生徒会室へ
レオンハルト襲来の翌日。
「エリザベート、ちょっといいかな」
授業が終わり、帰り支度をしていたエリザベートの所にエドワードがやって来た。
「あらエド様……また何か?」
「うん……あのさ、生徒会の事なんだけど」
気まずそうにエドワードは言った。
「生徒会を辞めるなら、生徒会室に置いてあるエリザベートの私物を持ち帰るようにって……」
「ああ、なるほど」
捨ててくれと頼みたいところだが『どうしてお前の物を片付けてやらなければならないんだ』と誰かさんに言われそうなので、素直に頷く。
「わかりました。明日にでも参りますわ」
「うん……ねえ、本当に戻って来るのは無理かな」
おずおずと、尋ねるエドワード。
「君がいなくなって、もう、全っっっ然、生徒会の仕事がまわらなくて困ってるんだよ」
ハーッと大きなため息をつく。
「あら、わたくしが休んでいる間にルチア嬢が生徒会に入ったのでしょう?」
「入ったよ。でも、君のようにはいかないよ。それであと他に2名、一年生を追加したけど、どうにもねぇ……」
(やっぱり。それでわたしに戻れと言ってきたのね。わたしの事、都合のいい雑用係とでも思っているのかしら)
断って良かったと心底思いながら、エリザベートはにっこりと微笑んだ。
「わたくし、生徒会室には近寄りたくもないのでお断りです。まあ、片付けには行きますが。しかたがないので」
「……だよねぇ……わかってたよ……うん……」
がっくりと項垂れるエドワード。
可哀そうな気もするが、『いや、この人も結局はルチア側の人だし』と思い、プイッと顔を背けた。
そんな事があって翌日。
エリザベートはヴィクトリアとリアムと一緒に、生徒会室へ向かっていた。
「ごめんなさいね、こんな事お願いしちゃって」
「構わないわ。わたくし達の間に、遠慮なんて必要なくってよ」
「ありがとう。リアムくんも、ありがとう」
「僕は騎士課です。力もあるし、困っているレディの役に立てなきゃ騎士だなんて言えません!」
「まあ頼もしい! ヴィヴィは幸せ者ね。大切にしなさいよ、素敵な婚約者様を」
「ええもちろん。……あら、着いたわ。リアム、扉を開けて頂戴」
「はい、ヴィヴィちゃん」
大切にするという割には、なんの遠慮もなく顎でリアムを使うヴィクトリア。
『まあ、リアムくんが幸せそうだから、いっか』
苦笑しながら、リアムが生徒会室の扉をノックするのを見守るエリザベートだったが、
「バタン!」
大きな音を立てて内側から扉が開かれ、長い黒髪の女子生徒が飛び出してきてリアムにぶつかった。
「おっと! すみません、大丈夫ですか?」
「あっ、も、申し訳ございません、ちゃんと前を見ていなくて」
そう言って顔を上げた彼女の瞳は充血し、涙が零れている。
「えっ? ごめんなさい! どこか痛めましたか?」
「い、いえっ、これはその……」
そんなやり取りをしていると、
「クリスティーナ嬢!」
慌てたように中からエドワードが顔を出し、廊下で固まっている4人を見て驚く。
「エリザベート、それにヴィクトリア嬢も? えっと君は……オリバーの弟の?」
「はい、騎士課1年のリアム・カーネリアンです、エドワード殿下」
ピシッと背を伸ばし、挨拶をするリアム。
「えっと、みんな揃ってどうしたの?」
「わたくしの荷物を片付けに参りましたの」
「ああ、そうか……それはご苦労様。中へどうぞ」
「失礼致します」
そう言って生徒会室へと入ると、中にはもう一人、水色の髪の男子生徒がいた。
(……テオール・アクア。宰相であるアクア侯爵の息子。学年一、頭が良くて冷静沈着。同じ2年生で教室も一緒だけど、ずっと話していなかったわね。挨拶くらいしておきましょう)
『ごきげんよう』と声をかけて、テオールの前に立つ。
「生徒会長に言われて、わたくしの荷物を取りに来ました。ヴィクトリア様とリアム様、そしてわたくしの護衛が手伝いのために生徒会室に入る事は、オニキス先生に許可を頂いております」
「ああ。思いあたる物はまとめておいたが」
「あら、ありがとうございます」
テオールが目線をやった机の上に、2つの箱があった。近寄って中を確認すると、ペンやインク壺などの筆記用具、本等が入った箱と、ティーセットとカトラリーのセットが入った箱だった。
「あれ? このカップとかもエリザベート様の物なのですか?」
「ええ。元々あった物が、縁が欠けたりしていたものだから」
王太子がお茶を飲むのに相応しい物を、とエリザベートが用意したものだ。
(レオンハルトに美味しいお茶を入れてあげようと、茶葉を取り寄せたり、侍女に入れ方を教わったりして努力したのにね……)
持ち帰るのは面倒なので、そのまま使ってくれて構わないのだが、レオンハルトは自分が生徒会にいた痕跡を残したくないのだろうと思い、リアムを見る。
「重い物で申し訳ないけれど、お願いしてもいいかしら?」
「任せて下さい。これくらい軽い軽い」
「ありがとう。ルークもそろそろ来ると思うけれど……」
ちょうどそこに、ルークがやってきた。
「遅くなりました、エリザベート様」
「いえ、大丈夫よ。馬車の準備はよくって?」
「はい。許可を取り、校舎のすぐ横に待機させています」
「ありがとう。じゃあルークはこっちの箱を持ってね。わたくしは一応残っている物がないか確認をして……あら、ヴィヴィ、どうかしたの?」
「それが……」
いつの間にか、さっき泣きながら生徒会室を飛び出してきた女生徒の肩を抱き、困ったようにエリザベートを見るヴィクトリア。
「彼女、クリスティーナ様とは、家同士の付き合いで何度か会った事があって……今ちょっとお話を聞いたら、困った状況らしく……できれば、力になってもらえないかしら」
「……どういう、事かしら?」
少し警戒しつつ、エリザベートは尋ねた。
本当はさっさと帰りたいところだけど……。




