月日は流れて
王立クリスタル学園の卒業パーティーが開催されている大ホール。
そこに、着飾ったエリザベートの姿があった。
身に着けているのは、騎士の制服のデザインを取り入れたドレスである。白をメインに、襟や袖の折り返し、胴部分には金糸の刺繍が入った赤のシルクが使われている。金ボタン、金の飾り紐も使い、豪華な仕上がりで、もちろんパートナーのルークとお揃いで作ったものだ。
隣りにいるヴィクトリア、リアムの二人も同じデザインで、オレンジに銀糸の刺繍、銀ボタン、銀の飾り紐を使っている。
「リザ様もヴィヴィ様も、とっても素敵です! ドレスに騎士服のデザインを入れているのに、まったく無骨でなく、華やかです!」
「リザの発想なのよね。最初言われたときは驚いたけれど、完成したら本当に素敵で。わたくし、とっても気に入ったわ」
「わたくしもこれほど素敵に出来上がるとは思っていなかったわ。マダム・ポッピンに感謝ね。それに、クリスのドレスも素敵よ。ザカリー様のローブと合わせて作った、このドレス」
「こんなに素敵なドレスとローブ、卒業祝いに頂いてしまって良かったのでしょうか……本当にありがとうございます」
「宣伝にもなるからいいのよ」
「そうよ。わたくしとリアムの衣装も頂いたわ。それにしてもこのドレス、クリスによく似合うデザインね。胸の下に切替をもってきて、そこから薄い布を重ねてふんわりさせたスカート。そして肩からスカートと同じ生地をローブっぽく付けているのが素敵だわ。ブルーグレイなんて色、しっかり着こなして……大人になったわねぇ、クリス」
「学園卒業ですから。わたしも少しは大人っぽくなれたようです」
「もうすぐ、ザカリー様と結婚ですものね!」
「……そういうエリザベート・スピネルも、ルークとすぐに結婚するのだろう」
黒のローブの裏に、クリスティーナのドレスに使っているブルーグレイの薄布を縫い合わせ、袖口や襟元、合わせや裾からその色がさりげなく見えるローブ姿のザカリーが無表情で言うが、実は照れている事がわかり、ヴィクトリアとちょっと目くばせをして笑いながら、エリザベートは笑顔で答えた。
「ええ、書類は既に出したんです。ねえ、ルーク」
「はい。今日から新居の方で生活です」
「ああ、いいわねぇ、リザもクリスも結婚できて。一番早くから婚約していたわたくしとリアムの結婚はまだ先だというのに」
「ごめんね、ヴィヴィちゃん。でも騎士になったばかりですぐ結婚というのは……少しだけ待ってね」
「まあ、いいわ。リアムとは一緒に暮らしているのだから、結婚しているのとそう変わりはないですもの」
そんな事をワイワイ話していると、楽団の演奏の音が大きくなった。
「あら、盛り上がってきたようね。リアム、踊りましょう」
「そうだね、ヴィヴィちゃん」
「それじゃあわたくし達も踊りましょう」
「はい、エリザベート様」
「……一曲くらいは踊るか」
「はい! お兄様!」
それぞれのパートナーと手を取り合い、ダンスを始める。
今日は、ルーク、リアム、クリスティーナ、ダニエルの卒業式、そして卒業パーティーだ。
前年に卒業したエリザベートとヴィクトリア、そして教師を辞めたザカリーは、それぞれのパートナーとして卒業パーティーに参加中だ。
この2年で、いくつかの変化があった。
まず、ルークだが、彼は奴隷ではなくなり、クリスタル学園の騎士課2年生として学び始めた。それまで実技授業に参加していたし、剣の実力でいえば、3年生にも引けをとらない程だったので許可が下りたのだ。もちろん、王妃からの推薦があった事も理由の一つで、卒業したら王妃から騎士の叙任を受ける事が決まっている。
リアムの実家のカーネリアン家は、王都から領地へと拠点を移してしまった。嫡男のオリバーがルチア・ローズの失踪に関わった為、責任を取ったのではと推測されたが、公的な発表はなかった。次男のリアムは婚約者のヴィクトリア・アメジスタの家の世話になる事になった。卒業後は、国の騎士団に所属する事が決まっている。
ザカリーはオニキス侯爵家を継ぐために教師を辞め、現在は次期当主となるべく侯爵家の事業の勉強中である。新しい魔道具も発表し、注目を集めている。
エリザベートは卒業後、商家が多い地域に大きな屋敷を構え、そこにマダム・ポッピンの仕立工房を移転させ、菓子店もオープンさせた。王妃が贔屓にしている事もあり、新しいながら、今王都で一番注目される人気店である。
これまでは公爵家と自分の屋敷を行き来していたが、ルークの卒業を機に結婚し、完全に自分の屋敷で生活する事になっている。
「皆さん、とても素敵なダンスでした!」
曲が終わりフロアの端の方へ戻ると、ダニエルが大きく手を叩きながら笑顔で迎えた。彼の隣には良く似た、人の良さそうな笑顔の中年男性が並んでいた。
「本当に素晴らしいダンスでした。特にその新しいドレス! マダム・ポッピンの新作ですね? この後また、大流行しますな!」
「そうだといいのですが。アウイナイト様、先日は素敵な家具をそろえていただき、ありがとうございました」
「いえいえ。エリザベート様の新居の家具を任せていただき、光栄でした。お気に召していただき、本当に良かったです」
にこやかに話す二人の横で、リアムがダニエルに小声で囁く。
「なんで卒業パーティーのパートナーが父親なんだよ。ダニエルに誘ってもらいたがっている女子が沢山いただろう?」
「商人とは、そういうものなのですよ。高貴な方々が一堂に会するこのパーティーは、お客様を増やす絶好のチャンスですからね」
「はー、なるほど……しっかりしてるなぁ、ダニエルは」
「アウイナイト商会の次期会長ですからね。あ! お久しぶりですオニキス先生! 先生の魔道具、注目の的ですよ! 新製品はまた是非うちの商会に! それにエリザベート様! いただいたレシピで作ったクッキーの売り上げもいいですよ。そろそろ新しいレシピも頂けたら嬉しいのですが」
「商談は後でね」
「あっ、そうですね、すみません」
ダニエルはヘヘッと笑いながら頭を掻いたが、
「あっ! エドワード様とテオール様だ! お久しぶりです!」
近づいて来る二人にいち早く気づき、頭を下げる。
「久しぶりだね、皆」
「本当にお久しぶりですわね。お二人とも、忙しいのではなくって?」
エリザベートが尋ねると、エドワードが肩をすくめた。
「忙しいよ、物凄く。でもテオールが是非にって」
「忙しさを解消するために、優秀な卒業生を勧誘する為に来たんだ。城は今、優秀な人材が不足している。生徒会役員だったお前達も薄情者ばかりで、卒業後に来てくれるのはリアムだけだからな」
そう言われ、リアム以外の皆が気まずそうに視線を逸らす。
「だってわたくしは、自分の店があるから……」
「わたくしはリザのお手伝いと花嫁修業があるもの」
「わたしはお兄様の研究の助手を……」
「私は騎士になったら、城に仕える事になるかと思いますが……」
「僕は父について商会について学ばないと」
「そうか、ルークは可能性があるな。ところでダニエル、少し城で働いてみてはどうだ? 人脈づくりは、商人にとって大切な事だと思うが?」
テオールの誘いに、ダニエルが目を丸くする。
「え? それは確かに……ですが、僕なんかがお城で働くなんて……」
「いやいや、ダニエルなら大歓迎だよ! 私の権限で即採用だ。ねっ、テオール」
「ああ。是非とも私の下で働いでもらいたい」
「テ、オール様の……うう……厳しそうですね……でも確かにいい話だし……父さん、どうしよう」
「そんなの、受けるに決まっているだろう! 是非お願いします、エドワード殿下、テオール様」
「もちろんです! 数年でお返ししますので」
そう言いながらもこっそり、ニヤリと笑い合うエドワードとテオール。
(あらあら、大変そう。でも、ダニエルならきっと大丈夫ね)
盛り上がる仲間達の中で一緒に楽しく時を過ごしながら、エリザベートは隣に立つルークの腕に自分の腕を絡め、改めて言った。
「卒業おめでとう、ルーク」
おめでとう!




