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【書籍化決定】悪役令嬢の無念はわたしが晴らします  作者: カナリア55
第四章

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わかっていて欲しい

「おお、目が覚めたようですぞ」

「えっ? ルーク!」


 ルークが起きている事に先に気づいたローブ姿の男性の言葉に、エリザベートが嬉しそうにベッドに駆け寄った。


「ルーク! 体調はどう? 痛いとか苦しいとか、無い?」

「は、い……大丈夫、です。……エリザベート様、ありがとう、ございました」

「良かった……本当に驚いたわ。もう、あんな無茶をするのは止めてちょうだいね」

「……申しわけ、ございません……」


 シュンと項垂れるルーク。


「先生、彼を診てやってもらえますか?」

「ええ、お任せを。……どれどれ、少し触りますよ」


 エリザベートと一緒だったのは医師だった。

 脈を取り、目を診て口の中を診て……『大丈夫そうですな』と言った。


「あまり強くない毒だったとはいえ、これくらいの症状で済むとは……やはりスピネル公爵令嬢の処置が良かったのですな」

「まあ、経験者ですし?」


 フフフ、と笑うエリザベートに、医師は苦笑しながら部屋を出て行った。


「あの……あれから、どれくらい経ったのでしょうか……」

「そうね、5~6時間くらいかしら。今日は泊まらせてもらう予定よ」

「……そうですか……ご迷惑をおかけして、申し訳ございません」


 謝るルークに、エリザベートはため息交じりに言った。


「本当にそう思うのなら、もう無茶はしないでね。自分の体で確かめたのだからわかっていると思うけれど、ルークが飲んだお茶には毒が盛られていたわ。侍女は捕まり、毒を所持していたのも確認したそうよ。……ルークは、あの侍女が毒を入れた所を見たのでしょう?」

「はい」

「という事は、毒を入れていたビンをしまったところも見たのよね?」

「はい」

「……それであれば」


 エリザベートは、キュッと眉を寄せた。。


「飲んだりせず、そう言えば良かったじゃない。確かにあの侍女は大声で喚いて、まるでルークに非があるかのように騒いだから、あの場が嫌な雰囲気になったわ。けれど、貴方は何も悪くないのだし、正しい行いをしたのだから」

「……焦って、しまって……どうしていいかわからなくて……すみません……」

「……本当にそう?」

「えっ?」

 

 俯いてエリザベートの顔を見ていなかったルークは、驚いて顔を上げた。


「本当に焦って、どうすればいいかわからなかったの?」


 エリザベートの表情が辛そうに見え、不安になりながらコクリと頷く。


「……はい……」

「そう……まあ、いいわ。とにかく、こういう事は今後もあるかもしれないわ。自分の罪を隠す為に、わざと大騒ぎをしたり、罪を擦り付けてきたり。だからそれに動じず、落ち着いて対応できるようになりなさい」

「あ……その……」

「なに?」


 いつもなら『はい!』と真剣な顔で返事をする場面なのに、と、エリザベートは不思議に思いルークを見た。


「どうかした? やっぱりどこか辛いのかしら?」

「いいえ、身体は、大丈夫です、エリザベート様のおかげで……ただ……」

「なあに?」

「私は……エリザベート様の護衛として、お役に立てていないから……」


 ずっと気になっていて、しかし、言えなかった事を口にする。


「私は、役立たずです。この間のパーティーでもそうでした。エリザベート様が王太子殿下から酷い事を言われているのに、何も出来ませんでした。今回も、うまく対応できなくてこんな騒ぎにしてしまって……エリザベート様のドレスを汚してしまったし、お守りするはずが、私の方が助けてもらいました。こんな未熟で力のない私は、エリザベート様の護衛なんて務まらないかと……」

「……護衛から、外れたいという事かしら?」

「は、外れたいわけでは……ただ、外れた方がいいかと……」

「…………」


 エリザベートの返事を待つルークの心に、『言って良かったんだ』という気持ちと『この場所を渡したくない』という気持ちが交互に押し寄せる。


「……ルーク」

「はい」


 長い沈黙の後、エリザベートはちょっと首を傾げ、ルークに尋ねた。


「わたくしは、奴隷だった貴方を買ったご主人様よね?」

「はい」

「貴方はわたくしに、なんでもするから買ってくれと、泣きながら頼んだ事を覚えているかしら?」

「もちろん覚えています」

「ならば、わたくしの決めた事、求める事に従いなさい。役に立っているか立っていないかは、わたくしが決める事だわ。貴方がどうこう考える事ではないの」

「ですが」

「異論は認めないわ」


 ルークの発言を切り、エリザベートはピシャリと言った。


「わたくしの命令に従いなさい。貴方はわたくしの護衛よ。そして今後、簡単に自分の身を危険に晒しては駄目」

「ですがエリザベート様をお守りするには」

「身体を張る前に、出来る事がないか考えなさい。貴方は簡単に、自分の身を投げ出し過ぎるわ」

「だってそれくらいしかっ! 僕が出来る事なんてそれくらいしか……」


 ここしばらくの不安が一気に膨れ上がり、溢れた。


「僕は弱くてなんにもできないから、エリザベート様を守る為に命くらい懸けないと駄目なんです! エリザベート様の為なら、命なんて惜しくない! 僕にはエリザベート様だけなんです!」


 悔しいとか、悲しいとか、情けないとか。

 色々な感情が沸き上がり、ルークは両手で顔を覆った。

 泣きたくないのに、涙が溢れてしまう。


「ううっ……エリザベート様の為なら……なんだって……うっ……」


 泣いてはいけない。こんな感情をぶつけてはいけない。煩わせてはいけない。それなのに、涙が止まらない。


 どれくらい泣いていたか。

 ようやく落ち着いたルークが顔を覆っていた両手を下ろすと、目の前には、ベッドに腰かけたエリザベートの姿があった。


「……落ち着いた?」


 コクリ、と頷くと、エリザベートはタオルを差し出した。


「さあ、顔を拭いて」

「はい……すみませんでした、泣いたりして……」

「いいえ、いいのよ。色々あったから、感情が昂っていたのね、きっと」


 顔を拭き終えてタオルを握りしめたルークの手の上に自分の手を重ね、エリザベートは言った。


「焦らなくていいの。ルークは確実に強くなっているわ。そして、ちゃんとわたくしを守ってくれている。わたくしは、貴方を信頼しているわ」


 また瞳が潤んでくるルークに苦笑しながら、エリザベートは宥めるように、ポンポンとルークの手を軽く叩いた。


「貴方がわたくしに忠誠を誓い、仕えてくれている事はちゃんとわかっているわ。だから貴方もわかっていて欲しいの。わたくしが、貴方の事を大切に思っているという事を。貴方は大切なわたくしの騎士で、貴方の替えはいない。だから、自分を大切にしてちょうだい。わたくしを残して行ってしまうなんて事は、絶対に許さないわ」

「…………」


 その言葉を聞いたルークは、しばらく無言で固まったように動かなかったが……おもむろに、ベッドから降り、エリザベートの足元に片膝をついて頭を垂れた。


「ルーク? どうしたの? 痛いの? トイレ?」


 いきなりの行動に、エリザベートは慌てたが、



「……私は、貴女の剣であり、貴方の盾です」

「え……」


 ルークの言葉に、息をのむ。


「私、ルーク・ゴールドは、エリザベート様の命令に背きません。エリザベート様をお守りし、生涯、エリザベート様の忠実な騎士であり続ける事を誓い、永遠の忠誠を誓います」


(ちょっと! 『騎士の誓い』じゃない。騎士が生涯に一度するかしないかの誓いをするだなんて……そんな……いいのに……)


 戸惑い、しかし、せっかくしてくれたのだからと立ち上がり、ルークの肩に手を置いた。


「ルーク・ゴールド、貴方の忠誠心、確かに受け取りました」

「エリザベート様……」


 ルークが顔を上げ、潤んだ瞳で嬉しそうにエリザベートを見る。


「……もう、ルークったら……騎士の誓いなどしなくとも、わたくしは貴方の気持ちはわかっているのに……でも、わたくしの命令に背かないと誓ったのだから、さっき言ったルーク自身を大切にしなさいという命令、ちゃんと守るのよ?」

「はい、エリザベート様」


 そう言ったルークの表情は、決意に満ちていて、そしてどこか寂し気だった。




ルーク、焦らず頑張って! 

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