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【書籍化決定】悪役令嬢の無念はわたしが晴らします  作者: カナリア55
第一章

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侍女は思った

 深くお辞儀をして部屋を出たアメリアは、エリザベートの伝言を伝える為に筆頭執事のジョセフ・フィールドのもとへと向かった。


(……エリザベートお嬢様、本当に変わられたわ……)


 ついさっき、エリザベートに言われた言葉を思い返す。


『呼んできてくれない? すぐでなくてもいいわ。時間がある時に来てって伝えてちょうだい』


 あんなに丁寧に頼まれた事など無い。

 これまでなら『今すぐ呼んで来て! さっさと行きなさい!』と怒鳴られていただろう。

 自分が完璧なエリザベートは、使用人達にも同じように完璧を求めて厳しく、更に最近はしょっちゅう癇癪を起して物を壊したり侍女にもあたるので、専属侍女は長く持たず、次々と替わっていた。


(それで、平民のわたしに専属侍女の大役がまわってきたのよね……)


 公爵令嬢の専属侍女ともなると、下位貴族の令嬢が務めることが多く、エリザベートの前の侍女達もそうだったのだが。


(貴族のお嬢様には辛いわよね。わたしは下町の喧騒の中で育ったし、父親は酔っぱらって家族に暴力を振るうろくでなしだったから、物を壊したり叱責するくらいのエリザベート様の癇癪なんて、かわいいものだけど)


 父親が酔って喧嘩をし亡くなった時は正直ホッとしたが、身体の弱い母親とまだ幼い弟妹の為に自分がしっかり稼がなければいけない。


(エリザベート様の専属侍女は給料が高いし、みんなやりたがらないから特別手当までもらえて本当に助かるわ。それにあの事件の後は、人が変わったかのように優しくて……わたしを名前で呼んでくれたし)


 一度心臓が止まり、息を吹き返した後もずっと意識が無く寝込んでいた。それが原因で記憶が混乱し、一部失われたのだという。医師の話では、突然パーッと思い出す事もあるし、ずっと思い出せない事もあるらしいが、


(……王太子様との記憶は戻らない方が、エリザベート様のためには良さそう)


 厳しくて癇癪を起すので使用人達から嫌厭されているエリザベートだが、それでも、アメリアは彼女の事が心配だったし、可哀想だと思っていた。 


 エリザベートはアメリアより2歳年下だが、とてもそうとは思えない完璧なレディだ。


(そりゃあ、貴族のご令嬢と平民のわたしとじゃあ、全然違って当たり前だけど……でも、ねぇ……)


 美味しい物を食べて、美しいドレスを着て、フカフカの布団で眠る。

 それはもう憧れの、夢のような生活だ。

 硬いパンでさえお腹いっぱい食べられず、ツギハギだらけの服を着て、酔った父親に打たれて……自分は本当に不幸だと思っていたし、貴族のお嬢様は楽でいいと思っていた。

 しかし、スピネル公爵家で働くようになり、貴族の令嬢も大変だという事を知った。

 もしかしたら、王太子の婚約者だから特別なのかもしれないが、エリザベートは一息つく暇もないほど、毎日毎日忙しく生活していた。

 アメリアには何を書いているのかさえわからない分厚い本を読み、何か国もの言葉を学び、厳しいダンスレッスンを受け、ドレスやアクセサリーを選ぶのさえ『王太子殿下に合わせて』だとか『貴賓の方に配慮して』と、全然楽しくなさそうなものだった。

 公爵家の侍女は給料が良く、待遇もいい。お仕着せの制服をもらえるし、食事も良いし、たまに甘いお菓子まで口にできる。休憩時間もちゃんとあるし、月に何日か休日ももらえる。

 仕事が終わり自室に下がる挨拶をする時、いつも大量の本に埋もれて勉強をしているエリザベートを見ると、『こんなに苦労するなら、平民の方がいい』と思ったりもしていた。


(しかもそんなに苦労をしているのに、婚約者は別の女性を愛しているとか……酷い話よね)


 王太子に好きな女性ができたらしい、という噂が囁かれるようになってから、エリザベートはちょくちょく癇癪を起した。


(エリザベート様には、相談したり愚痴を言うことができるご家族もご友人もいないから……)


 忙しい父親との仲はあまり良くなく、実母は小さい時に亡くなり、継母とはよそよそしい。親しい友人もいないのは、エリザベートのせいと言ってしまえばそれまでだろう。しかし、そういう環境でなかったというのもあると、アメリアは思っていた。


(古くからお屋敷で働いている人の話では、昔は優しくて可愛らしいお嬢様だったって言ってた。それが、お母様が亡くなってすぐに公爵様が再婚された事とか、1年もたたないうちに弟君のアルフォンス様が誕生された事とか、王太子殿下の婚約者となって厳しいお妃教育が始まった事とか、そのせいでそれまで仲良くしていたご令嬢達と疎遠になってしまった事とか……エリザベート様が孤独になられる原因がたくさんありすぎたのよ……)


 心の支えだったと思われる婚約者まで離れてしまったとなれば、『そりゃあ、荒れるでしょう』と思いながら、エリザベートが投げつけて壊したティーカップや菓子入れを片付けていた。


(でもあの日は……)


 怒っているというよりは、恐ろしい目にあったような、血の気が引いた顔で学園から戻ってきたエリザベートは『食事はいらない、一人になりたいから今日はもう来なくていい』と言って、部屋に閉じこもってしまった。

 そう言われ、一度自室に戻ったものの気になり、厨房でサンドイッチを用意してもらってエリザベートの部屋を訪ねた。そして、血を吐いて倒れているエリザベートを発見したのだ。


(ああ……もう少し早くお部屋を訪ねていれば……いえ、過ぎた事だわ。とにかくこれから、お嬢様のお役に立てるように頑張ろう。さあ、早くフィールドさんのところにいかなきゃ!)


 今はただ、エリザベートが心穏やかに過ごせたら、と思うアメリアだった。



  

苦労は人それぞれ。

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