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愛と悲しみのカルーラ  作者: ねこまんまときみどりのことり


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犯人

 横領犯が捕まった。



 それはアクアリーネ達の直属の女性上司である、ニナーベだった。


(あんなに笑顔で迎えてくれたのに。優しくて真面目な人なのに、どうして?)

 ティンクミリィの胸に、強い衝撃が走る。


「忙しくて大変だったよ。仕事が出来る子が来てくれて良かった」と言って一から親切に教えてくれ、2人の母親よりも年が上だという。


(人は見かけによらないのね。(アクアリーネ)のお母様より頼りがいがあって、あたたかな雰囲気なのに…………残念だわ)


 彼女は信頼されていた。

 だから重要な仕事も任されたのだ。


「お付き合いしている人が事業に失敗して、お金の返済で爵位を失うと泣きつかれて…………。

 申し訳ありませんでした。うっ、うっ」


 泣き崩れるニナーベに、同情の視線が向けられた。

 調査によると件の男は結婚詐欺師で、ニナーベの仕事を調べた上で近付いたようなのだ。


 その男は平民に変装し、何度も何度も仮名で融資を受けていたらしく、記入されている住所を調べその場に住居があるか調べるのが彼女の仕事だった。

 近所にも聞き取りし、年単位で健全に暮らしていることが融資の条件だった。

 その後に書類の必要事項を記入し、上司に承認を受けるのだ。



 その審査は本来2人1組だが、何故か1年前から彼女が1人で行っていた。

 一時的に欠員が出た時から、補充せずにいたかららしい。


 それでも。

 信頼されている彼女に、何も言う人がいなかった。

 そもそもとうに、補充されていると思われていたのかも知れない。


 銀行のチェックも甘かったと言うことで、今後は専門の監査員制度を導入することになった。

 各部門の人員の見直しもされるそうだ。




 当然のようにその結婚詐欺師トミーは、再び姿を現したところを捕まえられた。


「俺は何にも知らない。あいつの言う通りにしただけだ。

 こうすれば爵位を守れるって。

 離せってば! 俺は男爵だぞ!」


 驚いたことに男は本当に貴族だった。

 没落貴族トミー・フャンラ男爵。

 隣国の領地のない貴族で、線の細い優しげな顔を利用して女性を騙して暮らしていたらしい。

 騙された女性達からすると、童顔で庇護欲が湧く感じに見えるそうだ。


 被害者は何れも、独身のキャリアウーマンらしい。

 社会の荒波で、懸命に働く女性達の天敵である。


「信頼されていたのにこんなことをして、許されないと思っています。どんな罪でも受け入れますから」


 ニナーベは土下座しながら、リンダをはじめとする役員達に謝罪した。

 そこには、アクアリーネとティンクミリィもいた。


 駄目だと思っていたから、後から補填するつもりだった。

 けれど男の要求額がどんどん大きくなって、手に負えなった際に、こうも言われたそう。


「もう君は犯罪者なんだから、一緒に堕ちていこう。俺には君しかいない。愛している」等などと。


 言っていることは情事後の睦言ようなのに、恋に依存した気持ちは揺らいでしまったのだろう。

 娼婦も結婚詐欺師も同じだ。

 寂しさを癒され嵌まっていったのだろう。

 娼婦や男娼のように、ハッキリと性欲だと割り切れた関係なら、深みに足も取られないのに。



 ただ話を聞いていくうちに、笑い事ではないと思えたアクアリーネ。

 少し気持ちが分かるかも? と思ってしまった。

(今はティンクミリィ達やゼスもいるけど、少し前の私なら優しくする人がいたら縋っていたかもしれない)


 犯罪は悪いことだけれど、魔が差す瞬間は誰にでもあるのだろうから。


 彼女は(トミー)のせいだと、一言も言わなかった。

 けれど(トミー)はニナーベが全部悪いと逃げた。   

 横領金を全額使っていた癖に。


 貴族を欺いた罪は重い。

 特にニナーベは平民だ。

 そしてトミーは一応貴族。

 でも悪さを繰り返しているので、引き取ろうとする後ろ盾はいない。


 忘れているかもしれないが、リンダは経済をまわす大富豪の前侯爵夫人で、息子は侯爵だ。

 親族にも公爵もいる。

 隣国の男爵など、取引のある隣国国王に言えば何とでも出来るのだ。


 だからニナーベは死刑。

 トミーは隣国国王の許可を経て、鉱山に送った。



◇◇◇

 そしてリンダの側近には、ニナーベに良く似たベラーナという未亡人の子爵が加わった。

 リンダは国王との密談により、書類上でニナーベを亡き者にして、新たな身分を与えたのだった。


 リンダ曰く。

「有能な人材は大事ですもの。それに刑が軽いと類罪が起きそうだしね。ここら辺が落としどころでしょ」


 罪を憎んで人を憎まずらしい。


 今後ベラーナになったニナーベは、決してリンダを裏切らないだろう。


 優秀な手駒がまた一つ手に入り微笑むリンダは、仄暗さを他人には見せない。

 彼女が素を見せるのは完全に信じるものか、裏切れなくなった者にだけだ。


 リンダの執務室には、ベラーナがいる。

「私の忠誠と命はリンダ様のものです。如何様にもお使い下さい」

「ええ。期待しているわ、ベラーナ」


 ただの善人が経済をまわせる訳がない。

 けれど、それに気づくものは多くはないのだ。




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