学園生活スタート
2年生復帰をかけたテストで、エリザベートはほぼ満点の成績を修めた。休んでいた間に進んだ授業の分も範囲に含まれたテストで、である。
「エリザベート・スピネル、君はこれまでのテスト、手を抜いていたということか?」
そう、ザカリー・オニキスに詰められたが、そこは『休んでいる間、必死に自習しておりました』とごまかした。実際エリザベートは、あまりにも優秀過ぎると可愛げが無いと思い、テストではあえて数問間違えるという事をしていたのだが。
「とにかく、良い結果に文句はない。それだけ努力したという事だからな。これなら早期卒業も可能なレベルだ」
そう言われ『そのような事、可能なのですか?』と尋ねたところ『入学の際に説明があっただろう』と嫌味を言いながらも、教えてくれた。
この学園には、成績が優秀であれば早期卒業が可能な制度があるという。言われたら思い出す事が多いが、この事は全然覚えがない。
(入学したばかりの頃は、早期卒業なんて全く考えていなかったという事ね。でも今は状況も変わったし、早期卒業を目指しましょう!)
そう心に決め、黙々と勉強をする毎日である。
(スキャンダルのせいでわたしに関わろうとする人がいなくなって、勉強するのにいい環境になったものね。まあ、例外もいるけれど……)
「ですから! お茶会を開くべきですわ」
昼休み。
爽やかな風を感じながら、芝生の上に布を広げて昼食を食べているエリザベートに、ヴィクトリアが強い口調で言う。
「あの女のせいで、傷ついている令嬢がどれだけいるか! そんな令嬢達を招いてお茶会を開き、団結するのです。あの女の周りは高貴な方々が固めていて、何か言うとすぐに悪者扱いされてしまいますもの! あちらの勢力と対抗するには、それしかありませんわ!」
プンプン怒りながら熱弁するヴィクトリアに、エリザベートはため息をついた。
「……貴女のは、自分のせいでしょう? 本当に嫌がらせをして、わたくしのせいにしようとしたのだから……」
「そ、それは……反省していますわ。ごめんなさい、リザ」
シュンとするヴィクトリア。
「卑劣な真似をした事はわかっています。貴女に責任を押し付けたのも、とても卑怯な行為だったし……でも、あまりにも腹が立って、つい……」
「……まあいいわ」
エリザベートは小さく笑った。
(婚約者がいるにも関わらずベタベタ接する女に、デレデレする男……非常識だし頭にくるものね。ヴィヴィの気持ち、わかるわ。ただ、だからといって特別仲良くするつもりはなかったのだけれど……)
エリザベートは首を傾げる。
(いつの間にか、悪役令嬢二人が仲良くお互いを愛称で呼び合っているという……)
今は昼休み。
ルークとヴィクトリアとリアムと一緒に、園庭の芝生の上に布を広げ、輪になって昼食を食べている。
(……なんなの? この状況……)
あの騒ぎの翌日。
正式に謝罪し、ついでに『昨日いただいたお菓子、あれ、なんなんですの!? 見た目はイマヒトツですけどあんなに美味しいお菓子は食べた事ありませんわ!』と大興奮しながら話してきたヴィクトリア。それ以降教室でも、お昼休みでも、常にエリザベートにくっついているようになった。
(ヴィクトリアは大勢の取り巻きを連れているのが嬉しいタイプだったものね。この間の事で取り巻き達が離れて行って、寂しいからわたしと一緒にいる事にしたんでしょう。まあ、お昼はリアム君がピッタリくっついているけれど)
ヴィヴィちゃん、ヴィヴィちゃん、と言って、ちょこちょこヴィクトリアについて回っているリアムは可愛い。
ルークと並んでサンドイッチを頬張っている姿に、思わず笑みがこぼれる。
(二人とも、子犬みたい)
兄と違い、リアムは本当に優しくていい子だと思う。
獣人であるルークを見て、酷い事を言ったり顔を顰めたりする生徒や教師がいる中、おそらく本心から仲良くしてくれている。
意外な事に、ヴィクトリアもルークに好意的だ。
獣人と一緒は嫌、と言いそうだと思っていたと正直に伝えると、ヴィクトリアは、
「あら、わたくしの父は騎士団団長ですのよ? 先の戦では多くの獣人の方々と一緒に戦地に赴き、その縁で、今でも我が家の騎士には獣人が多くいますの。小さな頃から身近にいたのでなんとも思いませんわ」
と、なぜか自慢げに笑った。
「ですから、獣人だからといってどうこう思うところはないけれど……彼、何歳ですの? この身長だと、12、3歳くらいでは? 護衛として学園に伴うのはまだ早いでしょう」
「……ルークはこれでもわたくし達と同い年だけれど?」
エリザベートの言葉に、ヴィクトリアは紫色の瞳をカッと見開く。
「ええっ? こんなに小さいのに? うちの獣人の子供達はもっと背が高くて、10歳くらいでこのくらいの身長の子もいるくらいで……あなた、本当に16歳なの?」
「は、はい……」
「あらぁ……そうなの……なんだかごめんなさいね? 傷付けるつもりはなかったのだけれど……まあ、成長の早さは人それぞれですものね。そうだわ、うちの騎士達と会ってみたくない? 良かったら遊びにいらっしゃいな」
と、屋敷に誘ってくれる程の理解者だった。近いうちに、色々話を聞くために家に遊びに行く事になっている。
まあ、それはさておき。
「ねえリザ、話を戻しますけど、本当にお茶会を開くべきですわ。そして令嬢達の支持を得て、再びこの学園の女王に君臨するのですわ!」
「再びって……女王だと思った事なんて一度もないし、興味もないわ」
ため息交じりに首を振る。
「ルチア嬢に対抗する気も無いし、その必要性も感じないし」
「ええっ? どうしてですの!? レオンハルト殿下にあの女がベタベタするのを我慢し続けるおつもり?」
「我慢はしないわ。だってわたくし、レオンハルト様とは婚約破棄するから」
凄い勢いで詰め寄るヴィクトリアに、エリザベートが澄まして答えると、
「ハアッ!?」
「ええっ?」
ヴィクトリアだけではなく、それまで聞いていない振りをしてパンをかじっていたリアムも、思わず声を上げた。
大人しく過ごそうと思っていたエリザベートの思いとは裏腹に、赤、金、紫、オレンジの派手な集まりで結構目立っています。




