オニキス侯爵家の事情
ザカリー・オニキスは、オニキス侯爵の本当の息子ではない。
元は騎士階級の家柄の子供で、5歳の時に両親が不慮の事故で亡くなり、父親の学生時代からの友人であったオニキス侯爵に引き取られた。
オニキス侯爵夫妻は子宝に恵まれなかったので、ザカリーを養子として迎え、オニキス家の跡継ぎとして大切に育てていたが、数年後、オニキス夫人は懐妊し、無事に女児が産まれた。
「娘が産まれたからといって、お前が私達の大切な息子である事に変わりはないんだよ」
「兄として、クリスティーナと仲良くしてあげてね」
そう言われて覗き込んだ、義母に抱かれた小さな赤子は、シワシワでグニャグニャでとても小さく、不安になるほど弱そうに見えた。
「クリスティーナ、僕はザカリー。君のお兄ちゃんだよ。僕が、君を守るからね」
その言葉通り、ザカリーはクリスティーナの面倒をよく見て、いつも気にかけ、守ってきた。クリスティーナも優しい兄に懐き、二人は仲の良い兄妹として育っていた。
しかし、ザカリーが成人を迎えた年、事が起きた。
「ザカリー、以前から言っていたように、お前にはこのオニキス家の次期当主となってもらいたい。そして、クリスティーナを妻として娶ってほしいのだ」
当主の言葉に、ザカリーは首を横に振った。
「私は、当主になるつもりはありません。クリスティーナに婿をとり、跡を継がせて下さい」
そう言ってザカリーは、王立学園卒業後に侯爵家を出て、それきり疎遠になってしまったのだった。
「先生がオニキス家の本当の子供ではなかったとは、知らなかったわ。顔は似ていないけれど、お二人とも黒髪だし、黒い瞳だし」
驚くヴィクトリアの言葉を聞きながら、エリザベートも『そんな設定だったとは』と驚いていた。
(ゲームでやらなかったから、全然知らなかったわ。けっこう複雑な設定なのね。もしかしたら、ゲームの設定とは違っている可能性もあるけれど)
「お恥ずかしながら我がオニキス家は、侯爵家といっても魔道具事業を細々とやっている貧乏貴族でして、父は、優秀な兄はそんな没落寸前の家門を継ぎたくないのだろうと諦め、わたしは、わたしと結婚するのが嫌なのだろうと思っていたのですが……先日の生徒会での出来事があってから、数年ぶりに兄が家に帰ってくれたのです。そこで、色々と話をしまして……わたしが学園を卒業するまでに結婚したい相手が見つからなければ、その……結婚してくれると……」
頬を赤く染め、照れながら話す様子から、クリスティーナはその決定を喜んでいるらしい。
「クリス様はそれでいいんですの?」
「はい、ヴィヴィ様。実は結婚の話は、わたしから父にお願いした事で……血の繋がりが無い事は知っておりましたし、小さな頃からずっと好きで、兄と結婚する事がわたしの夢でした。なので、『好きな人ができたら結婚の約束はなかった事にしていい』と言われてはいますが、そんな事あるはずがなく、学園卒業までは婚約もしませんが、わたし的にはもう婚約した気持ちなのです。婚約の品のような物も、もらいましたし」
そう言ってクリスティーナは胸元に飾ったブローチを、そっと触った。
「あら、それ、先生から頂いたんですの?」
ヴィクトリアは身を乗り出して、プラチナの蔓草模様の透かし彫りの台座に、親指と人差し指で輪をつくった程の大きなオニキスが嵌められたブローチを見た。
「素敵ですわ!」
「そうね、すごく綺麗!」
「ヴィヴィ様、リザ様、ありがとうございます。今度のパーティーの為のドレスも、お兄様が買ってくれると言っていて……わたし、すごく幸せです!」
クリスティーナは本当に嬉しそうで、エリザベートまで気持ちがホワホワとしてきたが『それならなおの事』と、表情を引き締めた。
「それじゃあ、クリス様からオニキス先生にも伝えておいて欲しいの。パーティーで悪者にされないように、みんなで協力しあいましょうって」
「はい!」
「とにかく、ルチア嬢の近くには行かないようにしましょう。そして、一人にならない事。できるだけ人目が多い所にいる事」
「初めてリアムのエスコートで参加するパーティーだから、何も気にせず楽しみたかったけれど……しかたありませんわね」
「僕、ずっとヴィヴィちゃんの側にいるから。あと、ダンスも注意しなきゃだね。ぶつかってきたとか言われないように、周りをしっかり見てリードしなきゃ」
「わたしもお兄様と一緒で浮かれてしまいそうですけど、気を付けますわ」
「私も、しっかりとエリザベート様をお守りします」
みんなの言葉にコクコクと頷き、『仲間がいるっていいわ!』と、心底思うエリザベートだった。
みんなで協力すれば、きっとうまくいく。
そして、これで第二章の本文終了です。第三章もよろしくお願い致します。




