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愛と悲しみのカルーラ  作者: ねこまんまときみどりのことり


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18/44

ルフランの絶望

2/5  7時 たくさんの誤字報告、ありがとうございました。大変助かります( ´∀`)

 ルフランは幼い時から、金儲けだけが生き甲斐のような父シエンタの顔色を見ながら生きてきた。


 母マリンは嫡男のサムに付きっきりであった為、次兄のジムニーだけがルフランの心の支え。


 お互いが両親から放任されていたから、身を寄せ合って生きてきたのだ。



 けれどそのジムニーも、成長する毎にシエンタの依頼を熟す為に彼女から離れていく。

 見目良く優秀な次男は、使い勝手が良いのだろう。

 その反面、彼女はさらに孤独を深くしていく。


「私は女だから、出来ることが少ないのかしら? 

 ジムニーと一緒に学んできたから、知力的には劣っていない筈なのに………。

 私だけが、いつも置いてけぼりね」


 寂しさを抱える大人しい彼女は、専属侍女にすら悩みを打ち明けられないでいた。

 ましてや懸命に仕事を熟すジムニーに、嫉妬しているような話をすることは出来なかった。


 彼が行っていたことは、嫡男であるサムの後始末だった。

 プライドだけは高い長男は人の手を借りるのを嫌い、父親(シエンタ)からの経理仕事(領地経営の一つ)を任されていてもなかなか手を付けずに、後回しにすることが多々あった。


 今思えばカルーラを追いかけ回し、時間もなかったのだろう。


 領地に向かい領主と話し合いをし、金額に折り合いをつける大事な仕事。

 高圧的なシエンタには頭が上がらない領主でも、その子息には交渉事を口にする。

 それは領主としては短期的な機会である。


 まだ駆け出しの時期後継(サム)は、当主(シエンタ)と相談しながら事に当たる。

 その際当主(シエンタ)の意見が入る前に後継たる子に意見が求められ、方向性が固められる。

 ある意味試験のようなものだ。


 ロンベサール伯爵家に男児は二人。

 基本的には長男のサムが家を継ぐ。

 けれどサムが愚かであれば、次男のジムニーに順番がまわる仕組みだ。


 しかしながらサムは、妻であるマリンに激似である。 

 その為マリンはサムばかりを贔屓し、世話を焼いていた。

 マリンの実家は公爵家。

 シエンタとしては、なるべくなら避けたかった政略結婚だ。


 彼女の我が儘で堪え知らずの性格は、サムに受け継がれた。

 いや、たとえ受け継いでいなくとも、彼女に甘やかされれば駄目にもなるだろう。

 今の二人(サムとマリン)は、同じような性格になってしまっていた。



◇◇◇

 シエンタには、心に秘めた女性がいた。


 子爵令嬢のアカシア・バルレンだ。

 黒髪茶眼の大人しくて優しい娘。

 子供同士のお茶会で転んだ令息を気遣う言葉をかけ、可愛いらしいハンカチを水で濡らして膝を綺麗にしてあげる聖母のようだった。

 その流れる出来事に、目が釘付けになった令嬢令息が多くいた。



 彼女は「弟妹が多いから、このような処置は慣れているのです」と微笑み、すぐに現れた侍女にその場を任せて、元の席に戻り令嬢達と話を再開していた。


 その席の令嬢達は、もうそんな彼女のことを知っているようで、驚きもしていなかった。

 彼女にとっては、それくらい普通のことだったのだろう。


 婚約者のいない彼女に好感を抱いたシエンタは、両親に是非彼女と婚約したい旨を話すが、時期後継となる彼の願いは聞き入れられなかった。

 彼には妹しかおらず、伯爵家の嫁には強い家門が必要だったから。


 彼もそれに逆らわず、甘やかされて我が儘な性格のマリンが婚約者となり妻となった。

 後ろ楯に公爵家を持つマリンには、逆らえない。


「私の美貌なら、王妃にでもなれんだから。

 でも仕方ないわね。

 王子様とは5つも年が違うから、貴方で我慢してあげるわ」


 いや5才くらいなら、丁度良いだろうに。

 きっと彼女の親が、言いくるめたのだろう。


 王家を除く高位貴族(大公、公爵、侯爵)達は、彼女のような綺麗だが愚かな女性を受け入れない。

 だが伯爵家で息子(シエンタ)を駒だと思う彼の親は、家の利益の為にあっさり彼女を受け入れた。

 そして思った以上に金銭面で潤ったことで、マリンに下手に出て持ち上げるので、彼女の増長は止まらない。


 そして、現在の伯爵家の出来上がりである。



◇◇◇

 そんなある日。


 母マリンが侍女へ話している会話を、ルフランが偶然に聞いてしまった。


「侯爵令嬢のアクアリーネ様なら、サムの妻に丁度良いわ。

 そうなればルフランは、権力のある男性に嫁入りさせましょう。

 サムが今後も苦労しないように、盾になってくれる家へね。

 え、顔なんて気にしないわ。

 年だって離婚歴だって関係ないわ。

 子供は親の言うことを聞かなければならないわ。


 だからルフランには婚約者がいないのよ。

 結婚年齢になって、一番条件の良い男性に嫁ぐ為にね。

 可愛いそうなんかじゃないわ。

 権力は大事だもの。

 平民になって、贅沢出来なくなるよりマシでしょ?」


 自分のことは棚に上げ、子供と夫には厳しいマリン。

 いつまでも公女のままで、成長は止まっている。



 こんな形で、母親に愛されていないことを知ったルフラン。

 父親も子に関わることが少なく、商売のことばかり考えているようで、家にいることが少なかった。

 シエンタが自分(ルフラン)を大事に思っているなんて、欠片も思うことはない。

 彼が家にいないのは、マリンが煩わしいだけなのだ。

 子に興味があるようにも見えない。


 そこからはもう、絶望の連続だった。


「いつか醜悪で傲慢な男に嫁がされる。

 私はただの駒…………」


 そんな絶望の淵を見たルフランが、自身の美貌を生かして今のような男を侍らす女性になったのには、こうした理由があったのだ。

 ただ貞淑な彼女は淫らなことは一切していないし、シエンタの付けた影の護衛達にいつも守られている。

 専属侍女マルタもその一人だ。


「なんか病んでるのよね、この子。

 旦那さまと話し合えば、いろいろ解決しそうなのに」


 なんて思っても、余計な口は出さない処世術。


 ルフランは母親の真似をしながら、疑似的なハーレムを作り上げていくことに成功した。

 その殆どが護衛達の血と汗と涙の結晶であるが、彼女が気づくことはない。


 悪ぶる彼女だが、実際何にもしていないが正解。

 頭は良いけど、うまく立ち回れず常にサポートを受けているが、それが全て自分の力だと勘違いしていた。

 だからこそ今回、作戦失敗で怒りまくっているのである。


 いくら護衛達でも、他家の子息に無体は働けない。

 特にレノア(水樹)達には、リンダ夫人が控えているのだから。


 そこそこにルフランに手を貸し、潔く手を退きシエンタに報告する護衛達。

 彼らはシエンタの人の良さがわりと好きだから、長く協力している。

 根っからの悪党ではなく、彼がマリンの我が儘にいつも割りをくっているのも知っていた。


 ただ老舗の楽器事業の傾きは、伯爵家に損害をもたらすから、ルフランがうまく立ち回ってくれたら良いと、護衛達も希望を持っていた。


「あのレノアのフィギュアは、ルフラン様似だから、レノアがお嬢様を好きになれば、案外うまくいくのになぁ。

 お金があるドンマイン家なら、お嬢様もヒヒ爺とかに嫁がなくても済みそうなものなのに……」


 けれど、そううまくいかない。

 父親(シエンタ)に見捨てられないように、頑張るルフランは端からだと憐れに見えた。


「お金や美貌があっても、どうにもならないこともあるんだなぁ」


 護衛達は、ジムニーがうまく逃げたと感心した。

「全部捨てたか、あの坊っちゃんは。でも幸せそうだな」


 その様子も勿論、シエンタに報告済みだ。

「最初はびっくりしたが、あの子(ジムニー)はそれが幸せなんだな。

 なら仕方ないよな」


 シエンタは、子供達だけは愛していた。

 だから無理に、ジムニーを連れ戻すことはないだろう。


「もう楽器事業は、そのままでも良いよな。

 それが潰れてもまだ伯爵家は安泰だ。

 皮肉にも公爵家の恩恵で潤っているからね。

 ……それに何も経営のことを知らないマリンは、少しの赤字のなんて気づきもしないだろうし。

 ふははっ」


 自分の苦悩を僅かでも知らぬ妻へ、渇いた笑いさえ起きる。

 妻にとってシエンタは、顔が良くて伯爵家当主であるアクセサリーに過ぎない。

 本当はもっと、高位貴族に嫁ぎたかったのが彼女の本音。

 煩く言われないことを良いことに、宝石を買い男を侍らせやりたい放題だ。

 それでも彼女は、(シエンタ)に愛されていると思っている。


「こんなに美しくて気品のある、公爵令嬢の私を娶れたのだからシエンタは幸せだわ。

 私も少しだけなら、シエンタに愛をあげるわ。

 うふふっ」


 シエンタには、マリンへの愛などない。

 見た目からして、彼の好みではないのだ。


 慎ましやかで優しいアカシアは、夫に先立たれ一人で嫡男を育てていると聞く。


「何か彼女の役に立てないだろうか? 

 いいや、駄目だ。

 俺が意味なくそんなことをすれば、彼女が好奇の目に晒されるだけだ」


 彼は告白さえしていない初恋に、今も心を囚われていた。



◇◇◇

 ルフランは思った。

 何もかもうまくいかない。

 愛するアクアまで、姿を見せなくなった。

 兄ジムニーはきっと、伯爵家に戻らないだろう。

 母親であるマリンは最初は怒っていたが、もうジムニーのことなど気にもしていない。


「平民と肩を並べる仕事なんてして腹立たしいけど、サムがいればもう良いわよ。

 やはりジムニーは、それまでの能力しかなかったようだしね。

 これで余っている子爵位は、優秀な跡取りのサムの子にあげられるわ。

 却って良かったかもよ。

 うふふっ」


 微塵の愛情も残さない言葉に「ああ、本当に私と(ジムニー)は駒でしかないのだ」と、認識させられたサフラン。


 だからこそ、レノア(水樹)に再び挑むことにした彼女。

 何か秘策があるのだろうか?




 シエンタは、子供達を愛していた。

 ルフランはただ、素直に甘えるだけで良かったのに。


 すれ違いは続くのだった。

 



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