謝罪と礼は、どのように
「本当に、二人には迷惑をかけたわ。それで、この事に対する謝罪と礼をしたいのだけれども、それぞれ、何か希望はあるかしら」
「とんでもない事でございます! お気になさらないで下さい」
慌ててエリザベートは言った。
「殿下は前王妃殿下との約束を大切にされただけの事です。お二人の絆と、最近まであまり交流をもっていなかったわたくしとでは、優先されるべきは当然前王妃殿下かと。その事に対し、わたくしは何の不満もございません」
「でもわたくしとしては、素晴らしいお菓子のレシピを教えてもらったのに、このような裏切り行為が本当に申し訳なく恥ずかしく……反省して、お菓子を作らせていなかったの。まあそのせいで、卒業パーティーで我慢できずにお菓子をたくさん食べてしまったわ。そんなわたくしの行動で、いつもは甘い物を食べない人達の注目も集めてしまってお菓子が足りなくなったと、エドワードに叱られたわ。あの時はごめんなさい」
そう言って、肩を落とす王妃。
「ああ……本当に、お気になさらず……どんどん作って下さい」
「そう言ってくれるのなら、是非何か償わせてちょうだい。そうしてもらえると、わたくしの心も軽くなるし」
そう言われては、何か希望を言った方が良いと思うが、
「……すぐには、思い浮かばないのですが……」
エリザベートの言葉に、ルークもコクコクと頷く。
「そうね、では後でいいから教えてちょうだい。できるだけ希望にそえるようにするから」
「かしこまりました」
そうエリザベートが頷くと、王妃はホッとしたように微笑んだ。
「ふう……これで、少しは気が楽になったわ」
「それは良かったです。では、新しいお菓子をご紹介致します」
「!」
目を大きく見開く王妃の前に、ルークが箱を置き、蓋を開けた。
「これは!?」
「フルーツ・タルト、でございます。バター、卵、小麦、砂糖で作った生地を器に見立て、クリームを詰めて上に今が旬のフルーツを飾りました」
「まあっ! なんて美しいの!? サーシャ、早くこれを皿に! 紅茶も新しい物を!」
「かしこまりました。……殿下、少し落ち着いて下さいませ」
「えっ? あ、ええ、そうね、失礼」
乳母だったという侍女長に注意され、慌てて取り繕う王妃が、自分とそう変わりなく思え、エリザベートは思わず笑ってしまった。
「タルトは砕けやすく食べ辛いという難点がございますが、上にフルーツを飾る事によって、とても美しい見た目にできます。卒業パーティーのお菓子は、味は良くても華やかさが足りなかったので、見た目が良い物を、と考えて作りました」
「本当に美しいわ。……んんっ! 美味しい! サクッ、ホロッとした生地は、クッキーと似ているかしら。甘くて
コッテリとしたクリームに、果物の酸味が良く合うわ」
「お口に合って良かったです。これならパーティーで人目を誘うと思います。それと、シュークリームを鳥の形にするとか、クッキーに装飾を施すとか、そういう事も考えて試作をしておりますので、近いうちにご報告したいと思います」
「まあ! もう貴女、わたくしにどれほど恩を売るつもり? でもありがたいわ、本当に」
上機嫌の王妃と一緒にタルトを食べながら、話をする。
「ここだけの話、ちょっと聞いてみたいのだけれども……エリザベート嬢は、王太子妃にはなりたくないと望んだでしょう?」
「はい、恐れながら、そのように望んでおります」
「それは、レオンハルトとは、という事かしら」
「ええと……さようでございますが……」
どういう事を問われているかよくわからず、エリザベートは曖昧に返事をしたのだが、
「いえね、相手がエドワードであればどうなのかと思ってね?」
「エドワード様、ですか?」
「そう。現時点で、王太子はエドワードになる事が濃厚だわ。そして、エリザベート嬢が承諾してくれるのであれば、エドワードを支えてもらえると本当に心強いのだけれども」
(ああ、なるほど、そういう事ね。それならば)
「畏れながら王妃殿下」
これはハッキリ言わなければと、エリザベートは姿勢を正した。
「わたくしは、ここにおりますルーク・ゴールドを伴侶として、人生を共に歩みたいと思っております」
「まあ!」
驚き、王妃はエリザベートとルークを交互に見た。
「まあまあまあ、まあ! いつからそういう事に?」
「先日の、レオンハルト様との事があった際にルークに助けてもらい……その時に自分の心に気付きました」
「あらまあ……そうだったの……それではしかたがないわねぇ、残念だけれど……」
本当に残念そうにため息をつく王妃。
「エリザベート嬢が王太子妃になってくれたら、エドワードも心強いと思ったのだけれど……そんなの、虫のいい話よね。エリザベート嬢には、王家は愛想尽かされて当然だわ」
ぼやく王妃に苦笑するエリザベートだったが、
「まあ、ルチア・ローズに子ができていなかったのは幸いだったわね。婚約者がいるのに、別の女性との間に子ができて、しかもその女性が騒動を起こしたとしたら、事はもっともっと複雑になっていたでしょうから」
その言葉に、何か引っかかるものを感じた。
「婚約者がいるのに、別の女性に子供が……」
「あらわたくしったら、無神経な事を言ってしまったわね、ごめんなさい」
「あ、いえ、本当に、仰るとおりです」
(そう、本当にそうよね……色々問題になるわ……そう……)
「とにかく、後はわたくし達がしっかりとやっていかなければね。いつまでも貴女を頼りにしてはいけないわ」
「……王太子妃になる事はできませんが、それ以外では、アレキサンドライト王国の為に尽くしたいと思っております」
「ありがとう。そう言ってもらえると、本当に心強いわ」
(そう、問題になるのよ。それで……)
「ところで、スピネル公爵は彼との事を知っているのかしら?」
答えながらも、さっき感じた引っかかりを考えていたエリザベートは、ハッとして王妃を見た。
「いえ、まだ何も言っておりません」
「あらそうなの? う~ん、あの公爵が、許可するかしら」
「許可されない場合は、公爵家を出ようと思っておりますので」
「あらまあ」
「もちろん、許可されるよう努力はするつもりですが……あ! 王妃殿下、お願いしたい事を思いつきました!」
「まあ、それは良かったわ。何かしら?」
「ルークを、騎士にしていただけないでしょうか?」
「えっ?」
「ああ~、なるほど」
エリザベートの言葉に、ルークは驚き思わず声を上げ、王妃は大きく頷いた。
アレキサンドライト王国で騎士になる方法はいくつかあるが、学園の騎士課で学び、卒業後に仕える主人に叙任される事が多い。
学園には入らず、騎士見習いとして始め、叙任される場合もある。
ルークの場合は公爵家の騎士団で学びつつ、主人であるエリザベートが『ルークをわたくしの護衛騎士にするわ』と決めただけで、正式な騎士ではない。
(なんせ、奴隷だし。でも)
「ルークを奴隷身分から解放し、正式にクリスタル学園の騎士課で学ばせますので、卒業後に王妃殿下に騎士と認めていただきたいのです」
「なるほどね。わたくしの命を救った実績があるのだから、問題ないわ」
「ありがとうございます」
ルークがオロオロしている間に女性二人は話をまとめ、互いに満足して会は終了した。
タルトは、一口大にしようとフォークを突き立てると、皿の外に吹っ飛んでいく場合があります。




