレイルがいるところに向かう。
そこではレイル争奪戦が未だ続いていた。
目の前では俺をパーティーに加入させようと多くの冒険者パーティーのリーダーが話しかけてくる。
「レイル君、俺たち『金獅子の瞳』に入れ! 好待遇を約束するぞ!」
「何言ってるのよ! レイルさん、私たち『銀狼の尻尾』に入って! お願い!」
「ええぃ、お前たち退け! レイル殿! 我々『白熊の肉球』に入ってくれ! 頼む!」
困惑していると、そこについ先ほど俺を追放したSランク冒険者パーティー『黒の蛇』のリーダーであるロカが大声を上げる。
「レイル! 俺が悪かった! 追放したのは謝るから戻ってこい!」
(は? なんで追放したロカまで声をかけてくるんだ?)
復縁を迫るロカ。
「そういわれてもなぁ・・・」
バアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーンッ!!!!!!!
俺がどうするか迷っていると冒険者ギルドの入り口が勢いよく開いて何名かの冒険者が息を切らせてやってきた。
「はぁはぁはぁ・・・彼は?」
「ぜぇぜぇぜぇ・・・リ、リーダー! あ、あそこ!!」
「げほげほ・・・ま、間に合った?」
そこに立っていた冒険者たちを見て俺は目を見開いた。
(あ、あれはSSSランク冒険者パーティー『火龍の鱗』?! なぜこんなところに?!)
突然の超有名冒険者パーティーの登場に場は静まり返り皆息を呑んだ。
唖然と見ていると『火龍の鱗』が俺がいるスペースに歩いてくる。
それに気づいたほかの冒険者たちがその圧に気圧されたのか道を開けた。
目の前まで来ると先頭の美しい女性が挨拶してきた。
「レイルさん、お久しぶりです。 冒険者パーティー『火龍の鱗』のリーダー、ティルです」
「お、お久しぶりです、ティルさん。 きょ、今日はどうされました?」
「私の仲間からレイルさんが『黒の蛇』を追放されてフリーの冒険者になったという連絡が入り急ぎここへ駆けつけたのです。 も、もしかして、もう決めてしまいましたか?」
ティルが不安な顔で質問してくる。
「い、いえ、まだです」
「よ、よかったぁ・・・」
俺の言葉にティルが心の底から安堵する。
「単刀直入にいいます。 レイルさん、私のパーティーに加入してください」
ティルの言葉に周りがざわつく。
(俺がSSSランク冒険者パーティーで名高いあの『火龍の鱗』からスカウトされてる?!)
『火龍の鱗』から勧誘されるなんて俺としてはまさに青天の霹靂だ。
「な、なぜ、俺なんですか?」
「あなたの『盗賊』としての罠感知や罠解除の技能もそうですが、最前線での回避盾みたいな戦い方や周りの状況を常に冷静に見れる判断力、味方への適切なサポート、コミュニケーション力も高く、それに驕らず誰にでも礼儀正しく依頼人との交渉も上手だと聞き及んでいます」
「俺はそんな大層な人間じゃないですよ」
『盗賊』としての技能はともかく、ほかのことはロカたちが周りに迷惑をかけていたから自然と身についたものだ。
「そういう謙虚なところもとても好感が持てます。 私たちのパーティーへの加入について一考してはいただけないでしょうか?」
「レイルは俺たちのパーティーに戻ってくるんだ! 悪いがお前たちにレイルの居場所はない!!」
俺が回答する前にロカがやってきて横から口を挟む。
「ロカさん、あなたは肝心なことを忘れている。 今、あなたが行っていることは冒険者ギルド第一条・第七項に抵触している」
「だ、だが、レイルが自分の意志で戻ってくれば話は別だろ?!」
「たしかにそうです。 ロカさんの言う通りレイルさんが『黒の蛇』に戻りたいといえば冒険者ギルド第一条・第七項には抵触しません」
「だろ! レイルは俺たちのところに戻ってくるんだ、他所のパーティーにはいかないだよ!!」
ロカが自信たっぷりという。
(なんで俺が追放された『黒の蛇』に戻らないといけないんだ?)
さすがに今の言葉に俺は黙っていられない。
「ロカ! さっきの脱退手続きが受理された時点で俺とお前たちは縁を切って袂を分かったんだ! 無関係なお前たちは引っ込んでろ!!」
「なっ?!」
俺の言葉にロカが驚いた顔をしていた。
「ぷっ」
「くすくす」
「だっさぁ」
周りにいる冒険者たちがロカに嘲笑を浴びせる。
「お前らっ!」
ロカは腰にある剣の柄に手を伸ばす。
「おい、ロカ! ここで剣を抜くなら俺も黙ってないぞ!!」
いつの間にかロカのうしろにマッツが立っていた。
「ギ、ギルマス・・・」
「これ以上迷惑をかけるなら更なる罰則を追加するぞ」
「ぐぅ・・・」
マッツの言葉にロカは悔しそうな顔をして俯く。
「ロカ、1つだけいっておきたいことがある」
「・・・なんだ?」
「ギルドの規定で問題を起こしたパーティーから脱退するとまたトラブルが起こる可能性があるから同じパーティーに再加入は認められないんだ」
「・・・え?」
俺の言葉を理解できないのかロカは素っ頓狂な声を出す。
どうやらロカは〈冒険者ギルド第一条・第八項 追放されたパーティーへの再加入は認めない〉を知らないらしい。
冒険者ギルド第一条・第八項はパーティーから追放された冒険者を守るための規定だ。
仮に再加入を認めてしまうとその冒険者が再度理不尽な目に合う可能性があるので、冒険者ギルドは安全面を考慮してこの規定を設けた。
「つまり、今お前がしていることはすべて無駄なんだよ」
「そ、そんなぁ・・・」
「それにお前から俺を手放したんだ。 今更戻ってこいといわれてももう遅いよ」
ロカは心が折れたのかその場で力なく項垂れた。
マッツがやれやれといった顔をしてロカの肩を叩く。
「あ、そうそう、レイル、決めるなら早く決めちまえよ」
マッツはそれだけいうとロカを連れて受付のほうへと戻っていった。
「・・・」
ギルドの規定ではレイルがロカたちの冒険者パーティー『黒の蛇』に戻ることはできない。
しかし、抜け穴はある。
それはレイルが新たに冒険者パーティーを作り、そこにロカたちが入ることだ。
ただし、最下層であるEランクからの再出発となる。
これにロカたちが耐えられるかは正直わからない。
(ロカ、ゴマン、サイナ、マレン、達者でな)
心の中でロカたちと決別し、俺は今目の前にある問題をどうするか考える。
どこかのパーティーに加入するか、しばらくソロで活動するか。
(決まっている。 こんなチャンス滅多にないからな)
俺は冒険者パーティー『火龍の鱗』のリーダーであるティルに声をかける。
「ティルさん、よければ俺をあなたのパーティーに入れてもらえませんか?」
「もちろんですっ! レイルさんっ! これからよろしくお願いしますねっ!!」
俺とティルはお互い握手をすると『火龍の鱗』のメンバーから拍手が、周りにいたほかの冒険者たちからは悲痛な叫びが聞こえてきた。
あれから1年が経過した。
俺を追い出したロカたちはBランクから再スタートするも今までの態度を改める訳でもなく、その横暴さが仇となって現在Cランクにまで降格された。
この調子でいったらDランクに降格もあり得るだろう。
俺はというとSSSランク冒険者パーティー『火龍の鱗』で活動していた。
「レイル、今日もご苦労様」
「レイルが回避盾してくれるから戦闘が楽々で助かるわ」
「ダンジョンの情報や必要な道具を揃えてくれるとか何から何まで済まない」
「鍵のかかった宝箱や扉、面倒な罠もちょちょいと解除してくれるしな」
「面倒な交渉も手伝ってくれてありがたいですしね」
『火龍の鱗』のパーティーメンバーが次々と俺を労う。
「いやいや、俺のほうこそ皆さんのおかげで本当に助かってますから」
「ふふふ・・・これからも期待しているわよ! レイル!!」
「おう、任せてくれ! リーダー!!」
俺はティルたちと一緒に未知の冒険を続けていくだろう。