リンダ夫人との出会い
今日も舞踏会の為に、多くの人が王宮に集う。
テュリンベイルはフィギュアメーカー『ドンマイン』の依頼で、グッズにイラストを描いている。
その仕事の関係で、必然的にレノアやカルーラと関わることが多くなった。
と言うか、カルーラに巻き込まれている感じだが、テュリンベイルも嫌ではないのでOKなのだ。
最近の夜会でゼスチャント・アクセランテ侯爵令息と友人になり、彼の姉であるアクアリーネの友人候補として、テュリンベイルは姉達を紹介した。
侯爵令嬢と男爵令嬢の付き合いだから、多少ぎこちなさがあると思ったが、案外仲良くやれているようだ。
テュリンベイルのすぐ上の姉ティンクミリィは、アクアリーネの1つ年下。
その上の姉インフィニは、アクアリーネと同い年。
そのまた上の姉シンディアは、アクアリーネの3つ上で、既に子爵夫人である。
(姉達もサファイアのような透き通った青い瞳と、深紅の艶髪を間近で見て眼福したと喜んでいたから、良い影響を受けているみたいだな)
最初はテュリンベイルからの依頼だったが、今はもう姉達は関係なく声を掛け合っており、ゼスチャントも少し安堵していた。
(ああ、アクアリーネ様が微笑んでいる。
…………良かった。本当に…………)
ゼスチャントの心境は、孫娘を心配する祖父のようだ。
初めてのお使いのように、遠くから姿を見て涙ぐんでいるものだから、どうしたのだろうと周囲の好奇心をくすぐる。
「ああ、そんなに辛いのだめか?
僕の好物を、適当に取り皿に入れて済まないな、ゼス。
旨いから進めただけなんだよ」
「(誤魔化してくれたんだな。ありがとう)
もう大丈夫だよ、少しむせただけだから」
「そうか。じゃあ、あっちで水でも飲もう」
「うん。却って済まないね」
何て言いながら場所を移す、テュリンベイルとゼスチャント。
婚約者のいない美形の彼らは婚活市場で人気がある為、逃げ場所は既に確保済みだ。
その隙を見て、アクアリーネに近づくリンダ夫人だ。
「あらあら。仲良しで良いわね。
お婆ちゃんも、話の仲間に入れてくれない?」
しれっと下手に出る夫人に、アクアリーネとテュリンベイルの姉達に緊張が走る。
前侯爵夫人で現役で経済をぶんまわす、今や国一番の富豪のリンダだ。
テュリンベイル家の男爵令嬢達は勿論のこと、侯爵令嬢のアクアリーネだとて、話すことが稀の時の人なのだ。
だがそこは、さすがのアクアリーネ。
華麗なカーテシーで挨拶をする。
「お目にかかれて光栄でございます。
私はアクセランテ侯爵の長女、アクアリーネと申します」
「私はスターニ子爵の妻、シンディアです」
「私はブランダン男爵家の次女、インフィニです」
「同じくブランダン男爵家の三女、ティンクミリィです」
順々に挨拶をする彼女達を、リンダ夫人は笑みを浮かべながら見つめている。
「ご挨拶ありがとう。
皆さん、とても洗練された作法をされていますね。
若い方が優秀で、我が国は安心ですわ。
うふふっ」
「夫人に言われると、身が引き締まる思いですわ」
「これからも研鑽に勤めます」
「嬉しいお言葉ですわ」
「比べるのことも烏滸がましいのですが、リンダ様。
アクアリーネ様の優秀さは群を抜いておりますわよ。
私の憧れですの」
和やかさにつられ、アクアリーネ達も次第に緊張が解けていく。
少しずつ会話も増え、その内容が抽象的から具体的なものに変わった時、リンダ夫人から提案をされた。
「ねえ、ご令嬢方。
私今、ちょっと忙しくしているのよ。
少し力を貸して頂けないかしら?」
ニコニコのリンダ夫人に、その場の勢いで了解の返事をしてしまう彼女達。
リンダ夫人は、心の中でほくそ笑む。
(ふふふふっ。上手くいったわね。言質を取っちゃった)
どうやら計画は、夫人の思う通りに進んでいるようだ。




