かずさ、ドラゴン姉妹を描く
漫画を描いている人だけを、入居させるアパートを経営するかずさ。
賃金は彼らの収入により要相談で、無料に近いこともままあった。
高級ではない中堅のアパート的なその建物には、今も建築当時のメンバーが暮らしている。
このアパートはまだかずさが、今のように大金持ちになる前のものだ。
シルバーがコ◯ックやクレヨン、インクなどを増産し、大衆化させる前の、イラストや漫画を描いて得た収入だけで建てたので、マンションとは程遠いまさにアパートであった。
そこで絵の仕事に携わる人を優先して、入居させていたかずさ。
もう殆どが彼女の煩悩。
ただただ人様の描いた漫画が読みたくて、全面的に支援したようなものだったのだ。
当時、彼女が技術を伝授した教え子のような者達も、もう既に巣立ち独立している。
収入の増えた彼らは立派なマンションに住むことも出来るが、何故かあまり出ていかないのだ。
結婚したり子供ができて仕方なくということはあっても、同じジャンルの仲間がいるここは楽しくて離れがたいらしい。
ここには住んでいないかずさも、頻繁にここを訪れる者の1人だ。
何より気になる異性もいる。
水樹からはトキ◯荘かよ! とツッコミを入れられるこの場所は、今や人気漫画家や絵本作家の暮らす聖地のようなもの。
その為かずさの聖なる力で、建物には住人と住人から許可を得た者しか入れない結界が張り巡らされているし、門前(玄関と裏玄関)には護衛部屋が増設され、チェックを受けないと入れない仕組みだ。
そこはリンダ夫人のお墨付きがあり、高位貴族だろうが国王だろうが関係なく、住民の許可がなければ入れないことになっている。
勿論国王の許可を得て。
国王側もリンダ夫人やドンマイン家の恩恵で国が潤っているので、文句なんか言わない。
下手を打って国外に逃げられたら、元も子もないから。
贅沢ではない住居だけれど、警備最強のアパートは住む者達の金銭感覚を守っている。
かずさの聖なる力はお金がかからないし、門番の雇用料金はかずさの護衛料金として会社の経費に乗せられ、必要経費として処理されているので、入居者の賃貸料金は変わらないのだった。
その上で多くなった入居者の収入は、孤児院や教会に寄付されたり、後輩絵師を支援する資金にまわされているのだった。
かずさには気になる男性がいた。
彼女の好む絵柄で、少女漫画を描くテュリンベイルだ。
彼はもう、女心をこれでもかというほど繊細に描く。
本人曰く姉達の愚痴から拾いましたとか言うけど、漫画に昇華させる技術は、なかなか出来ることではない。
日本で多くのドラマやSNSを見て、知識だけはあるかずさでも、作品にするのはまた別なのだ。
そんな才能に彼女は惚れていた。
さらにブルネットで、青空のような瞳の爽やかさのある可愛い感じの彼は、多くの女性に人気があった。
今でこそ美少女のかずさ(体はカルーラ)だけど、元の姿を忘れていないので自分に自信がなかった。
テュリンベイルは端からでもかずさのことが好きなのがバレバレだが、かずさだけが気付かない。
今日は文房具やアクリルスタンドのイラストの件で、アパートに来ていた。
ドラゴン姉妹のイラストは適当に出来ない重要案件だ。
うまく纏まれば、今後も受注が続くグッズなのだ。
彼に相談するかずさは、仕事と言えど少し楽しくなる。
彼の方も勿論乗り気だ。
「僕、頑張ります。でも僕の絵柄で良いのか不安なので、たくさん相談に乗って下さいね」
潤んだ瞳で懇願されれば断れる訳がないし、断る理由はない。
「うん。何でも相談してね。共に良いものを作り上げましょう!」
「はい。カルーラさん」
アパートの住人達は、その甘酸っぱい様子に「2人をおかずに飯が食える」とほくそ笑む。
何だかんだと、みんな応援しているのだ。
そんなほんわかした時間で仕事を熟していく2人を、面白くない思いで見ている者達がいた。
サム&ルフランの、ロンベサール伯爵兄妹コンビである。
「俺のカルーラが浮気………ブツブツ………」
「カルーラが大人しく従っていれば、私の汚点などなかったのに……ブツブツ。
私のアクアが戻らないのも、あの女のせいよ!
ブツブツ…………」
ジムニー以外のロンベサール兄妹の心は、責任転嫁と嫉妬に染まっていた。
ルフランの方は、カルーラ関係ないのにね。




