卒業パーティーに向けて
三年生が卒業する日が、着々と近づいていた。
今日も生徒会室では、役員達が忙しく働いている。
「卒業式後のパーティーへの招待状って、先生方の分は不要ではなくって? 招待状が無くてもわかるでしょうし。なんなら、『卒業パーティー参加のご案内』でも作って張り出しておきましょうか」
「そうなんだけど、毎年用意しているから一応……」
「エド様はご自身が書くわけではないからそれでいいかもしれないけれど、何十枚と書かなければならないわたくしの身にもなってくださる?」
一、二年生だけになった生徒会が取り仕切る最初の大きな行事、それが卒業式後の生徒会主催のパーティーだ。出席するのは卒業生(パートナー1名を同伴しても良い)、学園の教師、そして学園の運営に携わったり協力をしている貴族や有力者等。卒業生分は不要でも、かなりの数の招待状を用意しなくてはならないので大変だ。
とはいえ、第二王子に向かって強気の発言をするヴィクトリアに、ハラハラドキドキのリアムがおずおずと声をかける。
「ああヴィヴィちゃん、僕も手伝うからさ、エドワード様に対して文句は……」
「あらリアム、別にわたくし、文句を言ってるわけじゃなくってよ? 無駄な事は省きましょうと提案をしているの。それにリアム貴方、あまり字が上手ではないじゃない」
「ウッ……それを言われると……」
「ヴィヴィ様、わたしもお手伝いします。やっぱり、招待状ってもらうと嬉しいものじゃないですか。先生方に日ごろの感謝を込めてお出ししましょう!」
「あら……クリスにそう言われると、頑張らざるを得ないわ……仕方ないわね」
「ありがとうございます、ヴィヴィ様」
三年生とルチアが抜けた分を補うため、生徒会長となったエドワードが打診し新たに生徒会役員になったのは、ヴィクトリア、リアム、そして一度は断ったが、ヴィクトリアとクリスティーナに懇願され渋々承諾したエリザベートだ。ルークは生徒ではないので役員にはならないが、エリザベートの護衛なので自動的に強制参加である。
「ダニエル、あとどれくらい残っているのかしら? わたくしの方は終わったから、手伝いましょうか?」
「ありがとうございます、エリザベート先輩。でももうすぐ終わります」
「そう? じゃあわたくしは、お茶の用意でもしようかしら」
「今日も先輩の手作りおやつ有ですか?」
「ええ、新作を持ってきたわ」
「やった! 急いで終わらせます!」
残るか辞めるか選択するように言われたダニエルは生徒会に残り、今はしっかり仕事をしている。
王太子成年パーティーでエリザベートとルークが身に着けたものについて、ダニエルが何も情報を持っていなかった事に対してルチアは失望したようで、最近では会話を交わす事もないらしい。
しかも、大商人である父からは『そんな近くにいたのにどういうものだったのか見ていないとは! 私の跡を継ぐのならば、新しい物、珍しい物、話題になっている物くらいちゃんと把握しろ! 同じ学園にいるのだ、情報を掴んで来い!』と叱責され、どうすることもできず途方に暮れている所をクリスティーナが可哀そうに思い助けてやった。
「授業にも身が入らない様子で憔悴していたので……リザ様に相談しただけですが」
「クリスに相談されてはねぇ。まあ、ゴーディ商会でも、『本業は奴隷商なので、ある程度の量を扱う事ができる商会と提携したいんですがね』と言っていたし、ちょうどいいと思って紹介しただけよ」
と、いう事なのだが、優しいと思っていたルチアにあっさり切り捨てられた事に深く傷ついていたダニエルは、号泣するほど感謝した。
無視したり仕事を手伝わなかったりしていた自分に対し、優しく接してくれたクリスティーナの事が好きになり、その直後、とてもじゃないが絶対に敵わない婚約者がいる事を知り粉々に玉砕したダニエルは、『フワフワ浮かれ気分で学園生活を送っていてはいけない!』と必死に勉強し、生徒会の仕事もしっかりやっている。
「テオール先輩、各委員会、クラブから提出された書類で計算が合っていなかったり不備があった分です」
「……まったく……なんだこの量は」
「しかたないよ、彼らも三年生から引き継いだばかりで、慣れていないんだろう」
「エドワード、甘すぎるぞ。リアム、ルーク、今日中に再提出するように言って配ってこい」
「「はい!」」
「いってらっしゃい。お茶の用意をしておくから、頑張ってね」
「「はいっ!!」」
エリザベートの言葉に、元気良く二人が出て行く。
「……うん、良いメンバーが揃ったよ。前よりすごくやりやすいよね」
「ああ、そうだな。一時はどうなる事かと思ったが」
笑顔のエドワードに、淡々と答えるテオール。
「ところで……王太子妃教育の方はどうなってるんだ?」
ふと思い出し、テオールは小声でエドワードに尋ねた。
「教師らを解任してしまったという事は聞いたが……その後、新しい人材は見つかったのか?」
「あー……」
さりげなく辺りを見回し、声が聞こえる範囲にはテオールしかいない事を確認してから小声で言う。
「全然駄目だよ。新しい人を用意したって、なんやかんやと文句をつけて授業を受けないんだから。しかも、兄上まで仕事しなくなって二人で遊んでばかりだから、そのしわ寄せがこっちに回ってきて……最悪の状態だよ」
「うちの父が、数日屋敷に帰ってきていないのだが……」
「あー、悪いねぇ、兄上とルチアの件で色々話し合う事があるらしくて……陛下は宰相を頼りにしているから」
「はぁ……困ったものだな」
「本当に……生徒会の方が順調にいってるのがせめてもの救いだよ」
「……お前が、国王になった方がいいんじゃないのか?」
「ちょっ……テオール! 不用意な発言をするなよ!」
「だってそうだろう? 国の事を思えば」
「あーもー終わり! この話は。エリザベート! お茶の準備手伝おうか?」
強引に話を打ち切り、エドワードは椅子を立ち、残されたテオールはハーッと深いため息をついた。
将来自分が宰相となったとして、その時自分が仕える国王……そう考えると、色々思うところがあるようです。




