思わぬ反響の余波
演劇は話題を呼び、とうとうこの国の王妃まで見たいと言い出した。
けれど彼女ファルミーが、おいそれと小劇場に来ることは不可能だ。
だが王妃は開演初日から、演劇のことを侍女から聞いてソワソワいた。
「料金が安いので、友人と試しに見に行ったのですよ。
ところが……プロの役者がほぼいないと言うのに、真に迫っていて見入ってしまいました。
全然迫力が違うんですよ。もうドキドキしちゃって、アリア役のミランダさんのキーホルダー、種類別で買っちゃいましたよ
続きも見に行きます!」
なんて風に楽しげに。
内容は他の人の楽しみを奪うからと言って、侍女は教えてくれなかったが、10話くらい進んだ後で劇場内で演劇の特集本が売られていたそう。
侍女は劇場に行けない王妃のお土産にと、購入したのだ。
それは、いわゆるあらすじ本。
『実の息子は悪妻に唆され、実母アリアの殺害をマフィアに依頼する。そのアリアを助けたパメラと、アリアのまっすぐさに恋するマフィアのドンの息子アレンの恋物語は、障害が多すぎて……それでも二人は諦めない。この恋の顛末はどうなる?』のような内容と、登場人物の写真と役柄が書かれたものだった。
そして、マフィアのドンの息子役役5人が歌う、テーマソングも購入して貰った王妃。
「ああ、見たいわ。絶対心踊る内容だわ。どうして私だけが見られないの。……そうだ! 息子のサンドルを王にすれば、私は引退できる! 時間ができるわ。そうしましょう、それが良いわ! ふふふふっ」
ふふふふっじゃない。
メチャクチャ重責を担っていて、周辺国の安全保障のバランスを結ぶ要役なのに、完全にダメな思考に陥っていた王妃。
実は彼女、学生時代から演劇部に入っていて、母親と共に帝国劇場へ通う大の演劇好き。
ただ優秀過ぎた公爵令嬢の彼女は、前国王に王太子妃にと指名され今の位置に就いた。
夫にも息子にも不満がなく、大変な仕事にも充実感を得て責任感をもって全てを熟し、帝国劇場へも夫婦で通う生活を続けていた。
しかし帝国劇場へ出入りはできても、小劇場に彼女は行けない。
もし行くとなれば護衛で席が埋まり、一般人が入れなくなる。立派な営業妨害である。
だからこそ余計に、渇望することになったのだ。
そんな彼女に、国王ベリーマスと王太子サンドルは慌てた。
「真面目な母上が仕事を放り出して、観劇したいから退位するとか言ってますよ。今の僕に国王は無理です。って言うか、僕まだ17歳ですよ。ウソでしょ!?」
「…すまんな、心配をかける。だが何とかする。今、リンダ夫人に相談しているから、時期に解決するはずだ」
「リンダ夫人? ってあの有名な?」
「そうだ。前国王である父の友人で、私も世話になっていたのだ。その伝手を辿り、何とか資金を多めに支払うことで、役者達の融通を図って貰おう」
「頑張って下さい、父上。もし僕が国王になれば、ロズミントに離婚されます。話が違うって殴られて!」
「り、離婚? 殴るって誰に? まさか……」
「彼女は辺境伯の娘ですよ。戦闘力は僕より数段上で、普段は冷静ですが、沸点を越えると手が出ます。
今も彼女は頑張っていますが、王太子妃の仕事で一杯です。
きっと彼女に王妃の責が加われば、「自分では役不足です」と言って、城を後にするでしょう。
そして僕は彼女を愛しています。離婚するくらいなら王位継承権を捨てますから!」
「そ、そこまでとは。分かった、急ぎ対応しよう」
◇◇◇
結果。
1か月後の金曜日の定休日に、小劇場を貸し切りにして王妃が観劇することになった。
勿論護衛も大勢付くことになる。
朝6時から入場し、休憩を挟みながら夜10時までの 公演を見る契約をした王妃。
支払金は破格の250万円で、金貨25枚だ。
普段の劇場収入は、25万円(金貨2枚と銀貨5枚)弱だ。
お金の価値は、
金貨1枚……………10万円
銀貨1枚……………1万円
銅貨1枚……………千円
半銅貨1枚………500円
が、だいたいのこの世界の相場である。
(資格を持たない平民の月収は、10万円~15万円くらいである)
国王はリンダ夫人に連絡を取り付け、リンダはルラミー(華)と役者達に相談を持ちかけた。
役者達は臨時ボーナスで納得し、華もそれで良いならと特別公演を快諾したのだ。
特別公演までの時間に、役割分担を綿密に調整していく。
アレン役は、筋肉5人衆が交代で演じる。
ミランダ、ガットレー、アパッチは余裕で本人が演じ、パメラ役はルフランやアクアリーネ、ティンクミリィも駆り出されることに。
彼女達はカルーラ(かずさ)とリンダ夫人の為に、すぐにに台詞を覚え、及第点的に演じることがまでに成長した。
他の共演者も、交代しながら演じることになった。
現状で物語は中盤まで公開されていたので、今回もそこまでの公演予定である。
王妃も演じる者が変わることには多少違和感はあったが、普通の演劇も日毎で交代で演じることを知っているので、不満を漏らすことはない。
と言うかもう。
物語に感情移入し、途中から泣きながら見ていたようで、満足して帰られた。
観劇中に感情を吐露する彼女は、テレビを見る主婦のようだった。
「ああ、アレンがパメラを庇って血が! うっ、なんでそこまでパメラを憎むの、酷い! うっ」
でもそれで良い。
この時間は国王から彼女に、プレゼントされたものだから。
ちなみに国王は隣にいない。
王妃の抜けた政務の穴を、必死に熟していた。
この国の高位貴族が職務怠慢で、国王夫妻の仕事が多すぎる件が勃発していたのだ。
グッズも大人買い(王妃買い)により、全種類買い求めていたと売り場の者は嬉しそうだった。
「私達の演劇は、王妃様も魅了するほど素晴らしかったのね。じゃなければ、記念のグッズは買わないもの!」と。
◇◇◇
「みんなお疲れ様でした。今日の特別ボーナスは、今から渡していくからね。美味しいもの食べて帰って。
そして疲れていると思うけど、明日もよろしくね」
「「「「はい、ありがとうございます!!!」」」」
本日の特別公演は、表向き周囲には内緒である。
なので明日の公演で、演者達が疲労しているのは内緒なのだ。
ただ……ハラハラの展開で、次回に続くの状態なので、王妃はまだまだパメラの物語に夢中である。
今後この物語が完結した後、再び特別公演が行われるのである。
さすがに長時間はきついので、2日か、3日の予定で組まれることになる。
夢中で見ていた王妃は別だが、演者も護衛も侍女達も、実はクタクタだったようなので。
次回も資金は同じ額で、日が割かれる。
その時は本公演も終了した後なので、役者達の負担は少ないだろう。
そして毎日通えない者のファンの為に、左の劇場では数回分纏めた演劇が公演されることになった。
毎日気になる派と、時間的に無理派が満足される形になった。
そして1000人の集客できる中央劇場では、3時間に纏めた物語をプロが演じることになったのだ。
その調整もリンダが行い、素人の芝居を見ない貴族達も『争いの向こう側~悲しき運命』を楽しむことになった。
若い役者が認められ、少しずつ中央劇場へ移ることになるが、高位貴族は演技を楽しみ、右の劇場から出世した役者を見守っていた(応援していた)者は、母のように涙して喜んだ。
水樹のフィギュア館や飲食店、役の衣装を売っている洋裁店、劇の小物を売る雑貨店等が益々賑やかになり、観光地のようになっていく。
元は寂しかった場所は、中心地区と並ぶ人気の街になったのだ。
そして益々リンダとカルーラ(かずさ)達は資産家となり、憧れと嫉妬と悪意に狙われることになるのだ。
でも悪党達は知らない。
今の彼女達には、王妃(おまけの国王も)が味方に付いていることを。
さらにリンダはただの老夫人ではなく、イザベラ(シルバーの妻)やミランダ、ガットレー、アクアリーネ達の協力を得ながら勝手に悪事を裁いていく独善家気味なところもある。
協力者もリンダ愛が強く、彼女に手を出す者に容赦はない。
カルーラ(かずさ)達は大きな権力二つに、知らないうちに保護されていくのであった。
◇◇◇
その頃の国王は………………。
『パーミテーション(意味は順列)』の歌声を魔石を使った録音機能付きの魔道具入っているのを、王妃の部屋で見つけた。
「音だけではなく映像も映れば、王妃も毎回騒がないのに! 待てよ、それ良いアイディアだな!
側近のアラビよ。至急、王宮魔導師と魔導具師に構想させよ!」
「はっ、お心のままに」
走り抜けるアラビは、このアイディアにますます国王に忠誠を誓った。
「さすが国王。これが出来れば、多くの富が国に舞い込むでしょう。私の主は最高でございます!」
幼い頃から世話をする側近は、彼にとても心酔していた。そして王妃のことも敬愛していた。
少し先の未来。
優秀な魔導師達のお陰で映像の録音機は完成し、この国の文化はますます発展することになる。
そして王妃も、心置きなく政務に励むのであった。




