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三題噺もどき2

浮足立つ

作者: 狐彪

三題噺もどき―さんびゃくろくじゅうに。



※気分的には某童話の「もしも」……※

 


「……」

 茫然と立ち尽くす私を、冷たい風がなでてゆく。

 周りの木々はざわざわと騒ぎ、まるであざ笑うように囲む。

 愚かな娘。希望を自らの失態で失い、ただそこに立ち尽くす事しかできないかわいそうな子。

「……」

 夢の舞台へ……行きたかったお城の舞踏会へ。

 やっと行けると思った。

 それなのに。

 それまで持っていた警戒心を失って。他人への疑心を捨ててしまって。

 そんな状態でここまで来たせいで。

「……」

 舞踏会の夜。

 その少し前の時間。

 魔女に言われた通りに、南瓜と鼠を連れたって、ここまで来た。

 後ろに人が居るかもしれないなんて疑いもせずに、堂々と。

 他の人間に気づかれているかもしれないなんて思いもせずに。

 浮足立った気持ちのそのままに。

「……」

 浅はかな姉達には気づかれないだろうなんて、慢心して。

 浅はかだったのは私の方だった。

「……」

 あの人たちは、こういうことばかりに関しては、いやに鋭いのだと知っていたくせに。

 私のことは見てほしくないのに、見ていると言うのに。

 どうして……。

 どうして今。

 どうして今日。

「……」

 この日にあの人たちへの疑心を失くしてしまったのだろう。

 バレないようにと細心の注意をして当たり前だったのに。

 そんな日々が当たり前になっていたはずなのに。

「……」

 この場所に来なさいと言われて。

 浮足立ったままの状態で、後ろに姉をひきつれてのこのこと来てしまって。

 魔女が現れ、魔法をかけようとしたとき。

 森の奥から隠れていた姉たちが立ち上がった。

「……」

 あの姉たちは、何をするにもめげない強さがあった。

 それをすごいとも思わないし、ひたすらに嫌悪しか沸かなかった。

 願いを、望みをかなえるためには、手段を択ばない。何をしても手にいれる。手を汚してでも。……そんな人たちを見て、誰が誇らしく思う。

「……」

 現れた姉たちは。

 私の手から南瓜をもぎ取り。

 怯えていた鼠を引きずり。

 魔女を脅した。

 本当に、私への嫌がらせがお好きなようで。

「……」

 正直、何が起きているのか分からないままにことが済んでしまっていて、

 何を話しているのかは分からなかった。

 姉はどこまでも魔女を脅し、あの人たちがいかに浅はかで汚いか、呆れたのか。それともあの魔女でも、この人たちは恐ろしいのか。

「……」

 ただ最後に、ごめんなさいと言われただけで。

 魔女は静かに消えていった。

 2人の姉は、美しい姿へと変わり、馬車に乗り、ゆうゆうと舞踏会へと向かっていった。

 ボロボロのエプロンを来た私を1人置いて。

 高らかに笑いながら。

「……」

「……」

「……」

 あぁ、これで。

 夢は潰えた。

 何もかもが終わってしまった。

 私はこれからも、あの家で。

 働き続けなくてはならない。

 あぁ。どうして。

 なんで。

「……」

 後悔の念が胸中を渦巻く。

 声にもならない悲しみが、静かにこぼれていく。

「……」

 あ。

 でも。

 それでも。

 ひとつだけ。

「……」

 去り際に。

 魔女が言った。

「……」

 あの魔法は夜明けと共に掻き消える。

 美しく替えられた2人は元の通りになっていく。

「……」

 似合っても居ないドレス。

 車は南瓜に戻る。

 美しい白馬は鼠に戻る。

「……」

 それを。

 あの2人には伝えていない。

 その後どうなるかは分からないけれど。

 これが私にできる精一杯なの。

「……」

 そう言って。

 ごめんなさいと。

「……」

 あの人たちの帰りを心から待ったことはなかったけれど。

 今日ばかりは。








 お題:夜明け・舞踏会・浅はか

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