このままでいいのだろうか 1
「レオン様、パーティー、とっても楽しかったですね!」
ニコニコと嬉しそうに話すルチアに、満足そうに頷くレオンハルト。
「最初のダンスパートナーにわたしを選んでくれて、本当に嬉しかったです!」
「あたり前だろう。俺が共に踊りたいのは、ルチアだけなんだから」
「嬉しいっ!」
ここは生徒会室。
2年生コンビのエドワードとテオール、そして新人のクリスティーナが机に向かって黙々と仕事をしている同じ空間で、レオンハルトとルチアは一緒のソファーに腰かけてイチャイチャしている。
「……楽しかったのはいいが、ルチア嬢はドレスを汚されて着替えたんだろう?」
向かいのソファーに座っているオリバーが、眉をひそめて言う。
「替えのドレスがあったから良かったものの……ドレスを汚したヤツは、ちゃんと罰しないと」
「あっ! いいんです、オリバー様。だって、わざとじゃなかったんですから」
「本当か? ルチア嬢は優しいから、庇っているんじゃないか?」
「そうだぞ、ルチアが庇ってやる事などない。そんな無礼者、俺が罰してやる」
「レオン様、本当にわたしはいいんです。そのおかげでレオン様とお揃いのドレスを着られたんですから」
「そんなの、最初から着れば良かったんだ。せっかく作ってやったのにエリザベートに悪いからなんて遠慮して……本当にルチアは優しいなぁ」
「そんな事ないです。ほら、やっぱりエリザベート様はレオン様の婚約者だから……だからきっとエリザベート様はあんな事……」
「ん? あんな事ってなんだ? やっぱり、ドレスを汚したのはエリザベートなんだな!」
「あっ……違います違います! ワインをかけた人は違う人で……」
「じゃあ、エリザベートがその者に命じてやらせたって事か」
「あーん違います、証拠もないし……わたしはそんな事どうでもいいんです。とにかく! パーティーが楽しかったなって事を言いたかったんです! オリバー様やダニエル君、それに、ディラン様とも踊ったし」
正面のオリバーとその隣に座っているダニエルを、そして少し離れ、窓枠にもたれているディランを順番に見て笑うルチア。
笑顔を向けられ、条件反射で微笑みを返したディランは、そんな自分を嫌悪した。
(まったく……リザが嫌がらせをしたかのような言い方をして。あれはリザとは関係ない、地方貴族の令嬢とぶつかって汚れたっていうのに。たまたま目撃したけれど、ルチアがわざとぶつかったように見えたぞ? 互いに謝りながら控室の方に行ったけど、なんとなく気になって様子を見に行ってみたら、相手の令嬢が真っ青な顔で控室から出て来た。話しかけてみたら『なんでもない、大丈夫』と言っていたが……何か揉めたんだろうな、可哀そうに……)
問題が起きた時の為に、一応名前は聞き、困ったことがあったら自分に相談するようにと言っておいたが、
(これまで、ルチアが話すこういう事を全て信じていたなんて情けない。ちょっと離れたところから冷静に観察すれば、彼女の嘘がわかるのに……)
ルチア・ローズと出会った時、明るくて可愛らしい子だと思った。
男爵令嬢だというわりには、立ち居振る舞いが雑だな、などと思っていたら、最近までずっと平民として下町で暮らしていたと聞いた。
「お父様とお母様は愛し合っていたけれど、身分が違いすぎたから……お母様は、男爵家のメイドだったんです。それで、お腹の中にわたしがいるとわかった時に、お父様に迷惑をかけないようにとお屋敷を出たそうです」
「お母様はとっても優しくて、働き者だったんですよ。生活は苦しかったけれど、毎日楽しかったです! でも……病気で突然……」
「今はお父様が引き取ってくれたから、もう大丈夫です! 勉強できるのが嬉しいです! 立派な淑女になって、お父様に恩返しするんです!」
彼女の語る話は、辛い生い立ちや生活を恨むことなく、希望に満ちていて眩しかった。
(大変な思いをしただろうに、健気だな。こういう子には、これからは良い事がたくさんあって欲しいものだ)
そう、好意的に思っていた時、裏庭で泣いているルチアを見かけた。
近づいてみると、慌てて涙を拭き、無理に笑顔をつくった。
「ディラン様」
「どうしたの! 何か困った事が? もしかして、誰かにいじめられたのか?」
「い、いえ……わたしが貴族の決まり事を知らないから、皆さんが教えて下さって……何も知らない自分が情けなくて泣いちゃって……えへっ、恥ずかしいところ見られちゃいました」
健気なルチアを、プライドの高い貴族令嬢達が虐めていると思った。
彼女達は着飾る事しか興味がなく、弱者を虐めたり、侮辱するのが暇つぶしのようなものなんだろうと思った。
でもそれを言わず、自分で乗り越えようとしているルチアは素晴らしいと思った。
(……だから、レオンがリザを叱りつけた時、俺も加勢してしまった)
「わたくしは、婚約者のいる男性と二人きりになるのは止めるようにと注意したまでです」
怯むことなく、背筋をピンと伸ばし、しっかりと顔を上げてそう言ったエリザベート。
「そうです、ごめんなさい、エリザベート様は悪くありません」
怯えて泣きながら、そう言うルチア。
「嫉妬に狂ったそなたが、ルチアに酷い事を言ったのだろう。そなたは冷たい女だからな! 家柄が良くてちょっとばかり頭が良くったって、そんな冷たい女が、果たして王妃に相応しいかな!」
そうレオンハルトに言われても、エリザベートはほんの少し唇を噛んだだけで、すぐに表情を戻した。
「話になりませんわね。わたくしは失礼致します」
去って行く彼女に聞こえる声で、レオンハルトが『なんて気の強い女だ。あんな女の言う事なんて気にするな』と言っていた。
(俺も、あの時はそう思った。オリバーもそうだろう。でも……リザは、ものすごく辛かっただろう。今になって気付くなんて……本当に、情けない……)
ルチアの事を気に入って、フワフワして、何も気づけない状態だったんでしょう。




