ダンスパートナーは
「……殿下、成年、おめでとうございます」
「ハッ、そんなドレスを着て、どれだけ注目を浴びたいんだ? 目立ったからといって良い事なんてないぞ。お前は今から大恥をかくのだからな」
「別に、注目を浴びたくて着ているわけではございません。わたくしは、わたくしが気に入ったドレスを身に着けているだけです。ようやく、誰かさんに合わせて好きでもないドレスを着ずに済むようになりましたので」
微笑むエリザベートに、レオンハルトは『チッ』と舌打ちをした。
「まったく、可愛げのない女だ。どうか最初のダンスは自分と、と懇願すれば、恥をかかなくて済むとは考えないのか」
「あら、わたくしとダンスをご所望だったとは思いませんでしたわ」
「そんなわけないだろう」
苛立ったようにそう吐き捨てるレオンハルトに、エリザベートはため息をついた。
「と、言う事は、懇願したところを拒絶し、恥をかかせるつもりだったというわけですね。今日のパーティーに参加するようにと仰ったのも、その為ですか。なんと意地の悪い……王太子殿下とは思えない品の無さっ」
ギュッと手首を握られ、その痛さに言葉を切る。
「いい加減にしろよ、エリザベート。お前、自分の立場をわかっているのか」
「立場、ですか? ……どうでしょう。幼い頃より王太子の婚約者として厳しい教育を受け、王太子殿下の為に努力してきたのに、突然現れた男爵令嬢に心を奪われた婚約者にぞんざいに扱われ、身に覚えのない罪を着せられ、婚約破棄を希望しているのに結論を先延ばしされ、今こうやって大勢の方々の前で侮辱されている憐れな女、という事なら、ひしひしと感じておりますが」
「よく、そんな事が言えたな」
「言えますわ。真実ですもの」
「…………」
「…………」
睨み合う二人に、多くの視線が集中する。
「……フッ……そうやって、虚勢を張っていられるのも今のうちだ。惨めに這いつくばって許しを請うても、慈悲を与えてもらえると思うなよ」
沈黙の後、そう言い捨てレオンハルトはその場を去った。
(う~ん……あの人、どんどん愚かになっている気がするわ。こんなに人目の多い場所であんな事を言うだなんて……)
そんな事を考えているうちに、最初のダンスパートナーが決まったらしい。
白地に金糸の刺繍というドレス姿のルチアが、レオンハルトに手を引かれてフロアの中央に歩を進める。
(あら? ルチアってピンクのドレスじゃなかった? いつの間に着替えたのかしら。というか、あれ、レオンハルトとお揃いのドレスじゃない。やだ、そんなのを作っていたの? 婚約者のわたしには一度だって用意してくれなかったくせに)
「リザ!」
「リザ様」
悔しくはないが、気分の良いものではなくムッとしているところで名前を呼ばれて振り返ると、ヴィクトリアとクリスティーナが、泣きそうな顔で自分を見ている。
「リザ、大丈夫ですの?」
「え? あ、ええ、大丈夫よ。でもちょっと、しゃべりすぎて喉が渇いたわね。今のうちに何かいただこうかしら」
あっけらかんとそう言うと、二人は安心したように少し笑った。
「そうしましょう。あの二人のダンスが終わったら、次はわたくし達が踊る番ですもの」
王太子とルチアのダンスに興味は無いので、6人はゾロゾロと軽食と飲み物が並ぶテーブルへ移動した。
小さなサンドイッチやチーズや生ハムの載ったクラッカー等をつまみ、果実水を飲む。
「それにしても、王太子殿下のお言葉は、気分のいいものではなかったわね」
「はい。近くにいて話が聞こえていた方々も、戸惑っていました」
「それだけ、わたくしに恥をかかせたかったのでしょうね。……そんなに憎いのかしら。だったら早く、婚約破棄してくれたらいいのに。……あら、このサーモンサンド、美味しいわ。ルーク、貴方も少しお腹に入れておかないと」
「申し訳ございません、エリザベート様。緊張で、とても喉を通りそうにありません……」
「大丈夫よ。あんなに練習したんだもの、うまく踊れるわ。お腹がすいていた方が動けないわ。はい、お口開けて」
サンドイッチを唇に押し当てられたルークは、言われるがままに口を開け、放り込まれたサンドイッチを咀嚼する。
「ハハッ、ルーク、子供みたいだな」
「あらリアム、貴方も食べさせて欲しいの? はい、あーん」
「えっ? あっ、あーん」
赤くなりながらも口を開け、ヴィクトリアにクラッカーを食べさせてもらって嬉しそうにしているリアム。
それを見て、慌ててサンドイッチを取り、背の高い兄に食べさせようと腕を伸ばすクリスティーナの手を掴み、クリスティーナ自身の口に運ばせるザカリー。
(フフッ、みんなのおかげで楽しくなってきたわ)
そのうち曲が終わり、拍手が起きる。
「さあ、それじゃあ、踊りましょうか」
「はい、エリザベート様」
次の演奏が始まり、緊張しているルークに手を預け、エリザベートはフロアに向かった。
今回のクリスティーナとザカリー、気に入っています。いつか、二人の話を書けたらいいなと思うほどです。




