悪役令嬢にならないためには?
アメジスタ侯爵家の騎士団の訓練を見学し、獣人騎士達と交流して、ルークとリアムは主人と婚約者の元に戻った。
「おかえりなさい。どうだった? 参考になる事は聞けたかしら?」
「はい! エリザベート様のお役に立てるよう、しっかり成長してみせます!」
「ええ、楽しみにしているわ」
「ヴィヴィちゃん、僕も頑張るよ! アメジスタ侯爵様の跡を継ぐ者として、立派な騎士になるから!」
「リアムは今のままで良くってよ。お父様もうちの騎士達も、今の時世にはちょっと過激だから」
「そんな事ないよ! 僕、頑張るから!」
「ああ、はいはい、頑張って」
そんな会話を聞き『素敵ですわ!』と瞳をキラキラさせるクリスティーナ。
「お二人とも、とても素敵な騎士様だと思います! なんだか、小説で読んだお姫様と騎士のシーンみたいです! 憧れます!」
その言葉に、ヴィクトリアは少し顔を赤らめながら『そんな事ないわよ。ところで……』と、別の話題を持ち出した。
「今年は王太子殿下が成人されるから、誕生パーティーには同年代の貴族の子息、令嬢が招かれ、盛大に行われるけれど……お二人は準備を進めているのかしら?」
「ああ、そういえばそうね。でも、まだ先じゃない」
「いいえ! あとふた月もありませんわ。ドレスやアクセサリーの手配は?」
「そういう準備も必要だったわね、そういえば……」
「先程からそういえばって……しっかりして! あなたまだ、王太子殿下の婚約者でしょう?」
ヴィクトリアは呆れたように言うが、エリザベートは苦笑するばかり。
「この間の事もあるし、さすがにもう、そんな役割をわたくしに求めないでしょう。パーティー前に婚約破棄ができればいいけれど……というか、パーティーなんて出席したくないわね。体調不良と言って不参加にしようかしら」
「ええっ? それは駄目よ!」
ヴィクトリアが声を上げる。
「リアムと婚約してから初めての大きなパーティーだから、わたくし楽しみにしているのに! リザが参加してくれなきゃ心細いわ」
「えぇ……そんな事言われても……」
「リザ様、わたしからもお願い致します。わたしも招待状を頂いていて……出席しないと周りからなんと言われるか……これまでパーティーには出席した事が無く、できればお姉様方とご一緒させていただけたら心強いのですが……」
「えー、でも、行っても良い事なさそうだし……あら?」
ここで、ハッと気付く。
(ちょっと待って。これ、ゲームの中では重要なイベントじゃない! 王太子の誕生パーティー。悪役令嬢がヒロインのドレスにワインを零して台無しにするけれど、王太子が新しいドレスを贈って二人でダンスをするという)
自分がヒロイン役をしている時は楽しかったが、悪役令嬢としては、ものすごく腹立たしいイベントだ。
(そもそも、なんでヒロインのドレスが用意されているんだって話でしょう? 予め決まってるじゃない、悪役令嬢がワインをかけるって。ダメダメ、そんなの。わたしはあの人たちにはもう関わりたくないのよ。……でも、最初からそれがわかっていれば、トラブルを回避できる? そして、もう王太子に興味はありません、って皆にわかってもらえるチャンス? 大切な悪役令嬢仲間であるこの二人がトラブルに巻き込まれないようにも注意してあげたいし……う~ん……)
あれこれ考え、覚悟を決める。
「わかったわ。わたくしも出席します。そしてパーティーではわたくし達、協力しあってルチア嬢の罠にかからないようにしましょう」
「ルチア嬢の、罠?」
「ええそう。やってもいない事をでっちあげて、わたくし達にいじめられているようにみせかけられぬよう、注意して身を守らなければ!」
エリザベートの言葉に、二人は真剣に頷く。
「確かにそうね。でも、パーティー会場では人目も多いんだから、難癖はつけてこないでしょう?」
「……たとえば、わたくし達が飲み物を持っていたとして、彼女がぶつかってきて、彼女のドレスが汚れてしまったら?」
「そりゃあ、いい気味だけれど」
「ヴィヴィ! それじゃあ相手の思うツボよ! 彼女が『キャッ!』と声を上げて赤ワインまみれになったら、男共は『誰にやられた!』と騒ぎ出すでしょう? そこでわたくし達が『彼女の方からぶつかってきた』と言って、彼女も『その通りです、わたしが悪いんです』と目をウルウルさせながら言ったとして、男共は『お前がわざとかけたんだろう! ルチアは優しいな、こんな事をする悪女を庇うとは』なんて言うに決まってるわ」
「……やだ、本当に……目に浮かぶわ、その光景」
「はい、わたしにもハッキリと見えました」
「でしょう? だから、そんな言いがかりをつけられないように注意しなくちゃ!」
その場の全員が、コクコクと頷き合う。
「そうと決まれば、どんな事が起こりうるか考えて、その対策を検討しましょう」
「勿論、パートナーとして参加する僕も、一緒に考えるよ。今こそ、騎士課で学んだ作戦、戦略、危機管理を生かす時だよね」
リアムが嬉々としてヴィクトリアの手を握る。
「じゃあ、おやつでも食べながら作戦会議をしましょう」
ヴィクトリアがテーブルの上のベルを鳴らし、控えていた侍女に新しいお茶を用意させる。
用意が整うのを待つ間に、エリザベートはルークを見て言った。
「ルーク、わたくしのパートナーは貴方が務めてね」
「えっ? 僕、いえ、私がですか?」
「そう。護衛兼パートナーとしてパーティーに参加してもらうわ」
「で、でも、獣人なんかが王太子殿下の誕生パーティーに参加するなんて……」
「そうね、陰口を言われたりして嫌な思いをするかもしれないけれど、それは我慢してもらうわ。レオンハルト様の隣に立てると思って参加したと思われたくないのよ。だから貴方には、わたくしとお揃いの正装で参加してもらうから。耐えてちょうだい」
そう言うと、ルークは慌てたように首を横に振った。
「耐えるだなんてとんでもない! 私がパートナーだなんて、エリザベート様に恥をかかせてしまうんじゃないかって心配だったんですが、とっても嬉しいです!」
「そう、良かったわ。パーティーではダンスもするから、これから毎日練習するわよ」
「はいっ!」
そのやり取りを見て、ヴィクトリアとリアムも『わたくし達もダンスの練習をしなければ!』『そうだね! ヴィヴィちゃんとダンスするの、嬉しいなぁ』『遊びじゃなくってよ!』『は、はいっ!』などと話をしている。
「そういえば、クリス様はパートナーはどうするの? 婚約者はいらっしゃるのかしら」
貴族社会では、幼い頃から婚約者がいる事は珍しいことではない。『もしかして、いるのかな』くらいの軽い気持ちでエリザベートは尋ねたのだが、
「あ、えっと……その……まだきちんと婚約したわけではないのですが……」
「あらっ? なになに? どなたかとのお話が進んでいるの?」
興味深々でヴィクトリアが尋ねる。
「どちらの家門の方かしら?」
「…………さま、です……」
「えっ? どなた?」
「……おにい、さまです……」
「…………」
「…………」
「…………」
「……もう一度、いいかしら?」
ヴィクトリアの問いに、クリスティーナは真っ赤になって両手で顔を覆ってしまった。
ザカリー・オニキス!?




