アクアリーネは思う
ブルネットの髪と青空のような瞳の爽やかさのある可愛い感じの彼、テュリンベイルは女性に人気がある。
ティンクミリィや彼女の姉達に関わり、彼のモテ話や自慢話を聞くことが日常になったアクアリーネ。
最初は弟が好きすぎて、大袈裟に盛っていると思っていたけれど、幾つか聞く話で真実かもしれないと思い始めた。
彼は幼い時から優秀で、学園の試験も常に満点。
図書館で知識を貪り、専門的な理論が身に付いていたことで、教師陣の誤った知識を指摘することもあった。
それもこっそり、誰にも分からないように文章にして。
一見すると質問状のようである。
それも多くの教師達に。
もう学園に通わなくて良いんじゃない?
なんで通っているの?
なんて疑問も生まれる程だった。
まあ貴族なので、一応嫡男なのでとしか彼は言えないのだが。
当時は家族と和解しておらず、「家族から逃げられる場所だから来ている」とも言えなかった。
そんな時に友人と共にイラストのアルバイトを行い、カルーラ(かずさ)と組んで仕事をしている状態なのだ。
彼を知る教師達は、彼が卒業後に上級の学園へ進学することを信じていたし望んでいた。
学園始まって以来の天才だから、きっと官僚になれるだろうし、才能を認められれば高位貴族の後見が付いたり、婿としても引く手数多だろう。
なんてことに考えを巡らせていた。
顔良し、頭良し、性格良しの三拍子揃った逸材だ。
是非成功して欲しい。
なのに彼が選んだ職場はトキ◯荘、じゃなくて絵画スタジオ『ドンマイン』である。
「「「なんで? いったいどうして!?」」」
彼の優秀さを知る誰もが、驚愕したと言う。
けれど、彼の家族だけは満足していたらしい。
無理して出世するより、好きなことをして欲しいと。
一応後継者となり男爵家を継いでくれるそうなので、もう何も思うところはないそうだ。
野心ゼロである。
彼のことを知る上級の学園の教師陣も、宰相まわりの人員達もその動向を注目していた。
「優秀な人材を確保したい。いつでもウェルカムだ!」
「ライバルはこれ以上いらない。来るんじゃないぞ、男爵令息ごときが!」
テュリンベイルには、どうでも良いことだったが。
その反面で、経済学者達は思った。
「今の我が国の経済は、リンダ夫人の手の内にあると言って良い。
今後貴族社会の根底が揺らぐ可能性もある為、国よりもそちらに付く方が将来性があるのではないか?」
「彼のいる場所は、ドンマイン家の令嬢と令息が近くにいると言う。
リンダ夫人の小飼であるドンマイン家に近い位置にいる方が、出世を見込めると思ったのではないか?」
「噂だと、既にカルーラ嬢と良い仲らしいぞ!」
「「「まさかもう、既にドンマイン家の懐に入ったのか!!!」」」
なんて勝手に話されていることなんて、知るよしもない。
実際、見当外れでしかないし。
そんな中でアクアリーネは、ゼスチェントと共にテュリンベイルとも交流する。
勿論ティンクミリィも傍にいる。
それでも口煩い貴族達は、いろんな噂を面白おかしく流すのだ。
「あらあら、アクアリーネったら。あんなにサム様を追いかけていらしたのに、今度はテュリンベイル様にまで近づかれて」
「なんて多情なのかしら? ああ失礼しましたわ。
交流範囲がお広い、ですね」
「美形を侍らせるのが趣味なのから? 侯爵令嬢なのに慎みが、ねえ?」
完璧令嬢と敬っていたアクアリーネの変化に、まわりは過剰に反応する。
けれどアクアリーネはサムとは婚約していないし、とやかく言われることではないのだが、足を引っ張ろうとする者は多い。
自分の価値を上げる為に、他を蹴落とすのだ。
しかしアクアリーネがそれに反応することはなく、ティンクミリィ達と行動を共にしている。
彼女の父ビルネールは、リンダ夫人にブランダン男爵家が気にいられている情報を掴んでいたので、アクアリーネを引き離すことはしなかった。
どうやら様子を見ているようだ。
ウォンディーヌやミルティアは、「男爵家なんかと仲良くして恥ずかしい」なんて嘲笑っていたが。
アクアリーネは共に過ごす時間が出来ることで、ティンクミリィやテュリンベイル、ゼスチェントにも心を許していた。
特にテュリンベイルの外向きでは丁寧な口調であるが、身内にはやや砕けた話し方をすることにも好感が持てた(今はアクアリーネにも、その口調で接してくれている)。
サムには、最近接触していない。
ただ父ビルネールの機嫌を損ねないように、サムの母マリンとは交流を続けていたが。
時々テュリンベイルとカルーラの恋の噂が、アクアリーネにも聞こえてくる。
以前カルーラに嫌がらせをした手前、不容易に近づくことも出来ない彼女。
ただティンクミリィは、2人の恋ばなを聞いたことはないと言う。
初めて家族以外の異性と多くの時間を関わっているせいか、噂が気になってしまう。
(ベイルはカルーラが好きなのかしら? もし2人が付き合えば、もうこんな風に男爵家にお邪魔できないわね)
寂しさと共にチクンと胸が痛むアクアリーネは、まだ恋も知らないのだった。




