浮足立つ
三題噺もどき―さんびゃくろくじゅうに。
※気分的には某童話の「もしも」……※
「……」
茫然と立ち尽くす私を、冷たい風がなでてゆく。
周りの木々はざわざわと騒ぎ、まるであざ笑うように囲む。
愚かな娘。希望を自らの失態で失い、ただそこに立ち尽くす事しかできないかわいそうな子。
「……」
夢の舞台へ……行きたかったお城の舞踏会へ。
やっと行けると思った。
それなのに。
それまで持っていた警戒心を失って。他人への疑心を捨ててしまって。
そんな状態でここまで来たせいで。
「……」
舞踏会の夜。
その少し前の時間。
魔女に言われた通りに、南瓜と鼠を連れたって、ここまで来た。
後ろに人が居るかもしれないなんて疑いもせずに、堂々と。
他の人間に気づかれているかもしれないなんて思いもせずに。
浮足立った気持ちのそのままに。
「……」
浅はかな姉達には気づかれないだろうなんて、慢心して。
浅はかだったのは私の方だった。
「……」
あの人たちは、こういうことばかりに関しては、いやに鋭いのだと知っていたくせに。
私のことは見てほしくないのに、見ていると言うのに。
どうして……。
どうして今。
どうして今日。
「……」
この日にあの人たちへの疑心を失くしてしまったのだろう。
バレないようにと細心の注意をして当たり前だったのに。
そんな日々が当たり前になっていたはずなのに。
「……」
この場所に来なさいと言われて。
浮足立ったままの状態で、後ろに姉をひきつれてのこのこと来てしまって。
魔女が現れ、魔法をかけようとしたとき。
森の奥から隠れていた姉たちが立ち上がった。
「……」
あの姉たちは、何をするにもめげない強さがあった。
それをすごいとも思わないし、ひたすらに嫌悪しか沸かなかった。
願いを、望みをかなえるためには、手段を択ばない。何をしても手にいれる。手を汚してでも。……そんな人たちを見て、誰が誇らしく思う。
「……」
現れた姉たちは。
私の手から南瓜をもぎ取り。
怯えていた鼠を引きずり。
魔女を脅した。
本当に、私への嫌がらせがお好きなようで。
「……」
正直、何が起きているのか分からないままにことが済んでしまっていて、
何を話しているのかは分からなかった。
姉はどこまでも魔女を脅し、あの人たちがいかに浅はかで汚いか、呆れたのか。それともあの魔女でも、この人たちは恐ろしいのか。
「……」
ただ最後に、ごめんなさいと言われただけで。
魔女は静かに消えていった。
2人の姉は、美しい姿へと変わり、馬車に乗り、ゆうゆうと舞踏会へと向かっていった。
ボロボロのエプロンを来た私を1人置いて。
高らかに笑いながら。
「……」
「……」
「……」
あぁ、これで。
夢は潰えた。
何もかもが終わってしまった。
私はこれからも、あの家で。
働き続けなくてはならない。
あぁ。どうして。
なんで。
「……」
後悔の念が胸中を渦巻く。
声にもならない悲しみが、静かにこぼれていく。
「……」
あ。
でも。
それでも。
ひとつだけ。
「……」
去り際に。
魔女が言った。
「……」
あの魔法は夜明けと共に掻き消える。
美しく替えられた2人は元の通りになっていく。
「……」
似合っても居ないドレス。
車は南瓜に戻る。
美しい白馬は鼠に戻る。
「……」
それを。
あの2人には伝えていない。
その後どうなるかは分からないけれど。
これが私にできる精一杯なの。
「……」
そう言って。
ごめんなさいと。
「……」
あの人たちの帰りを心から待ったことはなかったけれど。
今日ばかりは。
お題:夜明け・舞踏会・浅はか