演劇スタッフとの顔合わせ
R7、9/3 誤字報告ありがとうございます。
大変助かりました(*^^*)
かずさ、華、シルバーは、劇場予定の建物の前で、スタッフを待っていた。
この場所は大通りから少し離れた場所で、なかなか集客ができずに、空き店舗が多い場所だった。
日本で言えば、シャッター商店街と言うところか。
田舎の娘の世話になるから、空き店舗を買い取ってくれと泣きつかれた華は、仕方なく買い取ることにした。
それは従業員の祖母だったからだ。
いわゆる縁故での売買だ。
けれどその祖母は結構な苦労人で、戦争で若い時に旦那が徴兵され、戦死したらしい。
勿論旦那も若かったが、その時には3人の兄弟の母親だった。
運良くこの国が戦勝国となったが、遺族年金では3人の子育てには不足はある。
当然のように再婚を薦められたが、若かり日の祖母は亡くなった旦那が好きだったし、再婚後は子供が不遇な目にあうことが当然のような世の中だったので、しなかったのだ。
その代わりに、親戚の食堂で休みなく働くことに。
弟妹の面倒と家事は長女が熟なしながら、てんやわんやで生きて来た。
できる限り年金は貯金し、子供の学費にまわす。
次第に国の景気も良くなり給料も上がったが、彼女達が贅沢をすることはなく、子供達も協力しながら、節約をして丁寧に生きていた。
ただ誕生日と正月だけは、少しだけ贅沢して喜び合った。
そうして長女、長男、次女が、節約のお陰で平民の高等の学園に通え、年齢順に結婚もしていった。
若かり日の祖母が立派な中年になった頃、親戚の店を譲り受けて店主になった。
勿論相応の金銭は、支払うことにはなったが。
その後は数人の従業員を抱えながら、時々子供達の孫を背負いつつ、最近まで食堂を営んでいた。
常連客も年を取って減っていき、従業員は自立して場所の良いところで店を出している。
人の通りが少ない場所を継ぎたい者もいないので、店を畳むことになる。
かなり古いので価値もないかもしれないが、土地付きなので色を付けて欲しいと、従業員の孫と祖母が頭を深く下げてきたのだ。
「オーナー、お願いします。頑張ってきた祖母に、どうかご褒美を下さい。お願いします」
「無理を言ってスミマセン。でも、これ以上は働けないから、お世話になる資金が欲しいのです。お願いします」
気持ちは分かる華だが、甘い顔だけはできない。
それをやれば、各方面から漬け込まれることになるからだ。
だから一つ、条件を付けたのだった。
「言いたいことは分かったわ。この場所は空き家が多いから、閉店している家を纏めて購入したいと思うの。
少なくても、貴女の店の右か左の売却をお願いしたいわ。
それができれば、そのお店も相場より多く買い取りすると伝えて下さいな。
良いでしょうか?」
「はい。お待ち下さい。必ず話を纏めてきますから!」
もともと何処かに土地が欲しいと思っていたので、丁度良いと思った華。
その理由の原因は、水樹だった。
いくらドラゴン姉妹の仕事が多いからと言っても、家中に試作品の1/1スケールのフィギュアを置かれると、すごく落ち着かないのだ。
水樹としても、フィギュアメーカードンマイに置ける場所がなくなり、こっそり自宅のいたる所に1体ずつ置いていたのだった。
全然こっそりではないが。
それでもドラゴン姉妹のフィギュアを粗雑にはできず、フィギュアを置く建物を探していたのだ。
「水樹! 分かってると思うけど、半分は資金出しなさい。自宅を何だと思ってるのよ」
「……たぁ、ばれたか。良いよ、良いよ、もういっそのこと、博物館みたいにして陳列するよ。
土地が決まったら、お父さんに格好良い建物を立ててして貰うから。
あ、勿論、経費で払うからさ」
「Ok、契約完了ね。たっぷり報酬は、はずんで貰うからね」
「分かってるって」
そんなやり取りがあったことの、食堂売却の件だったのだ。
◇◇◇
「ええーっ、まさか。この一帯全部売却するって言うの?」
「はい、オーナー。建物が古いからって、解体料金で殆ど何も売却料金が貰えないなら、オーナーに売りたいそうです。良いですか?」
「う、うん。まあ、良いでしょう(殆ど水樹に買わせる予定だしね)。明け渡した方から料金を渡していきますから。
みなさんにも、そう伝えてね」
「ありがとうございます、オーナー。婆ちゃん、喜びます。勿論、みんなも。じゃあ、伝えて来ますね」
喜び勇んで、あっと言う間に姿を消すロック・ダリアートは、演劇の演者にも抜擢されていた。とにかく口が達者なのだ。
「もう、返事も待たないで。でも良いわ。きっと秋男さんも、広ければ創作意欲も沸くでしょうし」
そんな感じで立った建物は、大きな劇場一つと、小さな劇場が二つ連結した建物だった。
中央に大劇場、左右に小劇場が作られている。
大劇場は1000人を集客し、小劇場は左右100人ずつの人員が入場できる。
外観はオスロ・オペラハウスのように、この世界でも珍しいデザインだった。
オスロ・オペラハウスは、ノルウェーの首都オスロにある、スノヘッタが設計した大規模な歌劇場。
白い大理石の外観と氷山のようなデザインで、屋根の傾斜したスロープを歩くことで屋上から市街のパノラマを眺められる。
その周囲の四隅の土地に、3階建ての博物館が立てられていた。
既に劇場の左右の博物館には、所狭しとフィギュアが詰め込まれ、およそ500円(半銅貨1枚)で入場ができるように設定された。
お金の価値は、
金貨1枚……………10万円
銀貨1枚……………1万円
銅貨1枚……………千円
半銅貨1枚………500円が、だいたいのこの世界の相場である。
入場者には、ドラゴン姉妹のミニぬいぐるみがプレゼントされ、その代金を差し引くと、入場賃自体は100円くらいのものとなった。破格と言っても良いほどだ。
水樹も華も、ほぼ物置的な感じだったので、利益はそれほど考えてはいなかった。
そしてその建物の空間には、多くの屋台が建つことになる。一月ごとの契約であり、多くの参入者が可能となったのだ。
その纏め役も、その地域に住む人達が担うことになり、働き口が増えたのだった。
あくまでも庶民的な感覚の、楽しめる地域にするのが目標だ。
その第一段が小劇場での、毎日1時間ずつの昼メロ劇場だった。
毎日続くので、演者も時々入れ替わる。
1日3回の講演で、月火・水木・土日の講演だ。
10時から11時は、第1話。
14時から15時は、第2話。
18時から19時は、第3話だ。
2日ずつ講演し、次の回は4、5、6話と続いていき、金曜日は休日である。
見逃しが少ないように考えられた設定日だ。
料金は10回見て1000円(銅貨1枚)で、初回にスタンプを帳を貰って使うことになる。
続けて見ても、とんで見ても自由である。
これもまた演者が上達するまでの低価格設定で、まずは右側を使い、慣れて来た演者が増えれば月ドラ設定で、左側を使う予定である。
暫くは右側のみの使用となる。
◇◇◇
約束の時間前には。
劇場予定の建物の前に、華、かずさ、シルバーの元へ演者となる者と、舞台監督、助監督、照明、メイク、小道具、大道具となる者が集まった。
華のカフェの従業員(若者)以外は、シルバー紹介の元と現冒険者が多く集まり、その異様な雰囲気は重々しいものとなった。
「これから忙しくなります。みなさん、よろしくお願いします」
「「「「よろしくお願いします!!!!!」」」」
その声は地響きのように低く大きく、やる気が感じられる。特にシルバーからの紹介を受けた演者や大道具係は、真剣そのものだった。
(シルバーさんの顔は潰せねえ)
(ドンマイン家は、リンダ夫人の恩人らしい)
(リンダ夫人はシルバーの雇い主だろ?)
(ああ。だから実質の失敗は、シルバーだけでなくリンダ夫人にも及ぶ)
(マジかよ。これはもう、命がかかるな)
(そうだ。下手は打てねえぞ)
(おう、死ぬ気でやるぜ!)
なんて雰囲気に気付き、華が連れて来た若者達は息を呑んだ。
「こ、これって、失敗したら殺される?」
「まさかぁ。みんな初心者だから、ヨロシクね」
「本当ですか、オーナー? あっちの人達、気迫がすごいですよ」
「ああ。それは元冒険者だからよ。お爺ちゃんもいるから優しくしてあげてね」
「(いやいや。ベテランの冒険者は、お爺ちゃんじゃないですよ。レジェンドじゃないですかぁ~)そうなんですか?」
「そうそう。あ、あれがヒロインのライバル令嬢の父役で、ガッドレーよ。迫力満点でしょ?」
「が、が、ガッドレーって、あの炎の息を吐くマッドベアを、片手で一捻りした人ですよね。
顔は知らなかったけど、名前は超有名ですよ」
「あ、そうなのね。でも演技は初めてだからさ」
「あ、あれはミランダ・グランチェ、あっちはアパッチで……」
(陰険ジジイ、辣腕暴力ババアと、敵を容赦なくなぎ倒す現役だらけだぞ。ルラミーさんは冒険者でも養成する気なのか?)
「キャー、俊足のリンドールさんだ。美魔女のミランダさんもなんて、幸せ! 筋肉最の高!」
「筋肉良いよね。私も逞しい人好きなの~」
「そうなのね、エッちゃん。気が合うね」
「もう私達、親友ね。ユユナちゃん」
「勿論よ!」
「嬉しい~」
美形の若者達は、あまりの衝撃に震えていた。
そして怖すぎて、今さら役を降りることも出来ない。
一部の女子は、たいへん喜んでいたが。
「ヨロシクなっ」と冒険者達に握手されて微笑まれ、ぎこちなく「ヨロシクお願いします」と挨拶を交わす男子達と、喜色満面な女子達。
件のロック・ダリアートさえ、真面目な顔で挑んでいた。
その後の演技指導に、全員が決死の勢いだったと言う。
「みんなすごくやる気がある。これは早期に発表できそうだぞ! 逸材揃いだな!」
監督だけが、最高の現場だと微笑みを漏らしていた。
不真面目な者が一人いるだけで場がシラケると言うが、それがない現場に歓喜したのは助監督もだった。
こうして昼ドラ(のような)、『愛と悲しみの果てに』が始動したのだった。




