奴隷を買いに
公爵との対面で、言いたい事は言った。
(はー、あまりにも腹が立って黙っていられなかったけれど……勘当されなくて良かった)
いずれ勘当されてもいいが、今はまだ早い。独立資金を貯めてからでなくては路頭に迷ってしまう。
(まあ、あれだけ言えば、婚約破棄も退学も前向きに検討してくれるでしょう。それにしても、なにか渡せって言ってたわね、何かしら。日記にはそれらしい記述は無かったと思うけれど……まあ、そのうち思い出すかもしれないわ。それよりも、今日はいよいよ奴隷商に行くんだから、そっちに集中よ!)
アメリアに良さそうな奴隷商を調べてもらい、念願かなって本日見に行く事になっているのだ。突然の呼び出しがあって遅れたが、時間的には余裕がある。
「アメリア、馬車の用意はできている?」
「はい、お嬢様。お忍びという事で公爵家の紋章の入っていない馬車を手配しておきました。ですが……本当に奴隷商に行くのですか?」
「もちろんよ! 魔法契約で絶対にわたくしを裏切らない護衛。これほど信頼できる者はいないわ」
「ですが……」
「まあ、今日はどんな感じか見るだけよ。いくらぐらいで買えるのか知りたいの」
「……かしこまりました、お供致します」
張り切るエリザベートと不安げなアメリア、二人はこっそりと公爵家を出た。
王都に奴隷商は複数あるが、今回向かったのは、王都で一番の老舗で信頼のおけるゴーディ商会だった。店は街の中心から少し離れている、貴族や金持ち向けに高級品を扱う大きな商会が立ち並ぶ一画にあった。
「私共の店は扱っている商品の質が良く、魔法契約も強力でご安心いただけます」
豪華な応接室で対応する商会長のアーネスト・ゴーディは、仕立ての良い服を着た上品な初老の人物だった。
「ですが、お嬢様のようなお若い方が奴隷をお望みになるのはこれまでの経験でもあまりなく……どういう商品をご希望か、お伺いしてもよろしいでしょうか?」
品の良い所作と穏やかな口調だが、眼光の鋭さに奴隷という特殊な商品を扱う人物の凄味を感じ、エリザベートは心を落ち着ける為に、出されたお茶を一口飲んでから口を開いた。
「実はわたくし、色々あって疑心暗鬼になっているのです。それで、魔法契約で絶対に裏切らない、わたくし専用の護衛が欲しくて」
「護衛、ですか」
「ええそうです。わたくしが求めるのは、男性でも女性でも構わないので、ある程度戦える人物です。そういう奴隷の値段はいくらくらいなのか知りたくて伺ったのですが」
「なるほど……かしこまりました。ご希望に合いそうな奴隷は数名おります。値段はその者の容姿や能力でだいぶ違いますので……ご覧になってみますか?」
「そう、ですね……今日は買わないかもしれませんが、それでも良ければ」
「勿論構いません。では、準備致しますのでこちらでお待ちください」
そう言ってゴーディは部屋を出て行った途端、後ろに控えていたアメリアが『はぁ』と大きく息を吐くのを聞き、エリザベートは少し首を回して微笑んだ。
「さすがに、緊張するわね」
「あっ、も、申し訳ございません」
「いいのよ。わたくしだって緊張したわ」
苦笑し、それでも『大丈夫よ』と自分にも言い聞かせるように言う。
「ここは老舗の大商会で、きちんとしているもの。アメリア、間違いのない所を探してくれてありがとう」
「いえっ、とんでもない事でございます。お嬢様のお役に立てたのであれば、嬉しいです」
そんな会話をしつつしばらく待っていると、ゴーディが戻って来て『準備が整いました』と告げた。
「ではお嬢様、こちらへどうぞ」
促され、少し緊張しながら後を付いて行く。
「私共では、お客様同士が顔を合わせないように奴隷を見ていただいておりまして、ご希望に合うような者を選抜して用意いたしました。今回は男性のみとなっております」
「女性がいる事も?」
「稀にですが。女性には、強さではなく美しさを求められるお客様が多いものですから。勿論、ご要望を伺って探す事は可能です。ただし、少々時間をいただきます」
「そうですか」
そのうち、一つの扉の前にたどり着いた。
「こちらです。お嬢様には少し不快な空間となるかもしれませんが、ご了承いただけますでしょうか」
「ええ、心して参りますわ」
その返答で扉が開かれると、冷たい空気が流れ出て来た。
ドキドキ!




