二宮家族の葛藤
「本当に戻れるの? スゴいね。でも急にそうなると、なんか複雑だわ」
「そうよね。もうここで暮らすと思ってたから。ビックリよね」
「う~ん。俺もそうだよ。なんかこっちの方が自由でさ。すぐにどうとか、考えられないよ」
水樹は二宮家に戻り、ドラゴン姉妹の提案のことを伝えた。
なんだかみんな、そんなに喜んでいないみたいだ。
「まあまだ先の話さ。俺の技術を継げる職人を作るのが条件だから、あと数年はかかると思う。
その前に向こうの家族と会話? 念話みたいのが出来るようにしてくれるって言ってたよ。
取りあえずアクリルスタンドが出来たら、みんなで向こう(ドラゴン姉妹のところ)に行っても良いか、聞いてみようか?」
「ドンマイン家族と話せるってこと? すごいね!」
まあ普通は出来ないことだよね。
でも俺達がここに飛ばされたり、ドンマイン家族と入れかわったりが、もう普通じゃないからさ。
人間が知らないことって、まだまだたくさんあるみたい。
「なんか向こうの家族も、俺達の記憶を辿って普通に生活しているみたい。
特にカルーラさんは、サムの付きまといから解放されて生き生きしてるんだって。
みんな馴染んでるみたいだと、イメお姉さまが言ってた」
「水樹だけズルイ。私もドラゴン姉妹に会いたかったのに!」
むくれる姉に、困惑の俺。
仕事で会ったのに。
まあ、とても楽しい時間ではあったけどね。
「だから今度は一緒に行こう。試作品見せにさ。
ついでに観光がてら念話? のこともみんなで聞きに行こうよ。
もし向こうの家族が戻りたいなら、それも含めて考えなきゃいけないしさ」
「そうだよね。でも、もう今さら帰りたくわね。
向こうに会いたい人もいることはいるけど、こっちの生活の方が大事になってきちゃったし」
「そうね。もう3年だもんね。いろんなことがあったわ。私はこっちの学校も卒業したし」
「正直言うと、俺もここに残りたい。まだまだしたいことがあるんだ」
「ぶっちゃけ、俺も仲間と離れたくないよ」
「「「「そうだよね(よな)。頑張ってきたもんね(からな)」」」」
知らない場所で、一から手探りの生活を協力して続けてきた俺達。
以前と比べて断然仲が深まり、戦友とも言えるほど家族仲は深まった。
だから気持ちは痛いほど分かるのだ。
何となく生きてる日常から、懸命に生きてきたここでの暮らしは全然違うものだった。
身分の違いだとか偽物だと、糾弾されるのではないかとかも不安だったから。
「まあ、一度連絡して見るよ。
念話してから考えても良いんじゃない?」
「そうだね」
「心配してもしょうがないもんね」
「今は忘れよう」
不安は残るけど、取りあえずみんなに情報を伝えることが出来た。
本当は誰かが「帰りたくない。このままで良い」と、言ってくれるのを待っていたのかもしれない。
でも向こうの家族のこともあるから、勝手には出来ないよね。
出来るけど、それはフェアじゃないと思う。
縁があって繋がった2つの家族だから、しわ寄せが行かないようにしたいんだ。
その思いは境遇が一緒のドンマイン家族に対しても、同士のように思えるからだ。
今日も俺はフィギュアメーカー『ドンマイン』へ向かう。
職場のみんなは癖もあるけど、気の良いやつらばかりだ。
この世界に来て貴族とか面倒くせえと思っていたけど、貴族にもいろんな奴がいることが分かった。
そして資本主義が進んだ今の時代は、貴族制度は廃れていくのだと思う。
この国の周辺国では貴族は名残みたいな名称で、王族でも仕事を持っている人が殆どだ。
ドラゴン姉妹のいる国なんか、王妃や公爵令嬢や令息も軍に所属しているそうだ。
いくら強い魔法があったとしても、この国ではまだ考えられない。
逆に向こうでは平民を守る法律も整備されていて、貴族の矜持にあるまじき行為を戒めているそう。
そうなってくると、貴族とか平民とかあまり関係なくなるのかもしれない。
ずっと暮らすなら、そんな国は理想だと思う。
一昔前。
ドラゴン姉妹のいる国は、魔獣が溢れる人には暮らしにくい場所だったそうだが、王族達が乗り出して鎮圧したと言う。
国によっていろいろ違うものだ。
俺達とドンマイン家族は、国どころか世界が変わってしまったけど、どう思っているのかは聞いてみたいと思う。
魔法がない世界で、不自由していないだろうか?
彼らにしたら未来のような暮らしで、戸惑っていないだろうかとも。
ずっと心配していた、ドンマイン家族の安否が確認できて、正直安心している。
向こうの家族も、心配しているかもしれないし。
まずは話をしてみたいんだ。
◇◇◇
フィギュアメーカー『ドンマイン』では。
「レノア、おはよう。ちょっとお尻のパーツ見てよ。
これで良いかな? もっと大きい方が良い?」
「それは人それぞれの好みだからさ、ジムニーの好きに作ってみなよ」
「好みって。な、なんか恥ずかしいな」
「今さら何照れてるのさ。そんな甘いことで理想の嫁は作れんぞ!」
「理想の嫁かぁ。確かに今のところ、着衣のしか作れてないけど。
レノアみたいに、経験豊富じゃないからさ」
ジムニーってば、何照れてるんだろう?
そうか。この時代は、日本みたいにグラビアとか溢れてないもんね。
女性の体のラインなんて、殆ど見ることないよね。
もしかして俺って、女性経験豊富って思われてる?
嘘でしょ?
フィギュアが俺の嫁よ。
勿論、童貞だし。
確かにジムニーは貴族だから、迂闊なこともしないし、この世界の娼館みたいなところなんて行かないもんな。
当然俺も行ってる訳ないし。
けれど職員がみんなそう思ってるのかと思うと、頭が痛い。
時々俺を師匠と言うか、尊敬の眼差しで見るのは技術のことだけじゃないのだろうか?
このドラゴン姉妹のフィギュアを欲しい人達って、ミロのヴィーナスの彫刻とか、ヴィーナスの誕生の絵画みたいに崇めているみたいなのだ。
美しい芸術品のような扱いが、それなら納得できる。
老若男女に人気があるのも頷ける。
きっと公にされない、完璧な肉体のへの憧れだ。
男性は性への憧れも含み、女性はその肉体への憧れと目標的なものも含まれているような気がする。
おまけに本体は、本物のドラゴンなのだから神秘性もある。
今さらながら、審美眼の基準に差がありそうだ。
なんて考えるんだけど、もう今さらどうしようもないので、考えることを放棄した。
少なくともここにいる仲間は、俺寄りだと信じたい。
みんなオタクだしね。
職員全員が童貞だと判明した後、さらに心置きなくフィギュアの製作に向かう水樹だった。
「童貞でも良いの。エロフィギュアじゃないんだから!」
と、心で叫びながら。




