本物のドンマイン一家は、今
「え、え、ここは何処? お母様、みんな、何処にいるのー!」
叫んでいるのは、本家本元のカルーラ・ドンマイン。
かずさ達が今いる異世界から器が入れ替わり、現代日本に家族ごと転移して来たのだった。
思えばあの時。
突然の雨と雷が鳴り響き、庭で行うはずのバーベキューを中止して、室内に移動したのだった。
そして立ち竦むここは、二宮かずさ一家の住む住居。
15階建ての10階で、賃貸のマンションだ。
「カルーラ、レノア、ヴォクシア、何処!?」
「お母様、お姉様、お父様、何処ですか?」
「「「え、あなた達は、誰ですか?」」」
声のある方に導かれ、カルーラの部屋に集まった三人。
それぞれ二宮家族達と入れ替わり、その持ち主の部屋に飛ばされていたドンマイン家族。
何故かみんなベッドで寝ていた状態だったが、地震のように大きく揺れた感覚があり、瞬間的に飛び起きたのだった。
父親のヴォクシア以外は。
「え、誰って? 私、カルーラよ」
「え、お姉様ですか? 俺はレノアです。もしかして、お母様ですか?」
「当たり前じゃない。え、なんで姿が変わってるの?」
「「「なんで、こんなに凹凸の無い顔にぃー!?」」」
「の、呪われたのかしら? サム様のお母様のマリン様に!」
「あ、ありえるわね」
「俺、嫌ですよ。こんな顔」
「そ、それより、ここ何処? ヴォクシアは居ないの? はぐれたのかしら?」
「本当だわ、お父様がいない! 取りあえず探しましょうか?」
「なに騒いでんだ? 寝てたのに?」
大声で騒ぐ声に、さすがのヴォクシアも起床である。
「やだ、お父様ですか? ほっそりしてるわ」
「え、貴方、ヴォクシア? 貴方だけ凛々しい顔だわ」
「なんか強そうな顔ですね。良いなぁ」
「なに寝ぼけてんだ?って、誰だよあんた達は?」
「「「また、そこから?」」」
どうやら二宮家の事故と、ドンマイン家族の暖炉での一酸化炭素中毒時に、同時の異世界タイムリープが起こったらしい。
そう結論が出たのは、かずさと水樹の記憶がカルーラとレノアの脳裏にも浮かんだからだ。
特にアニメやラノベ、漫画からの情報が鮮明に。
まるで今まで経験してきたような感覚だった。
「どうやら、異世界転移らしいです。
この体の人物と入れ替わってしまったようですよ」
「なんか、それっぽいわね。
だんだん記憶を思い出してくると、私と別の記憶が入り込んできてる感覚よ」
「どうやらこう言うことは、僕達が知らないだけで時々あるみたいですね。
まずは気持ちを落ち着けて、この人物の記憶を探ってみましょう」
それでも、ルラミーとヴォクシアは困惑気味だ。
若者のように、柔軟に受け止めるのは難しい。
「お父様。ここがどんな所か知らなければ、死ぬだけですわ。
まずは情報収集が必要です」
「そうですよ、お母様。
まずはこの世界の暮らしを知るべきです」
そう言われると、応じるしかない。
早速思い出したことを、紙に纏めていくことにした。
元の世界では高級品の、白い紙が製本されたような物もたくさんあるので、一人一冊手元に置いて思い浮かぶことを書き留めていくことにした。
家の中にある置物、家電?などに対しては、見ると使用法が自然に浮かんでくる。
バタバタしていて忘れていたが、少し落ち着いてくると覚醒してから何も口にしておらず、喉も乾き空腹だったことも思い出す。
なので。
この体の記憶を辿り、徐に冷蔵庫に手を伸ばすカルーラ。
「あ、開いた。食べ物もある。飲み物もあるわ」
「本当ね。あらこの引き出しには、凍ったお肉もあるわ」
「これはかまど? 火がつけられるみたいだ。
お鍋もあるよ」
「お、つけてみるか? カチッ、ついたぞ。
魔道具みたいだな?」
「「「おー!」」」
「まあ今は、ケーキと飲み物にしないか」
「うん、これならすぐ食べられそう」
「美味しそう」
「いただきましょう」
そんな感じで、チーズケーキとフルーツケーキのホールと、ペットボトルのコーラとファンタを冷蔵庫から出して、ダイニングテーブルに並べる。
記憶を辿ると、今日は今の父の体の『秋男さん』の誕生日らしい。
どうやら夜は外食し、戻ってからケーキを食べる予定で事故にあったらしい。
中の人はヴォクシアだけど、誕生日の秋男さん(の体)がいることだしと無理矢理納得し、みんなで「誕生日おめでとう」と言って、ありがたく頂くことにした。
「うわっ、美味しい」
「うん、食べたことない、さっぱりした甘さだね。
いくらでも食べれそう」
「おお、チーズがこんなに濃厚に。酒にも合いそう」
「すごいわね、自宅でこんなご馳走が食べられるなんて」
カルチャーショックを受ける一同だが、記憶を辿れば食べた記憶はあるのだ。
でも過去の記憶だけでは、味覚は思い出せなかった。
「この世界、美味しいものが多いのかも?」
「そうね。自宅でこんなにご馳走が食べられるのだものね。
魔物もいなくて安心みたいだし」
「ああ、車は危ないかもしれないけど、治安はよさそうだな。
こちらでの秋男さんの仕事は電気屋?に勤務していたらしいな。
知識は秋男さんが持っているし、商売は今までもしてきたし、何とかやれるかもな」
「私はこの世界を見てみたいわ。
かずささんは漫画?を書いて家にいたみたい。
学園や仕事はしていないようだから、のんびりできそう」
「水樹さんは、大学で法律を学んでいたらしいよ。
あと、フィギュア?作成だって。
俺には無理だな。
でも大学で勉強はしてみたいな」
「華さんは家庭を守っていたようね。ご近所の散策をして、食事や掃除から始めるわ」
みんなで記憶を辿り、何とか生活してみようと話し合った。
お金のことや貯蓄のことも、二宮家族が普段どうしていたかを、思いを巡らしながら擦り合わせる。
学費、食費等、直近で使うものを銀行からお金をおろし、暫くの生活費にする。
そしてドンマイン家族は確信した。
自分達と同じように、二宮家族も生きていると。
何故だか此方では魔法は使用できない。
けれど向こうでは使用可能なので、何とか元に戻れるように頑張ってくれるはずだと願った。
きっと向こうでも、同じように生活をしてくれているだろうから、こちらでもなるべく同じように暮らしてみようと思った。
幸い今は日本では連休になっているらしく、秋男さん以外は自宅にいても怪しまれない。
明日から秋男さんの体の、ヴォクシアだけが出勤となる。
冷蔵庫の野菜室にも冷凍庫にも食料はあるし、水も蛇口から出る。
恐る恐るお風呂にもお湯を溜めてみると、入浴も無事にできた。
まるで高級宿のようだ。
「この世界はいろいろ進んでいるね」
「本当にね。貴族だって、こんな生活できないもんね」
「あ、そういえば、ここに居ればサム様にも追いかけられないわ。ホッとする」
「そうね、安心ね。
ここでは皇室があって、天皇様がいるけど、貴族は解体されたらしいわ。
国民は平等らしいわね」
「すごい。階級社会じゃないのね、嬉しいわ」
「住みやすそうな場所だね。
……でも、スマホかい? これは魔法じゃなくて、電気媒体の手紙みたいだけど、返信がかなり密だね。
毎日返信をしないと、心配やら不満が出るようだよ」
「「何それ、大変じゃない!」」
「まあ、魔道具だと思って、慣れるまで手元で観察しながら使ってみよう」
「そうね。怪しまれないようにしないとね。
元に戻ったら、こちらの家族が大変だものね」
「何だか面倒な面も多いな。明日は少し早めに出発するか」
「その方が良いわね」
かずさ達がカルーラ達の記憶を辿っていたように、カルーラ達もかずさ達の記憶を辿って、生活をスタートしようとしていた。
窓を見て10階の景色に驚いたり、エレベーターにみんなで乗って往復したり、お家周りの探検は終了した。
ただ最初はかずさや水樹の記憶から、異世界転生や転移が頻繁にあると思ってしまったが、それは架空の物語だとみんなの記憶から分かった。
そう、かずさと水樹の(オタクの)架空ファンタジーと、現実の記憶がドンマイン家族に区別がつくまで、暫く時間がかかったのだ。
ただテレビや近所を散策し、自分の入った体や顔が一般的だと判断してからは浸透が早かった。
というか、初めての異世界に関心が強くて、そこまで気にならなかったようだ。
残念ながら、好みの容姿は元の世界から変わらないので、日本人への恋愛感情には結びつきにくい(B◯Sなどの一部の外国人は別だったが)。
カルーラとレノアはわりと内気な姉弟なのだが、身分制度がないなら少し頑張ってみようと思っている。
サムの行動が、こちらの世界だとストーカー的な犯罪だと知り、人権が守られているこの世界に安心と羨望を抱くカルーラ。
この世界も、貴族社会からここまでになるには変遷があったと学び、カルーラは心に誓う。
元の世界に戻ったら、こんな風にしていきたいと。
レノアも水樹の友人に強制的に絡まれて、大人しく受け身ではいられなくなっていた(アクの強い仲間が多くて)。
フィギュアは大学の勉強の為に、一時止めていると説明すれば分かって貰えた。
だが、アニメイベントなどに強制参加させられていくうちに、ペンライトを両手に持ってオタ芸を身に付けていくのは予想外。
楽しくなっちゃうのも、想定外だった。
ルラミーは元々商人の妻で、ヴォクシアと接客をしてきたスキル上級者である。
華の記憶を呼び寄越し、着々と交遊を広げていく。
ヴォクシアは商人の対人スキルと、目利きの技を持ち営業成績をあげていく。
最初は不安だった仕事も、戸惑いはあるが難なくこなせていた。
カルーラ達のように、持参できたアイテムもあった。
カルーラは治癒の力(魔法)が使えない代わりに、医者並みの医学の知識が脳内に流れ込んできた。
さらに日本の医療に関する本が、いつの間にか部屋の本棚に並べられていた。
等価交換なのだろうか?
でもカルーラは学ぶことが好きで、綺麗なカラーの医学本に興味津々だった。
早速読み込んでいく。
レノアはボードゲームやチェスが好きだった。
そのままではこちらで使用できない為、女神の采配により、ネットでチェス等が対戦できるように調整してくれた。
女神の采配なので、無料で使用できるようだ。
媒体はSw◯tchで、既に水樹が持っていたのですぐに開始できた。
転移特典なのか、日本語と英語の読み書きは完璧にできる仕様だった(家族全員)。
そこでチェス対戦で大躍進し、場を荒らすのはもうすぐ。
ルラミーは、ヴォクシアに貰ったサファイアのネックレス等が入った宝石箱が側に置いてあった。
大きさや質も良く、この世界では何千万もしそうな代物だった。
お金に困ったら売ろうと思って、小ぶりの指輪を質屋の大◯で査定して貰ったら、いきなり500万の値がつき驚いて帰ってきたのだった。
向こうと金銭の価値は同じ位なので、指輪に元の世界の10倍の値がついて驚愕した。
「良かったわ。何かあっても何とかなりそうね」
金銭面で安心したルラミーだった。
ヴォクシアは大事にしていた、父がドワーフに貰った包丁や鍋。
価値を見て貰おうと街角鑑定団に出たら、現在では作れない金属で刀のような輝きだと、鉱物検査にかけて調査までされていた。
手法も不明とされ、学術的価値で数億円はくだらないと言う。
知人の預かり物なんですと、逃げてきたヴォクシアだった。
「ドワーフの仕事は、時空越えで称賛されているぞ。
さすがだな。
戻ったらもっと高値で買い取ろう」
なんてドワーフを称賛し売る気もなかったヴォクシアだが、その後刀コレクターに接触を図られることになる。
売らないと固辞するも、せめて写真だけでも頼みこまれ、包丁が特集されたその雑誌は『月刊伝統の逸品』で、問い合わせが殺到する事態となった。
売り上げも、過去最高記録を叩き出したそうだ。
「せめて公開展示を、カナ◯イの警備つけますから」
と、拝まれて国立◯美術館で3日間展示。
刀剣女子や刀コレクターも、こぞって来たという。
包丁なのに。
武家の子孫や外国のバイヤーも目をつけたが、カナ◯イが無事に銀行の金庫まで輸送してくれたと言う。
「ヤバイな、もう銀行に近づけないな」
どうやら売れば、巨万の富が約束されているらしい。
けれどヴォクシアは静かに暮らしたいので、ひっそりと気配を消した。
展示等を協力したコレクターからは秘密は漏れず、その後も何度か展示を約束するのは今後の話だ。
ヴォクシアも商売に生きる男なので、うまく人を見抜けたと満足したのだった。
そんな感じで日本に馴染むカルーラ一家だが、ルラミーだけはお肌のシミで悩んでいた。
「顔の作りは仕方ないのよ。でもシミは嫌なの~」
泣かれたヴォクシアは、誕生日にエステの全身コースをプレゼントした。
「何これ、最高よ」と感激のルラミー。
その後アルバイトに精を出し、エステに通うことになるのだった。
ちなみにあの時事故にあった車は、無傷で駐車場にあったそう。
勿論ヴォクシアは運転しないので、ずっと駐車場で眠っているのだった。
ドンマイン一家も、逞しく生きていますよ。




