アクアリーネの対応に、悩むかずさ
最近幻のように、時々アクアリーネが見える。
姿が見えても、すぐに何処かに行ってしまうけど。
本物のカルーラが、サムの母親マリンと共にアクアリーネに虐められていた記憶は、一応脳裏に残っている。
かずさ的には映像のある夢のようで、大したダメージもないし恨んでもいないが。
ただ当事者のカルーラは、貴族達にされる嫌がらせに恐怖を感じて暮らしていたように思う。
「何だか向こうが怯えている感じもするけど、虐められた方が気にしていないとも言えないし。どうするかな?」
今現在、テュリンベイルと彼の妹、ティンクミリィは交遊関係があるらしく、テュリンベイルと仕事関係で外に出ると、たまに会うこともある。
どこの道にも通じる大きな通りは、文字通り誰もが通る道である。
偶然に顔を合わせたとしても、さすがに毎回過剰に反応されると疲れる。
対応に。
だって向こうは侯爵令嬢だから、気付かれて無視も出来ず挨拶をしなければならないから。
出来ることなら、スルーして欲しいところだ。
どういう訳か最近のアクアリーネは馬車移動をせず、ティンクミリィと歩いていることが多い。
それどころか、ティンクミリィとテュリンベイルの姉弟と、アクアリーネとゼスチェントの姉弟の組み合わせで、よく大通りの店で食事をしているとの話も聞く。
だからこそ、彼女がテュリンベイルの友人ならば、このままの関係では良くない気がした。
そんな風に思いながら、絵画スタジオ『ドンマイン』でドラゴン姉妹のイラスト描きをしていたら、テュリンベイルからアクアリーネのことで相談があると言われたのだ。
個室に移動すると、彼は彼女がかずさ(カルーラ)に謝罪したい旨を伝えてきた。
同意された話だと言って、彼女の家庭環境や彼女がサムに執着していた理由なども含めての説明もされた。
そしてアクアリーネが、カルーラにしたことを後悔していることも。
かずさ(カルーラ)的にはどうして彼から聞かされるのかと思うが、最終的には直接会いたいとのこと。
(相手は貴族なのに、ずいぶんと低姿勢だわ。会うのは少し怖いけど、断ってテュリンベイルに嫌われたくないし。……仕方ないわよね)
そう思い、謝罪のお茶会に参加することになった。
「私はいつでも良いですよ。テュリンベイルさんも一緒ですか?」
「僕は行けないのですよ。なんでも女子会? 的な感じみたいで」
「はぁ、女子会ですか?」
「ええ。仲介役にリンダ夫人の来るらしいです」
「リンダ夫人がですか? それは大事ですね」
「そう、ですよね。なんでもアクアリーネさんと僕の姉がリンダ夫人の仕事を手伝った関係だそうです。詳しくは分からないのですが」
「そうですか? 分かりました」
「場所はリンダ夫人の別邸だそうです。当日は僕の姉、ティンクミリィが迎えに行きますので、よろしくお願いします」
「ええ。了解しましたわ」
そんな感じで、アクアリーネの話はそこで終わった。
だけどテュリンベイルが、アクアリーネのことを『アクアリーネさん』と呼ぶのが気になった。
(普通ならアクセント侯爵令嬢とか、アクアリーネ嬢とかだと思うのに、さんづけだったな。親しいのかな?)
彼に聞くこともできず、かずさ(カルーラ)は業務に戻っていった。
(私と同じね。さんづけなんて)
蟠りが消えないままの心は、何故か締めつけられるようだった。
◇◇◇
当日。
テュリンベイルの姉、ティンクミリィが迎えに来た。
「お迎えにあがりました。今日はよろしくお願い致します、カルーラ様」
綺麗な淑女の礼をして、かずさ(カルーラ)を馬車へ誘う彼女はテュリンベイルに似ている気がする。
複雑な思いで馬車に乗るかずさ(カルーラ)。
その後方からは、リンダ夫人が派遣した護衛も密かに付いて来ていた。




