シルク 1
「えっ? お嬢様、カイコを……シルクをご存じで?」
「ええ、知っているわ。……? もしかして、このドレスがキャンセルされたのって、そのせいなの?」
「はい……虫から作る布なんて、気持ち悪いと……」
「あらぁ、そんな事で?」
エリザベート的には驚く事だったが、
「む、虫ですかっ?」
アメリアが『ヒイッ』と小さく悲鳴を上げる。
「虫で作っているのですか?」
「虫で、というか……蚕という蛾の繭から採る繊維よ。この繊維で作られた布は、肌触りが良くて美しい光沢で、貴重で最高級の布なの。ほら、アメリアも近くで見て、触ってごらんなさい」
「わっ、わたしはいいですっ!」
虫嫌いの反応か、アメリアはブンブンと首を横に振った。
「そんなに怖がることないのに……わたくしも虫は苦手だけど全然気にならないわ」
「良かったです~。この生地を見た時、これまでにない最高のドレスを作れると思い、お金を借りてまで生地を買い求めたのですが、虫から作っているという事を説明すると皆さん嫌厭されて……」
「それで、その事を秘密にして依頼されたドレスを作ってしまったというわけね」
「……布自体は、大変気に入っていただけていたので……つい……申し訳ございません」
深々と頭を下げるマダム・ポッピン。
「わたくしに謝る必要はないわ。マダム・ポッピン、是非ともわたくしと彼のパーティー用の衣装を作ってちょうだい。王太子殿下のパーティー用なので、期限は二か月弱。お金はいくらかかってもいいわ」
「はい! ありがとうございます! 是非やらせてください! お嬢様のドレスと、パートナーの方の……えーと、パートナーというのは……もしかして、こちらの?」
マダム・ポッピンの表情が曇る。
「ええ、この獣人のルークが、わたくしのパートナーよ。彼とお揃いの衣装をお願い」
笑顔ではあるが、これまでの経緯もあり、エリザベートから『何か、問題でも? あるわけないわよね?』という圧を感じたアメリアは心の中で悲鳴を上げ、ルークも『僕のせいでまたダメだったらどうしよう!』という緊張でギュッと目を瞑った。
「この獣人の子とお揃いの衣装……う~~~」
「何か、問題でも?」
エリザベートの声色に、怒気が含まれる。
(彼女も一緒なわけ? 獣人に自分の作った服は着せたくないと?)
「わたくしはね、ルークの服が欲しいの。時間的に片方しか作れないと言うのであれば、わたくしのドレスではなく、ルークの衣装が欲しいのよ」
「ああ、時間は大丈夫です、大丈夫……ただ……」
「ただ?」
「お揃いの衣装ですよね? この子と、お嬢様の」
「ええ、そうよ。不都合でもあるの?」
「う~ん……いや~、こんな事言うのもなんですが……」
「はっきり言ってちょうだい」
(獣人は、なんて言ったら断るわ。シルクのドレスは惜しいけれど、それよりも大切なのはルークの気持ちだから)
「お二人は、似合う色が全く違うんですよねぇ」
「えっ?」
考えていなかった言葉に、エリザベートは面食らいながら聞き返した。
「似合う、色?」
「はい。先ほど申し上げましたが、お嬢様には赤とか青とか、濃くてはっきりした色が似合うんですよね。でも彼の方は、水色とか黄色とかピンクとか、淡い色の方が……というか、生地もシルクではなく羊毛とか木綿とかの方が似合いますね。あー、もうちょっと大人っぽかったらなぁ。可愛すぎるのよねぇ、背も低いし……どうしよう」
これはこれで失礼な話で、ルークはショックを受けた顔をしているが、エリザベートは思わず笑ってしまった。
(獣人だって気にしてるのは、わたしの方だったようね。マダムとは、仲良くなれそうだわ)
ブツブツ言いながらも、マダム・ポッピンは引き受ける気満々のようだ。
「ゴーディさん、今日すぐに採寸したいんで、部屋を貸してもらえますか? 時間が無いから、すぐに作業を始めないと。シルクは扱いが難しいから、一分一秒も無駄にしたくなくて」
「ああ、私は構わないが……お嬢様はお時間よろしいのでしょうか?」
「ええ、大丈夫よ。このお礼はしっかりとさせて頂きます」
「いえ、お気になさらず……あ、やはり、一つお願いが。もしよろしければ、シルクの事についてお聞きしてもよろしいでしょうか」
「シルクの事? ええ、わたくしでわかる事であれば」
「ありがとうございます。まずは、部屋を移動致しましょうか」
そう促され、エリザベート達はゾロゾロと応接間へ移動した。
背が伸びたとはいえ、まだまだ可愛いルークです。




