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【書籍化】悪役令嬢の無念はわたしが晴らします  作者: カナリア55
第四章

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幸せな日 2

 薄暗い中、揺らめく炎と甘い香りに、少しまぶたが重くなりながらベッドの端に腰かけていると、扉がノックされ、青いガウン姿のルークの姿が見えた。

 エリザベートと同じように中の様子を見て驚き、後ずさりをする姿に苦笑しながら、手招きをする。


「えーと、これって……」

「驚いたでしょう? わたくしも驚いたわ。皆が色々準備してくれたみたい」

「そ、うですか……」


 緊張の面持ちで、エリザベートの前に立つルーク。


「……とりあえず、座らない?」

「は、はい……」


 ポンポンとベッドを叩くと、ルークはギクシャクとした動きで隣に座った。


「わたくしが、ルークが騎士になったら結婚すると言っていたし、今日から一緒に暮らすから……皆、今日が記念すべき日だと思ったようで……でも別に、そうする必要は無いのよ、ええそう、別に……」


 早口で言いながら隣に座るルークを見て、バッと視線を外す。


(……駄目だわ、意識してしまう。薄暗いのと蜜蝋と花の香りで良い雰囲気だし……)


「別に……そう、別にいいのよ普通に眠れば!」

「えっと……ベッドの上が花びらだらけですが……」

「気にしなくていいの! 中に入ってしまえば関係ないんだから! さあ、寝ましょう! 今日は朝から忙しかったから、疲れたわ!」

「はい、エリザベート、さ、ま……」

「? どうかした?」

「そ、そのっ……服が……」

「服? 服……ひゃ――っ!」


(忘れていたわ! マダム・ポッピンの初夜用ナイトドレス!)


 ためらい無くガウンを脱いでしまった事を後悔し、あたふたするエリザベートだったが、薄暗い中でもルークが真っ赤になっている事に気づき、少し余裕と欲が出る。


(確かに記念すべき日だし、こんなに素敵で手の込んだ夜着なんて、今日くらいしか着ないでしょう。だったら、ちょっと見て欲しいかも……)


「えーと……マダム・ポッピンが、今日の為に作ってくれたって……リアンヌが編んでくれたレースとか王妃殿下にいただいた羽とか使ってくれていて、特別な……」

「……は、はい……とても、素敵ですけど……」

「けど?」

「その……ドキドキして、まともに見れないです……」

「でも、ルークに見てもらうためのものなのに」

「えっ?」

「だって寝室用ですもの。ルーク以外には見せないわ」

「あ、そっか……はい、それじゃあ!」


 そう言って正面からしっかりとエリザベートに向き合ったルークだったが、すぐに口元を手で覆って横を向いてしまう。


「やっぱり無理です! 刺激が強すぎます!」

「でも、もう夫婦なのだから……そう、話し方も、もっと砕けたものにして欲しいわ。名前も様を付けないで呼んで欲しいし」

「え、でも……」

「すぐにじゃなくてもいいわ。でも、少しずつ……まずは、様を付けないで名前を呼んでみて」

「え? 今、ですか?」

「そう、今。ねっ、お願い」

「え――……」


 期待を込めて見つめてくるエリザベートと、ルークは少し距離を空けようとずれたが、すかさずその隙間を埋められ、ピッタリとくっつかれてしまった。


「え――、えーと……そのぉ……」

「エリザベートと呼びにくいのであれば、愛称でもいいわ。リザとか」

「リ……リ……、いえっ! やっぱり……エリザ、ベート……さ、ま」

「……もおっ!」


 思わず笑いながら、エリザベートはルークを見た。


「どうして様ってつけてしまうの?!」

「だっていつもそう呼んでいたので」

「もう一度やり直し!」

「エ、リザベート……」

「はい!」


 嬉しくなったエリザベートはルークに抱きつき、その勢いで二人はベッドに倒れ込んだ。

 

「エリザベート……」


 もう一度名前を呼んだルークに覆いかぶさるようにし、エリザベートは口づけをした。

 最初は戸惑っていたようだったルークも、エリザベートの背中に腕を回し、ギュッと抱きしめた。

 しばらくの間、二人はそのまま抱き合っていたが、


「……これ……引っ張ると、すぐに解けるのだけど……」


 背中に回されたルークの手を取り、胸元のリボンへと誘導した。


「あ……でもその、ちょっと……」

「……嫌?」

「嫌ではないです! でも……心の準備が……」


 困ったようにそう言われ、エリザベートの浮かれた気持ちがシューッとしぼんでいった。


「じゃあ、いいわ。別に、急ぐ必要は無いのだし」


 ため息をつき、コロリとルークの上から降りる。


「……すみません」

「謝らないで。別にルークは悪くないし」

「でも……」

「ちょっと残念なだけ。さっ、寝ましょう」


 そう言いルークに背を向けたが、無性に寂しくて悲しくなってきてしまった。


(ああもう、嫌だわ。一人で浮かれちゃって)


 鼻の奥がツンとしてきて、スン、と軽く鼻をすすり上げた時、


「エリザベート様?」


 急に肩を引かれて仰向けにされると、目の前には、慌てたようなルークの顔があった。


「え、なに? 急にどうかした?」

「エリザベート様が……泣いているのかと……」

「……ルークと気持ちが違いすぎて、少し悲しくなったのよ。でもルークが悪いんじゃないわ。わたくしが勝手に悲しくなっただけだから、気にしないで」

「そんなの無理です、気にしないなんて」

「それならせめて、抱いていて。寂しくないように」

「えっと……それは……」

「それも駄目なの? 抱きしめてももらえないなんて……わたくしはルークと夫婦になるのを楽しみにしていたのに!」

「それはもちろん私も」

「嘘よ! 心の準備がって、さっき言ってたじゃない」

「嘘ではありません……いや、そう思われても、仕方ないですが……」


 ルークはもぞもぞと起き上がり、ベッドの上に正座した。


「……エリザベート様の事が大好きで、口づけだってしたいし、それよりもっと近づいて、くっついて、抱きしめたいです。でも、私なんかがそんな事をしていいのかって、未だに考えてしまって……その心の準備が出来ていないんです」

「……わたくしが、望んでいても?」

「そう、ですよね……エリザベート様が、望んでくれているのだから……」


 そうは言いつつも、ルークの表情には惑いが見られた。


「……愛しているからといって……簡単にはいかないものなのね……」


 身を起こし、ルークの頬を撫で、エリザベートはルークに顔を近づけた。


「……口づけは、いいかしら」

 

 そう尋ねると、コクリと頷いたルークの方から唇を重ねた。

 

「……でも、愛しているのは本当です。ずっと前から、愛しているという気持ちは変わらないし、どんどん大きくなっています。……愛しています、エリザベート様。本当に、心の底から。何も考えずに僕のものにしたいって、何度も思いました」

「いいのに、そうしてくれて。わたくしだってルークを愛していて、ルークと共に生きていく為に、ずっと頑張ってきたのだもの」

「僕もです……」


 そう言うと、ルークはエリザベートを見つめて言った。


「……エリザベート……約束します。一生貴女だけを、愛し続けます」

「わたくしもよ、ルーク。一生貴方を愛し続けるわ」


 そうして、二人はお互いをしっかりと抱きしめた。



次話、エピローグです。(→実は、この続き書いてました)(→そして駄目で削除しました。すみません!)

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