真実は
登校してきた生徒達が何事かと足を止め、人だかりができ始める。
「オリバー様、そんな嘘の情報を本当だと思い込み、わたくしの名誉を傷つけるなんて、騎士となる方のする事とは思えませんわ。しかもわたくしが、ルチア・ローズ嬢に嫌がらせをしたですって? 婚約者のいる男性と2人きり、人目の無いところで時を過ごすのは、はしたない事だと教えてさしあげただけです。レオンハルト様もオリバー様もそうは思わないようですが、これは一般的な考えですわ」
「…………」
憎しみのこもったオレンジ色の瞳にゾッとしたが、それでも、エリザベートはグッとお腹に力を込めて視線を外さず続けた。
「それに、なんですか? 休んでいる間も他生徒にルチア・ローズ嬢をいじめさせていた? やめて欲しいですわ、そんな言いがかりをつけるのは」
「言いがかりじゃない!」
怒鳴るような大きな声に思わずビクッとしてしまい、後ろに控えていたルークがもう一度、間に入ろうとしたが、エリザベートは小さな声で『大丈夫よ』と制した。
「オリバー様がそんなにきっぱりと言い切るのには、何か根拠がおありでしょうか」
「勿論だ! 証人がいる。ヴィクトリアが、お前に命じられてルチア嬢に嫌がらせをしたと認めている」
「ヴィクトリア……ヴィクトリア・アメジスタ侯爵令嬢ですか?」
「ああ、そうだ!」
「そうだ、って……」
その『どうだ!』とばかりに勝ち誇った顔に、エリザベートは困惑する。
(ヴィクトリア・アメジスタ……わたしと同じ2年生で、お父上は第一騎士団団長のアメジスタ侯爵様。そして……)
「オリバー様の、婚約者ですよね?」
「ああ、そうだ!」
(そうだ、って……この馬鹿男……)
頭が痛いような気がして、思わずこめかみを押さえてしまう。
「あの……オリバー様? 貴方の婚約者がルチア嬢に嫌がらせをしていたと、そんな事、こんな人目がある場所で声高に仰る事ですか?」
「なんだと!?」
(やだ、こっちが心配して小声で言ってあげているのに……オリバーってこんな馬鹿だったのね。ゲームでは裏表なくて実直で情熱的でカッコいいと思っていたけれど……生は苦手なタイプだわ……)
「婚約者であるヴィクトリア様の事を思ったら、このような派手な行動は控えるべきかと……」
「ヴィクトリアはお前に命じられてやったと言っている!」
「わたくし、そんな事命じておりません」
「嘘をつくな!」
「嘘ではございません。ヴィクトリア様とは同じ学年ですが、それほど親しくはございません」
「親しくしていなくても、公爵令嬢だから、いや、王太子殿下の婚約者という事を笠に着て命じたのだろう!」
「いいえ、そんな事しておりません。わたくしが静養中、誰一人見舞いに来ませんでしたし、手紙の一通も受け取っておりません。そしてわたくしも、学園の方とは全く連絡を取っていなかったのに、どうやって指示を出していたと?」
「なっ……それは本当か!」
「ええ、本当です。我が家の執事に確認して頂いて結構ですわ。……皆様、わたくしとは関わり合いにならない方が良いと判断されたのでしょうね」
「くっ…………ヴィクトリアっ!」
ビリビリと、空気が震えるような大声でオリバーが叫ぶ。
ビクッとしたエリザベートの両肩を、ルークが掴んで支える。
「エリザベート様、大丈夫ですか?」
「え、ええ。そろそろ行きましょう」
自分は関係ないと判断されたようなので、その場から離れようとしたエリザベートだったが、騒ぎを見ている大勢の生徒達の中の、一人の女生徒に目がとまる。
「あ……」
肩に触れるくらいの短めの、紫に輝く細かな縦ロールのゴージャスなその姿に、親近感を覚える。
(ヴィクトリア・アメジスタ……彼女も悪役令嬢なのよね、オリバールートで出てくる。……悪役令嬢が縦ロールって、お約束ね)
両手を胸の前で握りしめ目を見開いでいる姿に、胸が痛くなる。
(彼女、悪役令嬢らしく勝気な性格なはずだけど……こんなに怯えてるなんて……)
「ヴィクトリア! どういう事だ! エリザベートに言われてルチア嬢に嫌がらせをしたと言ったのは、嘘だったのか?」
「そ、それは……」
嘘じゃないと言いたいだろうが、本人がいる前でそんな事は言えず、ヴィクトリアは言い淀み、カタカタと震えるばかりだ。
「一体どういう事かと聞いている! さっさと答えろ!」
ツカツカと歩み寄ったオリバーに手首を掴まれ『ヒイッ』と悲鳴を上げたヴィクトリアをそのままにしてはおけず、エリザベートは二人の元に近づいた。
オリバー……もっと考えて行動しないと……。




