反省すべきは 2
「コホン……とにかく……」
咳ばらいをし、王太子の事から目の前の人物の話へ戻す。
「オリバー・カーネリアン様、あなたはヴィクトリア様を責めましたが、果たして、その資格があるのでしょうか。ご自身の行いは正しいものだと、自信を持って言えますか? そもそも、ヴィクトリア様が本当にルチア嬢に嫌がらせをしたかどうかは、はっきりしているのですか? わたくしだって、婚約者のいる男性と人目のない所で過ごすのはマナーに反すると苦言を呈しただけで、酷い嫌がらせをした事になっていましたわ。そうそう、あの時は、オリバー様もレオンハルト様や他の方々と一緒になって、わたくしを罵りましたわよね」
「当然の事だ! ルチアから聞いたぞ! お前はレオンと仲良くしているルチアに嫉妬して、妾の子と罵り、マナーがなってないと言い、突き飛ばしたそうじゃないか! ルチアは転んで怪我をしていた! それからヴィクトリアは、一年生の下級貴族の娘に命じて、インクを零したり、水をかけたりさせたそうじゃないか!」
「わたくし、生まれの事など言っておりませんし、彼女には指一本触れておりませんよ?」
そう言ってチラリとヴィクトリアを見ると、彼女は俯いたままだった。
(うーん……こちらは、やってるわね)
そう察しつつ、エリザベートはオリバーに視線を戻した。
「ヴィクトリア様の事はわかりません。ですがもし、オリバー様が仰ったような事をしていたとして、その原因は貴方でしょう? オリバー様がちゃんとしていたら、そんな事はしなかったはずですよね」
「なんだと?」
「もしかして彼女は、わたくしの姿に自分の姿を重ねてしまったのかもしれないですね。婚約者が別の女性に心を移したことにより、傷つき、死にかけていたわたくしと。自殺を図ったと噂されていたようですし、そうはなりたくないと思ったかもしれませんね」
(まあ、もう学園に来ないだろうから罪を被せてしまえ、と企んだのが正しいと思うけれど)
「……とにかくオリバー様、先ほどの件、謝罪して頂けますか?」
「なんだと!?」
「だって、オリバー様がわたくしに言った事は、本当の事ではなかったのですもの。ねえ、ヴィクトリア様?」
いくら可哀そうでも、この事はハッキリさせなければならないと、エリザベートはヴィクトリアに声をかけた。
「わたくしに命じられたというのは、嘘ですよね?」
「……は、はい……エリザベート様からは、何も、指示されておりません……」
「ヴィクトリア! よくもお前!」
「オリバー様? そちらの件は後にして下さい。わたくし、今日は先に職員室へ行かなければならないんです。時間がないので、早く謝って下さいませ」
微笑みながらそう言うエリザベートを憎々しげに見て、オリバーは『悪かった』とボソリと呟いた。
「オリバー様? そんなの謝罪ではありませんわ。きちんと謝って下さい!」
そう責めると、オリバーはクルリと背を向け、その場から離れた。
「エリザベート様、引き止めますか?」
オロオロするルークに、首を横に振る。
「あんな馬鹿は放っておきましょう。ここでワーワー騒がれるより、面倒がなくていいから。……ごめんなさいねルーク。初日の朝からこんな……驚いたでしょう?」
「いえ、あの、僕、何もできなくて……エリザベート様の護衛なのに……」
耳が横に倒れ、気落ちしているルークに、エリザベートは胸がキュッとした。
(あ~もう、なんて可愛いの! 礼儀作法の講習を受けて、自分の事は『私』と言うようになってたのに、動揺して僕って言ってるじゃない。可哀そうだけど、とんでもなく可愛いわ!)
「いいのよルーク。相手は貴族。わたくしの身に危険が及ばない限り、あなたは控えていていいの。さあ、行きましょう」
そう言って校舎に向かおうとしたが、
「エリザベート様!」
名前を呼ばれ振り返ると、ヴィクトリアの肩を抱いたリアムがペコリと頭を下げた。
「兄が失礼な事をし、本当にすみません。謝罪は改めて、きちんとさせていただきます」
「いいのよ。それに、あなたの責任ではないのだし」
「ですが……ヴィヴィちゃ……ヴィクトリア様の事も庇っていただき……」
ヴィクトリアは、ヒクヒクと泣いている。
「まあ……ヴィクトリア様とは、似たような立場だから……とにかく、気にしなくていいわ。それじゃあ、お先に」
こうして、ようやくエリザベートは校舎へ向かう事ができた。
オリバーの弟は良い子。




